森永乳業株式会社では、社員の更なる成長やイノベーションの創出、職場の活性化などを目指して、2024年10月に「森永乳業副業ガイドライン」を制定し、同年12月より副業制度を本格的に解禁した。本制度は、一般的な副業スタイルである「個人事業主型」「業務委託型」だけでなく、他社と雇用契約を締結する「雇用型」も含まれているのが大きな特徴である。同社はなぜ、副業の解禁に踏み切ったのか。また、制度設計においてどのような工夫をしたのか。今回、副業制度の解禁に向けてプロジェクトをけん引した同社 コーポレート戦略本部 人財部労政企画グループ アシスタントマネージャー(取材当時)の飯田 晃彦氏にお話を伺った。

プロフィール

  • 飯田 晃彦 氏

    飯田 晃彦 氏

    森永乳業株式会社
    コーポレート戦略本部 人財部労政企画グループ
    アシスタントマネージャー(取材当時)

    2010年入社。工場での事務・生産管理を経て、2012年より人事・労務を担当。新卒採用、福利厚生企画、給与計算、人件費管理、従業員安全管理、人事労務制度企画、海外赴任者支援、健康管理、健康経営推進、労働組合窓口などの業務に従事。介護との両立、コロナ禍の働き方企画、副業制度の企画など、社員の働きがいと働きやすさを高めるための仕組み構築・企画立案・運営を行っている。

森永乳業は、なぜ副業を解禁したのか――プロジェクト担当が語る「人事としての狙い」や「制度設計での気づき」

副業解禁のきっかけは、「社員の成長」や「イノベーションの創出」

――まずは今回、副業を解禁された経緯も含めて本制度の概要についてお聞かせください。

実はこれまでも副業希望の届け出を受けたものに関しては、内容を確認したうえで、一部認めてきていました。近年の社会的な副業気運の高まりに加え、社員からも副業を含めた柔軟な働き方を求める声が増えてきたため、会社としてきちんと制度化する必要があると判断し、2024年10月に「森永乳業副業ガイドライン」を制定しました。雇用型も含む副業制度を本格的に解禁し、12月より新規申請者の稼働をスタートさせました。

制度の特徴としては、副業を「個人事業主型」「業務委託型」「雇用型」という3種類の働き方に分け、自分にとって働きやすい形態を選べるようにしています。適用範囲は、試用期間を除き、非正規社員や嘱託社員を含む全社員を対象としています。また、新入社員などは本業に早く馴染んでもらいたいという思いもあるため、休日のみの適用としました。

副業の上限時間としては、弊社の所定外労働時間と通算して、非管理職は月60時間まで、管理職は月100時間までと設定しました。さらに終業時刻から翌日の勤務開始時刻までの間隔は8~10時間空けるなど、事業所ごとに定められた勤務間インターバルの時間を副業終業後も確保して、ダブルワークによる心身の負担ができるだけ重くならないようにしています。また、その他の制約としては、厚生労働省が例示している「安全配慮義務」「秘密保持義務」「競業避止義務」「誠実義務」の4つの義務をしっかりと守ってほしい旨をガイドラインに明示しています。

――本制度を通じて、社員の皆様が副業に取り組むことで、会社にはどのようなメリットがもたらされるとお考えでしょうか。

「自らの成長や想いの実現のために一歩踏み出す社員を応援したい」というのが、この取り組みの出発点です。それを踏まえたうえで「新たなスキルの獲得」「専門性の向上」による社員の成長をはじめ、「人脈の拡大」や「価値観の多様化」によるイノベーションの創出、「柔軟な働き方の実現」による職場の活性化、DE&Iの推進などがもたらされることを期待しています。また、採用面でもメリットを感じています。近年は特にキャリア採用の面接で、「副業は認められていますか?」と聞かれる機会が増えており、高度なスキルを有する専門人材の獲得にあたっては、副業を認めていることがプラスに働くと考えています。

――逆に副業制度に対して懸念点や課題点などはございますか。

副業先への人材流出や、単なる収入目的での副業が増えることが懸念点と考えており、導入前にも議論になりました。実際、副業をしていた社員が、そちらを本業にするため残念ながら当社を退職した例もあります。人材流出については、社会の人材流動性が高まる中で副業に限らず離職防止の取り組みを考える必要があり、そもそも会社の働きがいや働きやすさを高めることが一番の対策になると考えています。また、社員がどのような副業を選択するかも、これまで制度が無かったことで社員が迷う部分があったのではないかと考えています。制度化にあたり、会社が副業社員に期待することをガイドラインで明示することで、社員が会社と同じ方向性で副業に取り組むことを期待しています。

副業にまつわる課題というのは、副業を解禁したから生じたわけでは無く、会社が制度化していなかったので隠れて副業をしていたり、その上で働き過ぎが生じていたりといった潜在的な課題があったのではないかと考えています。今回制定した副業制度は、そういった想定できる課題に適切に対応するために、会社としてどこまでが良くて、どこからが良くないのかをあらかじめ線引きしておくという狙いもありました。特に現場の管理職にとっては判断が難しいケースもあるため、あらかじめ副業制度のガイドラインを作り、会社としての考え方を明示しておくことで、適切な運用ができるようにしていきたいと考えています。

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