金井壽宏 著
光文社新書 756円

 2004年とかなり前に発行された本だが、いまだに読み継がれている。良書といっていいだろう。ただし読み始める前に注意しておきたいことがある。数時間で読み終えられるヤワな本ではないことだ。

組織論、心理学に触れたことがなければ、読了まで数日、いや一週間以上かかるかもしれない。図表も一箇所あるだけだ。スルメのように噛みでのある本だと覚悟して読み始めてもらいたい。
組織変革のビジョン
読みにくさの原因は、引用が多すぎること。人にモノやコトを教える時、ひとつのモノ、ひとつのコトに限定しないと学びが阻害されてしまう。しかし著者はさまざまなエピソードや引用を重ねていく。ベストセラー狙いのビジネス書は読みやすさを優先するが、著者はあまり気にしていない。
 読みにくいが、内容は面白い。いろんな箇所で「なるほど」と納得できる指摘がある。たとえばプロローグに本書で唯一の図が出ている。下記の図だ。
組織変革のビジョン
図を説明すると、自分と組織の関係を描いたもの。左側が学生、右側が入社10年を過ごした社員である。学生にとって大学は自分の一部に過ぎないが、社員にとっての自分は組織の一部である。すべての学生と社員が同じというわけではないが、そういう心理は理解できる。
 学生が就職してすぐに大人(社会人)になるわけではない。入社早々は希望と緊張感を抱きながら、大学と異なる職場の雰囲気に違和感を持っている。そしていつの間にか職場に慣れ「うちの会社」と言うようになる。「うちの会社」は一体感を持っていることの証明だ。著者は「うちの会社」と言い始めることを二度目の入社式と呼んでいる。

 本書は読みにくいにもかかわらず、随所に魅力的な惹句がちりばめられている。
「火事場では自然に協働が起こる」「未熟なうちは成長する。成熟すれば、あとは衰えるだけだ」「組織に属する者は、インコンピテエンス(無能)になるまで昇進する」「適応は適応力を阻害する」「変革の敵は自分の中にもいる」「仕事そのものに、ひとは満足を感じる」「きちんと終わらないとはじまらない」「われわれは平均化によってすべての知性を失う」「集団で考える方が過ちをおかしやすい」
 これらの多くは見出し。内容を知りたくなる。読んでみると考察がユニークで鋭い。この面白さが理解できるようになれば、読みにくさはほぼ解消している。後は一気に読めるだろう。読了すれば企業人としての認識が改まり、一皮むけると思う。教えられることの多い本である。
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