ビジネス界隈で注目を集めている生成型AIチャットサービス「Chat GPT(チャットGPT)」。新たな技術の台頭により、「AI時代に求められる能力とは何か」という議論もにわかに熱を帯び始めています。

本著において、筆者はその1つが「創造力」であると解説しています。連載第1回目では、創造力には3つの重要な要素があると紹介し、そのうちの1つ目「潜在的な課題やニーズを捉える力」について詳細を説明しました。この第2回目では、2つ目の要素「つなぎ合わせる力」について詳しく解説していきます。

第1回から読む▶第1回:AI時代の人材に求められる「創造力」の3つの要素
第2回:AIが苦手な【つなぎ合わせる力】とは
永井 翔吾
著者:

VISITS Technologies株式会社 エグゼクティブ・ディレクター 永井 翔吾

1986年生まれ、埼玉県出身。2012年大学院法務研究科を修了し、同年、司法試験と国家公務員総合職試験に合格。2013年経済産業省に入省。主に、知的財産政策や法律改正業務に携わる。その後、ボストン コンサルティング グループに入社し、大企業の新規事業立ち上げや営業戦略等のプロジェクトに従事。2016年、VISITS Technologies株式会社にジョインし、代表の松本氏からデザイン思考のメソッドを学ぶ。現在は、デザイン思考テスト事業の責任者。
VISITS Technologies株式会社

つなぎ合わせる力

「創造力」で重要な2つ目の要素は、つなぎ合わせる力です。

多くの方は、「創造力」と聞くと、無から有を生み出すような難しいものだという印象を持っているのではないでしょうか。しかし、実は、これまで生まれてきた新しいサービスは、既存のものを組み合わせることによって生まれています。例えば、ルネサンスの三大発明の1つであるグーテンベルクの活版印刷機は、それまでの印刷技術とぶどうの圧搾機を組み合わせることによって生み出されました。また、ヘンリー・フォードは、精肉加工場でコンベヤーに吊るされた肉塊が切られていく様子を見て、T型フォードの組立コンベヤーラインを作り上げました。

また、アルベルト・アインシュタインは、思索をする際には、言葉や論理や数学を使うのではなく、アイデアを記号化・シンボル化した上で、頭の中で色々な方法を組み合わせました。そして彼は、それを「組み合わせ遊び」と呼んだと言われています。かのスティーブ・ジョブズも「創造力とは、いろいろなものをつなぐ力だ。一見すると関係のないように見えるさまざまな分野の疑問や課題、アイデアやひらめきを上手につなぎ合わせる力だ」と言い切っています。

加えて、経済学者のヨーゼフ・アイロン・シュンペーター教授は、イノベーションの概念を示すために“新結合”という言葉を使いました。そして、それを踏襲したクレイトン・クリステンセン教授も、イノベーションを「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」と定義しました。こうした有名な学者や教授たちがイノベーションを新結合と考えていたことに照らすと、色々なものを繋ぐ力が創造力には不可欠であると言って差し支えないでしょう。

具体的に「何を」つなぎ合わせるのか

上記で見た通り、「創造力やイノベーションにはつなぎ合わせる力が必要だ」ということは、よく言われていることです。ここでは、もっと踏み込んで考えていきます。

すなわち、つなぎ合わせることが大事なことだとは分かったものの、はたして「何を」つなぎ合わせればいいのでしょうか。世の中には無限の物事があるので、それを闇雲に繋ぎ合わせても終わりがありません。実際にインターネットなどで調べてみると、新結合によって生まれたサービスなどがたくさん紹介されています。しかし、なぜそれを結びつけたのか、日頃からどのような点に気を付けているとこの新結合を起こすことができるのか。そうしたところまで具体的に語られていることは、ほとんどありません。
 
結論から申し上げると、この繋ぎ合わせパターンの“最大公約数”になる組合せは、『「課題(ニーズ)」×「解決方法」』の図式で表すことができます。様々な商品やサービスは、必ず何か解決したい課題や解消したいニーズがあり、それを解決するための方法として売れているのです。この「課題」と「解決方法」をしっかりと区別して、組み合わせを意識しながら考えることが重要になります。

例えば、ヘアドライヤーは「髪の毛を乾かしたい」というニーズと「熱風で髪の毛の水分を乾燥させる」という解決方法の組み合わせで成立しています。今、私が執筆していることは、「多くの方に創造的な考え方を伝えたい」というニーズと「記事を書く」という解決方法に分解できます。

全ての物事には、その物事が解決しようとしている課題やニーズ、そしてその課題を解決もしくは解消する方法があるのです。

ここまで話を聞いて、おそらく「そんなことは当たり前じゃないか。何を言ってるのか」と思われた方もいるのではないでしょうか。しかし、私がこれまで法曹、官僚、戦略コンサルティングファーム、そしてスタートアップの世界で働いている中で、創造的で非常に優秀だと思った方たちは、みな、この“基本的な構造”を意識していました。

こうした人たちは、何か物事が上手くいかないときには、「そもそも何がしたいのか」と必ず解決しようとしている課題に立ち返ります。いくら頑張っても課題解決ができない場合、そもそもの課題の設定が不適切な可能性があることを知っているからです。

そして、この課題を確認した上で、その解決方法を様々な知識や経験を用いて考えていきます。ただし、その際、一から解決方法を考えているわけではありません。自らの知識や経験から、この課題の解決方法として使えそうなことはないか、課題に対してパズルがフィットする解決方法を色々と組み合わせているのです。優秀なコンサルタントの方は、様々な業界の手法を引き出しに持っており、まさにこの解決方法のパズルをはめることを得意にしています。

ここで強調したいことは、「解決方法」は新しいオリジナルなものでなくていいということ、既存のありものでも良いということです。先ほどのヘアドライヤーの例であれば、発明された当初、乾燥機自体はすでに存在しており、それを「髪の毛を乾かしたい」という課題に対して組み合わせたことが始まりでした。この既存のありものの解決方法と、これまで結びつかなかった課題が結びつくことで、それは新しい結合となり創造的なアイデアになるのです。

逆もまた然りです。この「解決したい課題」も、必ずしも新しい課題である必要はありません。すでに存在する「課題」であっても、これまで組み合わせたことがない「解決方法」と組み合わさって解決できれば、それは新結合となり、創造的なアイデアになるのです。先ほどのヘアドライヤーの例であれば、発明された当初、すでに「髪の毛を乾かしたい」という課題は存在していたはずですが、それに対して乾燥機を転用するという「解決方法」が組み合わさったことで新たな価値を生み出しました。

このように、まずは物事を「課題」と「解決方法」に区別して、新しい組み合わせを考えてみることが創造への第一歩になるのです。
ドライヤーの例

具体的に「どのように」つなぎ合わせるのか

ここまで、つなぎ合わせる力は創造力の重要な要素だとお伝えし、その上で、無限にある世の中の物事の中でも、まずは「課題」と「解決方法」のつなぎ合わせを意識することが重要だと話してきました。

ここではさらに一歩踏み込んで、では、この「課題」と「解決方法」をどのように効果的につなぎ合わせながらアイデアを考えていけばいいのかを説明していきます。

ここで説明するのは、「課題を軸にして、その課題を解決している他の解決方法に思考を飛ばし、その解決方法を取り入れていく」という方法です。これは、アナロジー思考(類推思考)とも言われる考え方なのですが、実際の事例を見ながら考察していきましょう。

■ジレット社のオーラルB電動歯ブラシの例
ジレット社に、オーラルB電動歯ブラシという商品があります。世界で最も売れた歯ブラシの1つだと言われています。これはどのように生まれたのでしょうか。

ジレット社の研究者は、新しい歯ブラシを生み出すために、歯ブラシそれ自体ではなく、「きれいにしたい」という課題に焦点を当てて研究したと言われています。その上で彼らは、世の中のきれいにするために作られている商品やサービスを研究しました。たとえば、髪や服の洗い方や血管のクリーニング方法、水路の掃除の仕方などです。

その中で彼らが着目したのは、自動車の洗車の仕方でした。洗車機は、様々な角度から洗剤を吹きつけたりブラシをかけたりする複数の動きがあります。研究員は、自動車と歯にある関係性を見出し、様々な角度から複数のブラシをかける原理を歯ブラシに転用したのです。
その結果、様々な角度から様々な動きによって自動で歯垢を擦り落とすオーラルB電動歯ブラシが生まれました。
ジレットの例
この事例のポイントは2つあります。

1つ目は、新しい歯ブラシを創る上で、研究者たちが、歯ブラシという解決方法ではなく、「きれいにしたい」という課題に目を向けたことです。

なぜなら、もし仮に、歯ブラシそのものに着目してアナロジーで考えようとしたら、小型のモップとか、タワシ型の歯ブラシなどの発想にとどまっていた可能性が高く、オーラルB電動歯ブラシはこの世に生まれなかったかもしれないからです。

2つ目は、単に課題に注目しただけでなく、その注目した課題が「きれいにしたい」という課題だったことです。そもそも、歯ブラシは「歯をきれいにしたい」という課題を解決するものです。そうするとこの「歯をきれいにしたい」という課題を解決した他の方法を探して繋げてくるということも考えられます。しかし、「歯をきれいにしたい」という課題を解決しているものは、歯ブラシの他の種類や近接したサービスしかなく発想が広がりません。

そこで、この「歯をきれいにしたい」という課題を抽象的に考えて(もう少し上位の概念的な枠組みで捉え直して)、「(歯ではなくなんでもいいので)きれいにしたい」と捉えたのです。そしてこの「きれいにしたい」という課題を解決している世の中の様々なサービスに発想を広げ、そこで発見した「洗車機」を見事につなぎ合わせて新しい歯ブラシを考えることに成功したのです。

ここまでの説明をまとめると、つなぎ合わせる具体的な方法は、物事を「課題」と「解決方法」に分ける。そして、「課題」を抽象的に捉え直して、その抽象的に捉え直した課題を解決している他の方法を考察し、参考になるものを「解決方法」につなぎ合わせるということになります。

単に「つなぎ合わせる」といっても、このように具体的に構造化して理解し、実際に考えてみることが創造力を豊かにするのです。

AIは、つなぎ合わせることが苦手

ここまで説明してきた繋ぎ合わせる際のポイントは、「課題を抽象的に捉え直し」「なるべく異領域のサービスを参考にする」ことです。

しかし、実は、AIはこの2つのポイントが苦手なのです。

まず、AIは抽象的・概念的なものを理解することが苦手だと言われています。私たちは無意識に色々な物事を変幻自在に抽象的・概念的に考えることができますが、AIにはそれができないのです。したがって、「課題を抽象的に捉え直す」ということは、創造力の重要な要素になる上、AIとの差別化にもなるのです。

また、AIは異領域のデータを組み合わせることも苦手です。同一領域のデータはかなりの精度で組み合わせることができるのですが、異領域のものはまだまだ苦手なのです。したがって、異領域の組み合わせを考えることも、創造力の重要な要素な上、AIとの差別化にもつながるのです。

これは、実際にGPT-4に他のサービスを参考に新しいビールのアイデアを考えてもらったものです。皆さん、いかがでしょうか。
Chat GPTサンプル①
それなりにうまくまとめてはいますが、正直、あまり面白くはありません。どれも考えられそうなものばかりで、文中の事例であげた、自動車の洗車機と歯ブラシを組み合わせたような全く異領域のものを組み合わせて本質的に面白いアイデアを出すことはできないのです。

このように、AIとの差別化という観点でも、つなぎ合わせる力は、今後ますます重要になってくるのです。

つなぎ合わせる力をトレーニングする方法

(1)いろいろな経験や学習を積む

つなぎ合わせるためには、そもそもとして、つなぎ合わせるための経験や情報が必要です。そして、より遠くの異領域の物事をつなぎ合わせる方がより創造的なアイデアになりやすくなります。したがって、一つの領域だけでなく、あえて全く異なる経験を積める領域を経験することは非常に重要です。

最近では副業やGoogleを真似た20%ルール(業務時間の20%は別のプロジェクトや関心のある業務等をして良いという制度)、リスキリングの制度を導入している企業も増えています。このような活動を通じて、本業と別に経験を積んだり学んだりすることは重要になってきています。

(2)経験や学習を抽象的に捉え直して応用できないか考える

一方で、単にいろいろな経験をしたり学んだりしたからといって、それがすぐに創造力に生かされるわけではありません。重要なのは、それらのバラバラの経験を線で繋げるということです。そして、つなぎ合わせるためには、自身の経験や学びを抽象的に捉えなおす必要があります。経験や学びを具体的なまま記憶することは難しいですし、抽象的に捉えた方がより多くの他の経験や学びとつなぎ合わせることが容易になるからです。この点、人事の皆さんですと、自身の具体的な経験を内省して抽象的な教訓を引き出し別の場面で応用していく「経験学習モデル」の方が馴染みがあるかもしれませんが、それと似たようなイメージです。それを普段の業務などでもどんどん考えてみるということが重要になります。

(3)いろいろなものを「強制的に」つなぎ合わせる

つなぎ合わせることが大事だと分かっても、実際に、普段考えないような物事をつなぎ合わせることは容易ではありません。そこで、あえて「強制的に」つなぎ合わせて発想するトレーニングが効果的です。

例えば、孫正義さんは若い頃に「複合連結型発想法」というつなぎ合わせのトレーニングをしていたと言われています。具体的には2冊の単語帳を同時にえいと開き、それぞれに出てきた単語を無理やりつなぎ合わせたアイデアを考えるのです。

このように簡単な方法で大丈夫ですので、ぜひ試してみてください。

(4)アナロジー思考を学ぶ

今回の連載で説明したつなぎ合わせる方法を構造的にまとめているのがアナロジー思考です。例えば、最近では、どの企業でもDX人材が求められていますが、単にテクノロジーに詳しいだけの“なんちゃってDX人材”なのか、その知識を実際の現場や業務で効果的に応用できる“真のDX人材”なのか、実は、その差は、このアナロジー思考ができるかどうかによるところが大きいのです。これは1つの例ですが、アナロジー思考ができる人は「一を聞いて十を知る」人と言われます。つまりアナロジー思考ができるようになると多くの応用が効くようになるのです。先般、リスキリング等が注目されていますが、学んだことを効果的に業務に活かすためには、このアナロジー思考をうまく取り入れることが効果的です。

連載第2回目は以上となります。
次回は、創造力で重要な「バイアスフリーに考える力」について説明していきます。これまでにはない発想をするために重要な要素になりますので、ぜひチェックしてみてください。
※次回は6月19日公開予定です。

【参考】
「Chat GPT」の詳細に関してはこちらから

【関連リンク】
ビジネス経済書Online:『創造力を民主化する―たった1つのフレームワークと3つの思考法』永井 翔吾 著(中央経済社刊)
Amazon:『創造力を民主化する―たった1つのフレームワークと3つの思考法』永井 翔吾 著(中央経済社刊)

【企業HP】
VISITS Technologies株式会社
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