エントリーシートを読み解く2つの技術 「AI マーケティング」×「AI 選考」で新卒採用に変革を

第3回 HRテクノロジー大賞(2018年実施) 受賞企業インタビュー

この数年、新卒採用市場は目まぐるしく変わり、多くの企業はその変化に対応しきれなくなっている。採用難が続く中、求める人材を質・量ともに担保するためには、これまでの戦略を見直し、新たなチャレンジをする必要があるだろう。そこで鍵となるのが、テクノロジーの活用だ。金属加工機械の総合メーカーとして知られるアマダホールディングスもまた、新たなチャレンジを模索していた。そして着目したのが、学生のエントリーシートだったという。その後、エントリーシートをデータ分析することで、「AI マーケティング」と「AI 選考」という科学的採用アプローチを実現させた。果たしてその手法とは? なぜ成功したのか? HRテクノロジー大賞奨励賞を受賞した同社の取り組みを紹介する。

第3回 HRテクノロジー大賞『奨励賞』

株式会社アマダホールディングス

エントリーシートを読み解く2つの技術
〜「AI マーケティング」×「AI 選考」が生み出す科学的採用アプローチ〜

エントリーシートを採点するAI 選考だけでなく、エントリーシート分析で導かれる層別の志向(嗜好)性から、学生の集まるイベントやプロモーションを展開すべく、AIをマーケティング領域にまで活用し、受験者数の拡大や採用担当者の工数削減に繋げた点が評価されました。

ゲスト

  • 斉藤信 氏

    斉藤信 氏

    株式会社アマダホールディングス
    グローバル人事部 副部長(中小企業診断士)

    1994年に株式会社アマダソノイケ(現 株式会社アマダホールディングス)に入社。20代で製造改革プロジェクトに抜擢され、自動生産システム開発でアマダ富士宮工場を工作機械業界最先端の工場へ導く。2011年より経営企画部門にて中期経営計画立案、グループ会社の経営サポートなどを経験する。2016年から株式会社アマダホールディングス グローバル人事部にて採用、教育、人事企画を担当し、次世代のモノづくり人材開発に取り組んでいる。
  • 山崎梨恵 氏

    山崎梨恵 氏

    株式会社アマダホールディングス
    グローバル人事部 人材開発グループ

    2013年株式会社アマダ(現 株式会社アマダホールディングス)に入社。人事部にて給与計算、社会保険業務、新卒採用、中途採用、新人教育、技能教育等に携わる。新人教育では、新入社員のTOEIC平均点を3ヵ月で100点上げる取り組みを達成した。現在は採用担当として、HRテクノロジーを活用した新卒採用企画に従事。更に最近では、人材活用のための技術であるピープルアナリティクス分野にも着手している。

科学的採用アプローチに踏み出した3つの背景

―― まず初めに、御社が新卒採用で取り組んでおられる科学的アプローチとはどのようなものなのか、簡単な概要をお聞かせください。

山崎梨恵氏(以下、山崎) 現在アマダホールディングスでは、採用活動の生産性向上を図るために、テクノロジーを活用した採用マーケティングおよび選考を行っています。ポイントとなるのは、エントリーシートを読み解く2つの技術です。AIマーケティングでは、エントリーシート分析で導かれる層別の嗜好性から、学生の集まるイベントやプロモーションを展開。一方のAI選考では、書類選考で求める人材との適合性をAI により評価し、採用に繋げていきます。これらの技術によって、単年度では帰結しない循環型採用への改革を実施しました。

――この取り組みはどのような背景のもと生まれたのでしょうか?

山崎 主に3つの背景があります。1つ目は、採用のトレンドが大きく変わってきたこと。近年学生がスマートフォンなどのデバイスを持つようになったことと連動して、学内合同説明会への参加者数や、就職ナビを通じたプレエントリー数などが減少してきました。昨今の学生は、事前にスマートフォンで調べて、興味が湧いた会社の説明会に直接行くような流れになっているようです。製造業自体の人気が落ちてきている中で、弊社もただ学生を待っているだけでは、採用エントリーの母集団を形成できなくなってきました。

2つ目は、そうした採用市場の変化に、私たち人事部自体が対応できていなかったということ。長年弊社では、全国各地の学内合同説明会や理系向け合同説明会への出展など、いわゆる「足で稼ぐ採用活動」を戦略の中心に据えて行ってきました。しかし採用市場やトレンドの変化とともに、学生の質・量の担保が難しくなり、また効率やコストパフォーマンスも悪いことから、採用戦略の転換を迫られたのです。そこで足で稼いで学生を「集める」手法から、学生自らが「集まる」企業ブランドへの変革を目指しました。

そして3つ目は、私たちグローバル人事部内の組織自体が大きく変わったこと。今まで採用業務を担ってきた上司や先輩などが転属となり、隣にいる斉藤が新たな上司として異動してきました。私を含め、従来は人事・採用一筋の者が多かったのですが、斉藤は製造部門や経営企画部門での長年のキャリアから蓄積してきた技術視点や経営視点など、今までの人事部にはなかった新しい発想を持ち込みました。今回ご紹介するAIマーケティングやAI選考もその一例です。先ほどお話した背景のもと、私たち自身も「変わらなくてはいけない」という課題認識をしていましたが、実際に科学的採用アプローチに取り組み始めたのは、斉藤が人事部に来たことが大きな契機になりました。

製造や経営企画など他部署での経験がヒントに

―― AI マーケティングやAI 選考は、いつどんなきっかけで発案されたのですか?

斉藤信氏(以下、斉藤) 山崎からお話したとおり、私は長年、製造や経営企画でキャリアを積み、2年前に人事部に異動となりました。製造部門にいた頃、工場で自動化ラインの設計に携わっていたのですが、そのときにデータマイニング、つまりビッグデータを集め、分析・活用するという経験をしていたため、初めて人事部に配属されたときに学生のエントリーシートを見て、これをデータ分析すれば、選考の際に活用できるのではないかと考えたのが始まりです。そして実際にAI選考をスタートさせたところ、エントリーシートの分析を進める中で、思わぬ副産物が出てきました。それは例えば、「こういう人は○○を好む傾向にある」「こういう学生は○○をしたい傾向にある」といった興味・関心や嗜好性を表すもの、いわゆる心理変数です。これらの傾向を属性ごとにカテゴライズすることで、採用マーケティングにも活用できるのではないかと考えました。

―― システムの構築など導入作業は社内で行ったのですか?

山崎 AIのエンジンに関しては一般に流通されているものを使い、それを開発会社に依頼して、社内システムに繋げました。とはいっても、仕組みを理解していないときちんと活用できないので、私自身も今まで縁遠かった分野でしたが、勉強をしました。導入当初は、思うような結果が出ず、トライアンドエラーを繰り返しましたが、それも良い経験です。

「AI マーケティング」×「AI 選考」の手法

斉藤 エントリーシートをデータマイニングで分析し、そこから抽出した頻出語彙や属性的な情報、地理的な情報などをカテゴライズしていきます。そして、そこでセグメントしたものに対して、プロモーションを打っていくという流れです。例えば、近隣の学生に対して近隣の鉄道に広告を出す、理系の学生に向けてロボットコンテストや学会などのイベントに協賛支援するなど、各ターゲットの興味・関心や嗜好性に合わせてアプローチし、より効果的なプロモーションを実現させます。さらに、その人がどういう広告を見てホームページに飛んできたのか、流入経路を分析するなど、効果測定も実施。そこから次のチャネルミックスを検討するといったプロセスを繰り返していきます。

―― AI採用についても分析から活用までの流れを教えてください。

山崎 こちらもエントリーシートをデータマイニングで分析するのですが、AI採用はここから、AIマーケティングとは異なる「LIWC」(=Linguistic Inquiry and Word Count)というツールを使います。これは「嬉しい」「楽しい」「悲しい」など語彙を感情ごとにカテゴリー分けするツールです。このLIWCが組み込まれている機械学習プログラムに、エントリーシートデータを入れると、単純に感情だけでなく、その人のパーソナリティを類推でき、その結果から、私たちの求める人物像との合致度を測ります。またこの技術は、文章の癖からその人の性格を読み取ることや、他者のエントリーシートとの類似性なども見つけ出すことが可能です。

―― こうした科学的採用アプローチは、会社側・学生側それぞれにどのようなメリットをもたらすのでしょうか?

山崎 会社にとっては、求める人材との合致度が高まるため、組織へ適合しやすく、定着率が向上し、結果的に人材のロスと補充採用への余分な出費を抑えることができます。さらに職種にも適合しやすく、ハイパフォーマーとしての活躍も期待できるなど、今まで以上に人材活用が進むと考えています。一方、学生にとっては、学校名や学部・学科といった余計なバイアスがなくなり選考の公平性が上がった点と、マッチング度の向上や採用の効率化によって就職活動の負荷が軽減され、学業やその他課外活動に取り組む時間を確保できるようになった点がメリットになると思います。

母集団は前年比の2.5倍に、女性のエントリー数も増えた

―― この取り組みによってどのような効果、実績が得られましたか?

山崎 まずはAIマーケティングの効果として、採用ホームページに訪れる学生の数が急激に増え、閲覧数は前年比で2倍になりました。また、母集団形成でも大きな成果を上げ、受験者数が前年比の2.5 倍と過去最高を達成しています。実際の採用実績でも、質・量ともに担保され、中長期的な人材不足の解消に寄与できたと思います。さらに採用活動が効率化され、ルーティンワークから解放されたことで、私たち人事部のメンバーの仕事も、企画を考えるなど付加価値の高いものへとシフトすることができました。私自身、日々の仕事がとても楽しくなり、大きなやりがいを感じています。

―― AIマーケティングの効果として、受験された学生の層に変化はありましたか?

山崎 これは大いにありました。今までは機械メーカーということもあり、機械・電気・電子・情報系の学生がメインターゲットとなっていましたが、現在は物理、化学、生物、地球環境、農学など理工系の幅広い学部・学科の学生がエントリーしてくれたり、今まであまり採用実績のなかった大学の学生にも目を向けてもらえたりするようになりました。実際、2018年4月に入社したAI選考1期生の中には、機械・電気・電子・情報系のバックグラウンドを持っていない者も少なくないのですが、その中の一人は現在、AIの研修を受けており、めきめきと頭角を現しています。さらに、従来は女性のエントリーが少なかったのですが、女性が好みそうなイベントを積極的に開く、女性目線で福利厚生を見直す、といった取り組みによって、2018年度は女性のエントリー数が前年比の3倍以上になりました。

―― AI選考について、学生さんから何か反響などはありましたか?

山崎 「すべてAIが見ているのですか?」と不安がる方もいます。しかし、そうではありません。人は人、AIはAIで得意・不得意があるので、そこを相互補完し合って協働していくという考え方を取っています。例えばAIの強みは、まとめ読みができたり、高速読みができたり、またバイアスがかからないところ。一方で、文章が論理的に書けているかといった判断は、AIではできません。効率化という意味では、確かに人間が見る部分は減りましたが、AIがすべてを肩代わりしてくれるわけではないという視点で選考設計をしていることをきちんと伝えていきたいです。

採用だけでなく、人材育成などにも活用を広げたい


――科学的なアプローチに関して、新たな取り組みや展望があればお聞かせください。

斉藤 まず採用に関しては、優秀な学生と一人でも多く出会えるように、企業としての認知度も含め、採用ブランドを高めていきたいと思っています。そういう意味でも、AIマーケティングの更なる強化が不可欠でしょう。そしてもう一つ考えているのは、テクノロジーを採用時だけでなく、入社後にも活用すること。この分析技術は、同じロジックでいろいろなことに使えることがわかってきました。実は新入社員には、入社後も毎日レポートをテキストデータで提出してもらっており、それが日々蓄積されています。そこから入社後のパーソナリティをじっくり見ることもできるので、ハイパフォーマー分析や人材育成、配置などにうまく活用していけば、会社全体として非常に良い循環が生まれるでしょう。弊社の方針は、小さく生んで、大きく育てること。とにかくいろいろとトライアルしながら、新しい取り組みにチャレンジしていきたいと思っています。

取材を終えて

昨今HRテクノロジーが注目を集め、採用プロセスにAIを活用する企業が増えてきている。しかし、「とりあえずAIを入れてみた」「導入したけれど、うまく活用できない」といった声も少なからず聞こえてくるのが現状だ。アマダホールディングスの山崎氏は、AI導入の成功の秘訣を、「最初は小さいところから始めること」と語る。確かにAIありきでは、導入に苦労する上、長続きもしないだろう。まずは解決すべき課題を見つけ、そこにAIを当て、トライアンドエラーを繰り返しながら、少しずつ広げていくことが理想だ。同社の取り組み事例を参考に、ぜひチャレンジしていただきたい。

株式会社アマダホールディングス
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著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。

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