2016年4月、施行された「女性活躍推進法」。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」である。この法律では、事業主に対して、「女性の活躍状況の把握」や「課題分析、数値目標の設定」、「行動計画の策定・公表」などが求められている。また、2019年に法改正され、義務化の対象企業が拡大した。「女性活躍推進法」は、人手不足の解消やダイバーシティ推進など、昨今の重要なテーマとつながっており、企業人事担当者は理解を深めておかなければならない法律だ。本記事では、同法の「改正内容」や「罰則の有無」、推進して成果を上げた「企業事例」などを詳しく紹介する。
「女性活躍推進法」とは? 内容と求められる4つの対応、成果をあげた企業事例を紹介

「女性活躍推進法」の気になる中身とは?

「女性活躍推進法」とは、社会に出て働きたいと考えている女性たちが、活躍できる社会作りを目指すための法律である。正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」で、「働き方改革」におけるダイバーシティ構想の柱のひとつであり、少子高齢化のために人手不足が続いている中、打開策としても注目されている。

●「女性活躍推進法」とは

「女性活躍推進法」は、2016年4月に施行され、2019年5月に改正法が成立した。この法改正により、対象となる事業主の範囲は拡大し、公表する情報の区分も強化されることとなった。なお、当法は、10年間の時限立法である。

女性が社会で能力を活かしきれていない現状を是正するため、政府が成立させたこの法律。国、地方公共団体、一般事業主に対して改革を求める内容となっている。目的は女性の働きやすさ、長期的なキャリアの形成だ。

「女性活躍推進法」の成立当初、取り組みが義務付けられた対象企業は、「国・地方公共団体・常時雇用する従業員が301人以上の民間事業者」であり、中小企業(従業員規模が300人以下)については「努力義務」だった。しかし、この範囲は改正によって変更。今後も、法改正によって対象が拡大されていくことが予想され、従業員規模が小さい企業でも、ゆくゆくは法律の対象となる可能性がある。そのため、すべての企業が、今から当法を理解しておくことが非常に重要なのである。

●法律制定の背景

そもそも「女性活躍推進法」はなぜ必要になったのか。この点を考えるには、1986年に施行された「男女雇用機会均等法」にさかのぼって考える必要がある。「男女雇用機会均等法」では、職場にはびこる旧態依然とした「性別による不平等」をなくし、男女格差を是正することが求められた。この法律をさらに一歩進める次なる打ち手として成立したのが「女性活躍推進法」なのである。

また、社会や企業が抱える課題の解決も女性活躍推進法が制定された背景のひとつである。

・企業側の課題
日本企業が抱える人手不足という企業課題は深刻化の一途をたどっており、将来的にも少子高齢化による労働力人口不足が加速することが見込まれている。企業としては、「グローバル化やダイバーシティ(人材の多様化)への対応」や「職場での各種ハラスメントに対処」といった目的で女性活躍の推進に取り組んでいる場合もある。

・社会的な課題
男女の差を是正するとはいえ、女性には男性にはないライフイベントが現実として存在する。それにからみ、女性が「働く意思はあっても働けない」という状況は、社会全体の課題として取り組まなければならないだろう。例えば、育児・介護が理由で就職を希望していても働けない女性は多く、約300万人にも上るという。また、出産・育児のために離職し再就職する際は、正規雇用での採用は難しいという。

こういった、女性の能力発揮が阻害されている要因を取り除くのが「女性活躍推進法」のねらいである。

●改正「女性活躍推進法」の内容

前述の通り、同法は2019年5月に改正された、これによって、「対象事業主の範囲拡大」や「公表する情報の区分の強化」など、義務が強まることとなった。具体的には下記のような改正がおこなわれた。

・対象事業主の範囲(2022年4月1日~)
「女性活躍推進法」成立当初、300人以下のいわゆる中小企業の事業主にたいしては、「努力義務」とされていたが、改正によって対象は「101人以上の事業主」へと拡大された。

・一般事業主行動計画の数値目標設定の仕方(2020年4月1日~)
常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、一般事業主行動計画を策定する際、原則として達成しようとする目標の内容を、新たに定められた2つの区分ごとに1つ以上の項目を選び、それぞれ数字目標を定め、行動計画の策定届を管轄の都道府県労働局まで届け出る必要がある。
※2つの区分とは、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」、「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」を指す。従来は、全項目から1つ以上の数値目標を定めることが要件だったが、改正後は2つの区分からそれぞれ1つ以上の数値目標を定めることが義務付けられた。

・公表する情報の区分(2020年6月1日~)
情報公表においても、数値目標と同じように2つの区分が設定される。従来は14項目から1つ以上の情報を公表することが要件だったが、改正後は前述した2つの区分からそれぞれ1つ以上の情報を公表することが必要となる。

・「プラチナえるぼし認定」の創設(2020年6月1日~)
一定基準を満たし、女性の活躍推進に関する状況などが優良な企業を認定する現行の「えるぼし認定」よりも水準の高い、「プラチナえるぼし認定」が創設される。「プラチナえるぼし認定」は、えるぼし認定企業のうち、一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が特に優良であるなど、一定の要件を満たした場合に認定され、一般事業主行動計画の策定・届出が免除される。

【人事・労務担当者向け法改正ガイド】
●HRプロ編集部Presents:人事がおさえておくべき令和4年度(2022年度)の12の「法改正」を社労士が解説!【全48ページ】

企業に求められる「4つの対応」

「女性活躍推進法」を順守するために企業が求められている対応は、以下の4つである。

(1)自社の女性活躍に関する課題の「分析と調査」

まずは、自社の状況把握を行うため、下記の4点を確認しよう。

・採用者の女性の割合:男性が優位になっていないか?
・勤続年数の男女差:勤続年数に女性比率が反比例していないか?
・労働時間の状況:不必要な長時間労働が行われていないか?
・管理職の女性比率:女性の管理職が男性に比べて圧倒的に少なくなっていないか?

(2)課題解決の計画策定・届出

事業主は、(1)の分析と調査結果を踏まえ、事業主は、女性活躍を推進するための「一般事業主行動計画」を策定する。この行動計画には、「計画期間」、「数値目標」、「取組内容」、「取組の実施期間」を盛り込む必要がある。

特に重視すべき点は、女性の活躍状況が改善されているかどうかを、定量的に測ること。数値目標を掲げ定量的に管理することで、達成すべき目標が明確になると同時に、自社内や外部に公表した際、誰が見ても一目瞭然となる。

(3)「計画の周知と公表」

(2)の「一般事業主行動計画」を周知・公表し、届出を行う。その手順は以下の通り。

・労働者への周知
労働者には正社員だけでなく、1年以上継続的に雇用されている(雇用が見込まれる)パート・アルバイトや契約社員といった非正規雇用者も含まれる。

・外部への公表
公表先は、厚生労働省「女性の活躍・両立支援総合サイト」内の「女性の活躍推進企業データベース」など。

・届出
都道府県労働局へ「行動計画」を策定した旨を届け出る。

(4)「自社の女性活躍に関する情報公表とPDCAサイクル」

自社の女性活躍に関する「情報公表」と「PDCAサイクル」を確立。女性の活躍状況が公表されることで、優秀な人材を確保でき、企業の競争力アップにつながる可能性がある。

・情報公表
「行動計画」と同様、厚生労働省の「女性の活躍・両立支援総合サイト」内にある、「女性の活躍推進企業データベース」などで実施する。

公表する項目は、「職業生活に関する機会の提供に関する実績」、「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」の各区分の中から、事業主にとって適切なものを1項目以上選ぶ。

・PDCAサイクルの確立
目標設定や情報公表が済んだら「これで終わり」というわけではなく、定期的に現状を点検したり評価したりして、「目標の見直し」や「行動計画のブラッシュアップ」をしていくことが重要だ。

罰則は規定されているのか?

企業が常時雇用している労働者の人数によって義務付けられているものの、罰則は規定されていない。

ただし、同法に対応している企業情報は、厚生労働省のデータベースで検索できるため、対応していない企業は簡単に調べられる。対応していないと、「女性の活躍推進に消極的な企業である」というイメージがついてしまうため、「従業員の定着率」や「採用力」という人事課題に影響を及ぼす可能性は否定できない。

企業のイメージやブランディングを考慮するならば、しっかりと取り組んでおいた方がよい。

「女性活躍推進法」への積極的な取り組みが企業にもたらすこと

少子高齢化が進む中、優秀な人材を多く確保し長く働いてもらうには、働く人に「選んでもらえる企業」であることが重要になる。企業を選びのポイントはさまざまだが、「女性活躍推進法」に対して、積極的に取り組んでいるかどうかも判断軸の一つといえる。具体的にどのような面でプラスに作用するのかを紹介する。

(1)優秀人材の確保、採用成功確率の上昇

「女性活躍推進法」に継続的に取り組むことで、優秀な人材を採用できる確率が上昇する。優秀な人材が仕事を選ぶ際にポイントとしているのが「自身の能力を発揮できる環境下」、「キャリアアップの機会はあるか」という企業環境だ。

また、取り組みを社外や一般社会へとアピールするためには、「えるぼし認定」を取得することも検討するとよいだろう。

・「えるぼし認定」制度とは?
「女性活躍推進法に基づいた基準を一定数満たしている」、「より女性活躍の推進に取り組んでいる」という企業に与えられる認定で、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業が取得できる。「採用」、「継続就業」、「労働時間」、「管理職比率」、「多様なキャリアコース」という5つの項目にそれぞれ基準が定められており、取り組み状況に応じて3段階の認定レベルがある。認定を受けるメリットとしては下記の点があげられる。

・自社が働きやすい環境であることをアピールできる
・各府省庁が公共調達を実施する際に、加点評価を受けられる


認定を受けた企業は、自社の商品や広告に認定の証である「えるぼしマーク」を使用でき、広報活動に認定マークを積極的に活用するとよい。

(2)働きやすい環境整備によって社員定着率向上

従業員が仕事と家庭を両立できる環境があれば、出産・子育てなどの女性特有のライフイベントに影響を受けることなく、長期間の就業が可能になる。女性が働きやすい環境整備は、人材の定着率アップにもつながるだろう。

(3)企業ブランディングに役立つ

「女性活躍推進法」の行動計画の種類は、非常に多岐にわたっている。企業がその中のどれを選択するかは、「何が課題で、どのように取り組むのか」という企業の価値観をオープンにすることでもある。つまり、出産・子育てからの復帰を支援する制度に取り組むのであれば、女性に対する継続的雇用に強いというブランディングができる。

(4)競合他社の状況を確認し、自社のアピールポイントを明確化できる

厚生労働省のデータベースには、企業各社が同じ基準で分析したデータが公表されている。そのため、自社の情報を公表するだけでなく、競合他社の情報を閲覧、比較することもできる。他社との比較によって、自社の優位部分を「アピールポイント」として採用や広報の場面で打ち出すことができる。また、自社が遅れている分野の認識もできるので、ピンポイントで改善に着手できる。

「女性活躍推進法」で成果を上げた企業事例

それでは、実際、「女性活躍推進法推進」に積極的に取り組み、成果を出した企業事例を紹介しよう。それぞれの課題、解決方法、結果は下記の通り。

●三州製菓

課題;従業員の7割以上が女性社員という職場だが、管理職を目指す女性は少ない。
理由:「残業の多さ」
対応;2018年6月までに、課長以上の管理職に占める女性の割合を「25%以上」にするという目標を設定。働き方を見直して残業を減らす取り組みを継続した。
結果:若い女性社員の中から管理職候補が現れ、「えるぼし認定」を取得。

●シーエスラボ

課題:女性の社員が多いにもかかわらず女性管理職が少ない
対応:管理職に占める女性の割合を20%以上にすることを目標に設定。さらに、他社との差別化、優秀な人材の確保、継続的に働けるよう環境整備によって、「離職率の低下」と「売上向上」につなげることも目標に。
結果:管理職手前の女性社員に「リーダー育成研修」を実施し、ライフイベントに合わせて多様な働き方ができる制度導入などにより、目標を達成。「えるぼし認定」も取得した。

●サイバード

課題:人の出入りが激しく優秀な人材の定着が難しい。
対応:正社員・契約社員の退職率を5%以上下げることを目標に。企業成長率を高めるため、結婚・出産後も継続して働けることをアピールし、キャリアの豊富な従業員の離職を止める狙いを図った。
結果:在宅勤務制度の適用範囲を拡大、フレックスタイム制・裁量労働制という時間に縛られない「働き方」も浸透させた。また、「えるぼし認定」も取得。

「女性活躍推進法」の課題は?

「女性活躍推進法」に関する行動計画の届出状況を見ると、2019年末時点で「全国平均98.9%」と、ほとんどの企業が対応しているといってよい。しかし、その一方で、課題もある。特に大きなものは以下の2点だろう。

・「女性活躍推進法」自体の認知率の低さ
・待機児童の問題や男性の育児休暇取得率の低さ


前者は企業の経営者、人事担当者には当たり前の知識でも、法律に関わらない人には縁遠いという理由がある。後者は、「女性活躍推進法」だけでは解決できない、社会的な取り組みが必要な課題だ。
コロナ禍で露呈したように、大企業であっても継続的に成長していくことは難しい世の中になった。前にも触れたように、これからは、過去のように企業が人を選ぶのではなく、さまざまな変化に柔軟に対応し、働く人に「選ばれる企業」にならなければ成長も存続も難しいだろう。男女問わず、良いワーク・ライフバランスで働ける環境や、女性特有のライフイベントがハンディにならない仕組み、優秀な人材を活用できる体制を整えることは、喫緊の課題だ。そのような中、政府が策定した「女性活躍推進法」は、企業で働くのは男性に限らず、女性にも重要なリソースとして活躍することを求め、「ダイバーシティ構想の実現」や「人手不足解消」といった企業課題を解決し、日本経済の将来を安定させるためにも重要な法律だ。女性がいきいきと安心して働ける体制構築とともに、男女問わずすべての働く人に関係があるものとして、深く知っておくべきで法律といえる。
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