AI 開発コンペティションサイト「SIGNATE」を通じて、希少なAI人材を多くの企業でシェアする

第3回 HRテクノロジー大賞(2018年実施) 受賞企業インタビュー

近年AIやビッグデータの普及に伴い、問題化してきているのがデータサイエンティストの不足である。なかでも一握りの優秀な人材は、奪い合いとなり、多くの企業が頭を抱えているところだ。そうした中、限られた人材をシェアする=アビリティシェアリングの視点から、日本初のAI開発コンペティションサイトが誕生した。それが今回ご紹介する「SIGNATE」である。同サイトは、AI開発やデータ分析に関するテーマごとにコンペを開催することで、自社課題の解決に特化した高品質なAIモデルを調達できる点や、アビリティシェアリングを浸透させた点などが評価され、「第3回HRテクノロジー大賞」でイノベーション賞を受賞。そこで、株式会社SIGNATE 代表取締役 齊藤秀氏にご登場いただき、開発経緯、サービスの仕組みや特徴、具体的な活用事例などを伺った。

第3回HRテクノロジー大賞『イノベーション賞』

株式会社SIGNATE

AI開発コンペティションサイト「SIGNATE」

AI開発やデータ分析のテーマごとにコンペティションを開催することで、自社課題解決に特化した高品質なAIモデルの調達が可能である点と、希少なデータサイエンティストの採用・育成、特に、希少な「才能をシェアする」という考え方(アビリティシェアリング)の浸透、AI・ビッグデータ活用への取り組みを推進する点が、高く評価されました。

ゲスト

  • 齊藤秀 氏

    齊藤秀 氏

    株式会社SIGNATE
    代表取締役

    オプトCAOを経て現職。幅広い業種のAI開発、データ分析、共同研究、コンサルテーション業務に従事。データサイエンティスト育成及び政府データ活用関連の委員に多数就任。システム生命科学博士。筑波大学人工知能センター客員教授、理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員、国立がん研究センター研究所客員研究員を兼任。

企業が抱えるさまざまな課題を世界中の知恵で解決

── AI 開発コンペティションサイト「SIGNATE」とはどのようなサービスですか?

齊藤秀氏(以下、齊藤) 「SIGNATE」はAI 開発・データ分析をコンペティション形式で行うプラットフォームです。仕組みとしては、まずAI 開発・データ分析のニーズを持つ企業や研究機関がそれぞれのテーマごとにコンペティションを開催。それに対して、「SIGNATE」に会員登録している15,000人以上(2019年1月時点)のデータサイエンティストたちが、アルゴリズムを構築・応募し、その精度を競い合い、最高品質のAIモデルを開発していきます。応募されたアルゴリズムは、精度がランキング形式で可視化され、また期間中は何度でも繰り返し応募できるため、自ずと精度が高まっていきます。そして精度が限界値に達したとき、募集した企業はランキング最上位の開発者に懸賞金を与えて、その所有権を譲渡してもらうことで、効率的に精度の高いアルゴリズムを獲得できるという仕組みです。

―― 「SIGNATE」の開発に至った経緯や背景についてお聞かせください。

齊藤 我々が「SIGNATE」の開発にあたってお手本にしたのは、米国のKaggle社が運営するAI開発コンペティションのプラットフォーム「Kaggle」でした。同社が創業された2008年当時、私も一技術者としてKaggleに会員登録していたのですが、大きな社会問題や企業が抱えるさまざまな課題を世界中の知恵で解決するというこのやり方に共感し、可能性を感じたのが始まりです。当時から、コンピュータが進化し、社会の中で重要になっていく中、いずれはAI人材が足りなくなるだろうと漠然と感じていました。そこで、むしろ自分が参加するのではなく、同様のシステムを日本でも作るべきなのではないかと考え始めたわけです。

実際、近年になってAIやビッグデータを活用する取り組みは進んできましたが、一方で主役であるはずのデータサイエンティストは世界的に不足しています。日本においても多くの企業が優秀なデータサイエンティストを採用できず、また内部の人材育成もままならない状況です。さらに、外部のベンダー選定においても、実力の評価、納品物の評価は難しく、AIやビッグデータのプロジェクトを進めるにあたり、多くの企業が課題を抱えています。そうした背景の中で、「SIGNATE」は誕生しました。データサイエンティストが圧倒的に不足している今だからこそ、希少な才能は多くの企業でシェアすべきでしょう。「SIGNATE」はまさに、そうしたアビリティシェアリングの考えを具現化している仕組みなのです。

強みは開発に加えて、AI人材の発掘やマッチング、育成ができること

――「SIGNATE」が持つ強みや優位性は、どのような点にあるのでしょうか?

齊藤 AI開発だけにとどまらない点が、我々の最大の強みでしょう。例えば、人材発掘。通常、受託系の会社は内部に技術者を抱えて、その中だけで仕事をするのですが、弊社の場合、我々自身も技術者であると同時に、会員として15,000人の優秀な人材と繋がっています。つまり「SIGNATE」は日本最大のAI人材バンクになっているとも言えるのです。しかも会員のコンペティション参加における実績はすべて見える状態になっているため、誰がどのくらいの実力があるのか、ひと目でわかります。実際、依頼企業からは「やはりAI人材は社内にも必要だ。この人を採用できないか?」といった相談も少なくなく、一方で、新しいキャリアを望む技術者も一定数存在するため、両者をマッチングする事例も増えてきました。

そしてもう一つは、人材育成です。会員の中には、学生などデータサイエンティストの卵たちも含まれており、コンペティションに参加することで「とても勉強になった」という声を数多くいただいています。市販の書籍や大学の講義などで学んでも、それらはあくまで理論的な話であり、実践的なスキルは身につきません。その点「SIGNATE」は、実際の企業課題に取り組むという経験が積めるため、格好の学びの場になります。さらに我々自身も、あらゆる産業のさまざまな課題に対して、どのような分析手法が成果をもたらすのか、その答えを蓄積しているため、それらのエッセンスを教育コンテンツとして提供することが可能です。実際に弊社では、AI開発・データ分析のコンペティションを設計する過程をフレームワーク化。そのパッケージを、企業研修として提供しています。

このようにAI 開発、人材発掘、人材育成に関するサービスを、一度に提供できるのが「SIGNATE」の強みなのです。これらを同時に実行できるAI系の企業は、他にはないでしょう。そしてそれを可能にしているのは、何より我々自身がトップレベルの技術者集団であるからだと自負しています。実際、コンペティションに勝ち残った上位者のアルゴリズムに関しては、我々がしっかりと検証したものを依頼企業に導入し、その後の運用、再学習によるさらなる精度向上をご支援させていただいています。我々自身も開発でき、また評価できるからこそ、こうしたサービスが実現できているのです。

大気シミュレーションデータをもとに台風の発生をAIで予測

――これまで開催されたコンペティションの中で特に印象に残ったテーマや、成果の出ている事例などがありましたら、ご紹介ください。

齊藤 最近は企業だけでなく、国や研究機関の案件も増えており、印象に残るような重要なテーマもたくさんあります。その中から直近のものも含めて、いくつか注目の取り組みをご紹介しましょう。

1つ目は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の依頼による熱帯低気圧を検出するアルゴリズムの作成です。台風、ハリケーンやサイクロンなど、私たちの生活に甚大な被害をもたらす熱帯低気圧は、その発生をできるだけ早く検出することが重要です。しかし、発生前の熱帯低気圧(熱帯低気圧の卵)は専門家でさえも正しく識別するのは難しく、熱帯低気圧の発生予測を精度よく行うのは簡単なことではありません。JAMSTECではこれまでスーパーコンピュータ「京」などを利用して、過去17年分の大気シミュレーションデータを作成し、研究を推進してきました。最近では、深層学習を利用した台風検出の技術開発も進めており、気象の専門家を超える能力を示しつつあります。ここで1つ仮説が生まれます。「自分たちは海洋気象の専門であり、機械学習の研究者ではない。最新の深層学習に精通した技術者の協力を得ればさらなる精度向上が可能ではないか?」しかし、誰に協力を依頼すればよいのかわかりません。そこで、オープンイノベーションによる解決を試みました。「SIGNATE」を活用いただき、コンペティションを開催。最終的に検出精度は、開始前の約2.5倍向上し、最新の深層学習のベストプラクティスが得られ、実際に分析された技術者達と研究コミュニティを形成することができました。今後の気象予報や災害予知に大きな影響を与えるであろう、非常にインパクトのある事例だと考えています。

2つ目の事例は、ポッカサッポロフード&ビバレッジの依頼による豆腐の需要予測です。近年は健康食品やダイエット食品としても人気のある豆腐ですが、生産者にとっては、保存期間が短く作り置きができないという難しさもあります。工場では次の日の売れ行きを予想して豆腐を製造していますが、欠品した場合は、売上機会の損失や顧客の信頼低下を招き、さらに売れ残ってしまえば、廃棄され食品ロスを起こします。こうしたことを防ぐため、同社からの依頼で気象データと特売情報から5種類の豆腐の需要予測モデルを作成していただきました。その結果、最大で15%の精度改善を実現。実際に工場では、コンペティションで開発されたアルゴリズムが稼働し、廃棄量が大幅に減っています。食品業界全体にも影響を与えうる、ビジネスインパクトの非常に大きな事例と言えるでしょう。

線路のゆがみ量や着雪量のビッグデータ予測など、鉄道分野でも成果

齊藤 続いて、鉄道関連の事例を2つご紹介します。1つはJR西日本の事例です。新幹線が降雪時に走行すると、車両の台車部分に雪が付着します。高速で走行する中、雪が落下し飛散すると危険なため、一定の着雪が見込まれる列車に対しては、前日時点において、翌日の着雪除去の要否を判断しなければなりません。そこで、過去の気象条件・走行条件と着雪量のデータを分析して、着雪量を予測するモデル作成のコンペティションを開催しました。結果、採用されたアルゴリズムはこの冬から稼働し始め、予測精度と作業効率が大幅に向上することが見込まれています。さらにプロジェクトでは、JR西日本の社員が参加し、2名が10位以内に入るという快挙を達成しました。いずれもデータ分析に関係ない部署に所属する若手社員でしたが、今回の結果を受け、データ関連の部署に異動し、現在活躍しています。このように、自社にAI人材はいないと思っていても、「SIGNATE」を通じて発掘というケースもあるのです。

そしてもう1つは、JR東日本とのプロジェクトです。JR東日本管轄には、約1万キロに及ぶ線路を維持管理しており、日々の鉄道運行の安心安全のため、多数の保守作業員の方々が、補修が必要ないか日夜点検業務に従事されています。しかし、就労人口が減り人手不足が深刻になっている中、保守員を確保することはこの先ますます難しくなっていくと予測されます。そこで、IoTセンサーで線路の歪みを計測し、点検を効率化するとともに、3ヶ月先の歪み量の予測から補修箇所を推定する仕組みを導入しようとしていました。このチャレンジングな技術課題について、経済産業省支援のもとSIGNATE上にてコンペティションを実施しました。結果として、開始前にJR内部で研究開発されていた手法に対し、約2.5倍程度の予測精度改善が実現しました。得られた成果により最適な保守タイミングを予測できるようになれば、大幅な労力の削減にもつながることが期待されています。

きめ細やかなコンサルティングで課題整理からサポート

―― 「SIGNATE」は、どのような課題を持った企業に、より効果があるとお考えですか?

齊藤 AIの活用には“攻め”と“守り”、2つの側面があります。攻めの側面とは、サービスに付加価値をもたらしたり、売上げを伸ばしたりすること。一方の守りの側面とは、効率化やコスト削減の話です。AIを活用する場合、攻めに関しては不確定要素が多く、ハードルが高くなるのですが、守りに関しては「何時間短縮できた」、「何億円削減できた」など、数値がはっきりするため、効果が見えやすいというメリットがあります。よって、例えば営業人員を抱え過ぎている、ルーティンワークをたくさんやっているなど、守りの側面で課題のある企業様にはおすすめです。なおかつ、ある程度規模の大きな組織であれば、AIで改善した際のスケールメリットやインパクトも、より一層大きくなると思います。

AIが注目されている一方で、多くの企業様は自社のビジネスのどの部分に活用できるのか、一体何から始めたらいいのか、分かりかねているのではないでしょうか。そんな企業様にこそ、ぜひご利用いただきたいです。我々は、課題の整理から始まるコンサルティング、データの前処理、事前分析、コンペティション設計等、コンペティション開催までの準備期間を重視。さらに前段階として、AI 開発プロジェクト立ち上げサポートサービスも実施しています。社内にAI人材がいないからと諦めずに、まずはご相談ください。

取材を終えて

企業が「SIGNATE」を活用するメリットとして、同社は「自社課題解決に特化した高品質なAI モデルを安く調達できる」、「自社課題に最適な人材を発掘できる」、「自社社員を育成することができる」、「自社課題に最適なベンダーを評価することができる」という4点を挙げている。まさに、AI 開発、人材発掘、人材育成、ベンダー評価を連動させている点が他にはない強みだ。AIで解決すべき課題を抱えている企業は、まずは同社に相談してみてはいかがだろうか。その中で、コンペティションという方法が取るべきなのか、あるいは新たに人を採用すべきなのか、最善の道を提供してくれるに違いない。

株式会社SIGNATE
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HRプロ編集部

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