林 明文 著
ダイヤモンド社刊 1,500円+税

 本書には新しく知ることが多い。読み始めると第1章のタイトルに「人事は遅れた分野」とある。一般社員から見て人事は遠く捉えがたい部署であり、しばしば「奥の院」と称されることがある。権力を持っているのだが、その権力が見えにくい。なぜ見えにくいのか?
企業の人事力~人事から企業を変革させる~
本書を読んで、人事は感覚的であり、可視化が遅れた分野と知った。現代の人事部門は年功序列的人事制度による人件費の高騰、平均年齢の上昇による職場の沈滞、髙業績者や若手の離職という現代病を抱えている。これらの多くは過去から発生している問題だ。
 過去には問題でなかったが、経営環境が変化して問題化した。しかし今の人事部門では十分な対応ができない。そこで人事部長を人事内部から昇格させない企業が増えているそうだ。営業部門などの第一戦で活躍した人材を人事部長に据えることが多い。大規模なリストラを実施する企業ほど、この傾向は強いと著者は指摘している。

 日本企業の人事施策が驚くほど非効率で非合理な例として、著者は“2:6:2的発想”に基づく人事管理を挙げている。「優秀な社員」「標準的な社員」「優秀でない社員」が2:6:2の割合にする人事管理だ。自然現象の出現頻度でも、真ん中に山がある正規分布が起こる。
 2:6:2の法則は一見もっともらしいのだが、著者は異を唱える。社員の本当の評価は、1:8:1の企業もあれば、3:6:1の企業もあるはず。ところが人事の評価表がS・A・B・C・Dの5段階評価になっており、Aがもっとも多く、CやDがないと4:6:0になってしまい補正の必要が出てくる。その補正のモデルとして2:6:2が使われるのだ。そしてA評価の社員を強制的にCやDにしなくてはならない。降級評価された社員は納得できないはずだ。
 この問題の原因は「評価者が適正な評価を行わないこと」と、「経営者や人事がそれを許していること」にある。要するに人事が遅れているのだ。著者は「社員の評価は、能力にせよ業績にせよ、絶対的な尺度で測定すべき」と論じ、「相対評価か、絶対評価か」というありがちな議論を一刀両断している。
 原文を引用しよう。「企業が求める能力や行動、職務、業績などの基準に対する絶対的な評価でなければ、”測定”としての機能は果たせないはずです。またそうでなければ、評価の結果を育成につなげることもできないでしょう」。絶対評価が評価の大原則である、という著者の主張は正論だ。

 人事常識の盲点を突く指摘が本書の特徴だ。「自律型人材」はグッドイメージで語られることが多いが、その意味は「早期退職も視野に入れてよく考えてください」「察してください」という意味だと著者は書いている。
 ワークライフバランスについては、過去のホワイトカラーよりも「働き方が甘くなった(過保護になった)」と書いている。著者の指摘は、人事施策を立案・実行する際の具体的な指針を提供している。
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