単発・短時間の仕事をマッチングアプリ等で手軽に募集できるいわゆる「スポットワーク」は、人手不足を補う便利な手段として利用する企業が増えています。しかし、2025年7月に厚生労働省(以下、厚労省)が公表したリーフレットでは、スポットワークであっても「労働者の応募=労働契約成立」や「休業手当の支払い義務」など、通常の雇用と同様の法的責任があることが明記されました。ここでは、スポットワークの手軽さの裏に潜む落とし穴を避けるために、企業が取るべき実務対策をお話しします。
「スポットワーク」の利用で企業が留意すべき落とし穴とは? 厚生労働省リーフレットから学ぶ実務対策

スポットワークで誤認されやすい“労働契約が成立するタイミング”

スポットワークにおいて誤解が多いのが「労働契約がいつ成立するのか」という点です。

厚労省のリーフレットによると、面接を経ずアプリなどで先着順にマッチングが行われるタイプの求人では、「スポットワーカーから応募があった時点で別途特段の合意がなければ労働契約が成立すると一般的に考えられる」としています。

そのため、企業側が「面接をしていないから契約ではない」と考えていても、スポットワーカーが応募した時点で労働契約は成立しており、「労働法」上の義務が発生する可能性が高いのです。

このようなケースでは、応募後に企業側が一方的に労働契約を変更・キャンセルする場合、スポットワーカーが別の就労場所を見つける機会を失わせることにつながり、損害を与える可能性が出ますので、労働契約のキャンセル、労働日や労働時間等を変更したい場合は、スポットワーカーへの配慮を考慮しつつ、労使で話し合いの上、合意を得ることが必要になります。

また、使用者となる企業は、スポットワーカーからの応募を確認した段階で労働条件通知書等を送付し、労働条件を明示しておくことが求められます。労働条件の明示については、スポットワークの仲介業者が代行で行なってくれる場合であっても、「労働基準法」上は、使用者(企業)側にあるため、正確に明示が行われたかチェックをしておくようにしましょう。

スポットワークでの雇用は、スピード感が魅力的ではありますが、法律で定められている手続きや確認が省略されがちですので、適切な対応をとる体制を整えましょう。

「仕事ないから帰っていいよ」は危険? 休業手当の支払い義務が発生するケース

スポットワーカーとの労働契約が成立している場合、たとえ勤務日数が1日だけであっても、「労働基準法」が適用されます。

中でも特に見落とされがちなのが、職場都合での休業や早上がりに対する「休業手当」の支払い義務です。たとえば「天候不良によって業務を中止した」、「人員調整で早上がりさせた」場合、使用者に休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務が発生することがあります。

職場では、店舗の客足が少なかった、現場が早く終わった、予想より発注が減ったなど、企業側の都合で勤務予定を短縮することもあり得ます。ですが、その判断が使用者側の都合によるものであれば、法律上の休業に該当する可能性が高く、たとえば「半日分しか働いていないから半日分だけの賃金を払う」といった対応では、賃金が平均賃金の60%に達していないため、休業手当として差額を支払う義務があります。

また、企業側のリスク管理として、労働者が契約当日に出勤してこなかったケースであっても、「企業側が一方的に中止した」と労働者から主張されてしまった場合、トラブルの火種になるため、出勤前の連絡・確認手段、欠勤やキャンセルのルールも労働条件の明示と合わせて明確に周知しておくことが重要です。

賃金・労働時間の管理不備が引き起こす深刻なリスクとは

スポットワーカーに関するトラブルでは、「労働時間と賃金の記録が不十分で、賃金支払いの根拠が不明確」というケースもあります。

たとえば所定労働時間が15時〜20時の予定だったが、19時で終了したという場合、企業は19時までの実働分を正確に把握し、賃金を支払う必要があります。ですが、タイムカードや出退勤記録がなかったり、現場担当者のメモのみで処理されているような場合、後日、労働者から「所定労働時間分の賃金が支払われなかった」と主張される可能性があります。

さらに注意が必要なのは、準備や片付け、着替え、手待ち時間なども「労働時間」に含まれると判断されることがある点です。

したがって、こうした時間を労働時間から無条件に除外してしまうと、未払賃金として労働基準監督署に申告されるリスクが生じますので、あらかじめ所定労働時間に入れておくようにすることが賢明です。

企業としては、アプリや勤怠システムを使った出退勤管理の体制を整えておくと同時に、早上がりが発生する可能性がある旨を事前に労働者から了承を取っておくようにしましょう。

いかがでしょう。

スポットワークは、スピーディに労働者を確保することができますが、労務管理を簡略化できるものではありません。企業が「労働基準法」などの法律上の義務を見落としてしまうと、未払賃金請求等による労働基準監督署からの是正勧告といった大きな問題に発展しかねません。

スポットワークを安全に導入・活用するには、労務リスクを正しく理解し、社内ルールと記録体制を整えることが不可欠です。実務対応等に不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談しながら、柔軟で法令に即した労務管理を目指していきましょう。
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