人事部で、未熟な教育コンサルタントとして働いていた3年目のある日、上司から横浜地域へ転勤を命じられました。横浜地区は、追浜から川崎までと範囲も広いうえ、そこの各キャンプで管理者訓練が実施されていたのです。転勤後の私の最初の仕事は、横浜港で働く沖仲士のリーダーを対象とする管理者訓練でした。
第5回 本部から現場へと横浜地区への転勤
会場に行くと、恰幅の良い逞しい海の男達が座っていました。その頃は朝鮮戦争が終わったばかりで、現地で戦死した米兵の遺体を運んでくる大きな船を、沖仲士達はタグ・ボートで桟橋まで曳いて来る仕事をしていました。管理者訓練の対象者は、その沖仲士達のリーダーでした。

教壇に立って見回すと、成る程、怖いような威厳のある男達が座っています。年齢は私より遥かに上の50歳前後、仕事経験も豊富な集団と思われ、その威圧感から教壇に立っていてもおのずと足が震えてしまいます。「30歳の小娘が、何を教えられるのだ?」。彼らの顔は言葉に出さずともそう語っています。

でも仕事です。やるしかありません。私は決心して恐る恐る、でも大声で言いました。「私はここに管理者訓練講師として来ました。そして、ここに新しい管理手法のテキストを持っています。ここに述べてある理論をきちんと皆様に伝えますが、実際の管理者経験は全くありません。でも懸命に伝えますから、皆様はご自分の経験と実績で、それに血や肉を付けて、補って聞いてください」。

すると、メンバーの中で特に大きくガッシリした男前の人が「気にいった。ネエちゃん。」と声を掛けてくれ、続いて全員の大きな笑い声に包まれました。「助かった!!」。私はホッとして肩で息をつき、胸が一杯になりました。

後で分かったのは、このとき声を掛けてくれたのは、キャプテン・乙部という、グループ中の大リーダーでした。彼の一言のおかげで、参加者達は優しい笑顔でいてくれ、やっとのことで私は初舞台を務めることができたのです。今になって振り返ってみれば、懸命に伝えるとは言ったものの、私の事前の勉強は不十分でした。しかし、その時思ったのは「初舞台は怖いが、逃げてはいけない。包み隠さず素直に、怖さも白状して、心を込めて言うこと。格好をつけることは無い」ということでした。

コンサルタントは参加者より未熟で物知らず、という場面は多いのです。そういう時でも、ありの儘の自分で、与えられたテーマを真剣に勉強し、仕事に取り組むことが大切です。その後も多くのコースで失敗経験を重ねましたが、結果としてそれが私の成長に繋りました。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!