下田 直人著
PHPビジネス新書
840円
人が動く!組織が変わる!「勝ち組企業」の就業規則
中小企業の場合、就業規則に対する関心、配慮は薄いと思う。従業員が10人を超えた時に、出来合いの就業規則に自社の労働時間などを書き入れて労働基準監督署に提出。細かい内容は覚えていない、という経営者が多いのではないだろうか。
しかしそれでは会社の力にならない。本署は就業規則を通じて、社風を良くし、従業員のモラルを高め、業績を上げるための知恵を教えてくれる。

中小企業の経営者にとって一番困るのは、社員とのトラブルだ。本書によれば、各都道府県にある総合労働相談コーナーに相談された労働問題の相談件数は平成14年度が62万5572件から平成18年度は94万6012件に急増している。ちなみに最新データをWeb検索したところ平成21年度の総合労働相談件数は114万1006件である。
日本の労働力人口約6500万人を114万人で割ると57人に1人が相談している。その他に労働基準監督署に駆け込んだケース、裁判に発展したケースを考えるとものすごい数のトラブルが発生していることがわかる。

人事絡みでもっとも多くトラブルが発生するのが入社時と退社時だ。まず入社時。通勤や業務で車を使う企業は多いだろうが、免許の確認をしているだろうか?
履歴書の「普通自動車運転免許あり」という申告を鵜呑みして、免許証を確認していないのではないか?
著者のクライアント企業で、社員が無免許運転でひき逃げ事故を起こしたことがあったそうである。この事故が起きたのはたまたま休日だったので、会社責任が問われなかった。平日の事故なら会社の管理責任が問われることは必至であった。

著者がすすめるのは、運転免許証の有無の確認にとどまらず、入社面接の段階で運転免許センターから「運転記録証明書」を取り寄せさせ、過去の交通違反記録を採用の判断材料にすること。
たしかに何度も事故を起こした人間は、入社後も事故を起こす可能性は高いだろう。

退社のトラブルで多いのは、「いつまでに退職の申し出をするのか?」、「引き継ぎ義務」、そして「有給休暇の消化」だ。いずれも就業規則に明文化し、違反した場合の懲戒や退職金の減額規定を明確化しておけばリスクは低くなる。
有給休暇は労働者の権利であり、退社時に使う権利がある。しかし有給休暇を会社が買い取るという方法もあるそうだ。買い取り額は日給で換算する必要はなく、「1日5000円」とか「1日1万円」と定めておけばいい。これは企業にとって雇用関係を切り、社会保険料を節約できるメリットがある。退職者も余分にお金がもらえ、雇用保険の失業給付までの期間が短縮される。そして早く求職活動して転職できるというメリットがある。

通勤手当についてもおもしろい実例が紹介されている。通勤手当は、社会保険、健康保険・介護保険、雇用保険・労働保険の計算に含まれるので、遠距離通勤の社員が多いと会社負担分の金額はけっこうな金額になる。
そこでQ社では沿線の一定範囲(会社に近く、通勤手当が安い)に住んだ場合、家賃に半額に加え、沿線加算金7000円を支給することにした。7万円の家賃なら計4万2000円を支給。社員負担は2万8000円になる。

この施策で自宅からの遠距離通勤者の疲れが大幅に軽減され、若手従業員から大好評だった。しかも以前の全従業員に支払っていた通勤手当の合計額と、制度導入後の通勤手当と住宅手当の合計額を比較すると安くなっていたのだ。

その他にもリフレッシュ休暇、ワーキングマザー制度、選択出勤制、裁量労働制などの魅力的な施策が具体的に紹介されている。
金庫の中に仕舞ったまま何年も放置されている就業規則を読み返し、本書の知恵を学び、自社の制度に足りないものを補えば、社員の従業員のモチベーションは確実に向上するだろう。遅効性の施策でなく、やる気になればすぐにできる即効性の施策ばかりである。
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