地震や台風、ゲリラ豪雨といった自然災害が多発する昨今、従業員の安全と企業の業務継続を両立するには、的確な労務対応が欠かせません。本稿では、災害時における出勤、欠勤・遅刻の扱い、休業手当の必要性などを「労働法」に基づいて解説し、実務で注意すべきポイントを解説します。

地震・台風・ゲリラ豪雨などの災害時、「出勤」と「手当」について企業の正しい対応は?

災害時の「出勤」と「欠勤」等の扱いをどうするか

●災害時の出勤命令と出勤以外の選択肢

災害時においても、原則として使用者は従業員に出勤を命じることができます。しかし、安全配慮の観点から、危険が予見される状況での無理な出勤はさせない企業が増えているように感じます。

“出勤させない場合にどのような対応をとるか”の判断に迷われる企業が多いですが、最近では、テレワーク制度の整備が進みつつあるため、災害発生時においても「出社か欠勤か」の二択にせず、「在宅勤務」を指示する、または「休日の振替」、「年次有給休暇の取得奨励」を実施するなど、柔軟な選択肢を用意すると良いでしょう。

●災害の影響による欠勤・遅刻・早退の扱い

従業員が自然災害で欠勤・遅刻等した場合は、「ノーワーク・ノーペイ」の原則により、賃金の控除が認められます。しかし、災害に起因する通勤困難など、本人に責任がない事情の場合は特例的な取り扱いを検討しても良いでしょう。

災害時の「休業手当」の支払い義務と判断基準

●休業手当が必要となるケース

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」により労働者を休業させた場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支給しなければならないと規定されています。たとえば、従業員は出勤可能な状況だが、会社の判断で「本日は安全確保のため全社休業とする」といった決定をした場合、従業員に対する休業手当の支給が必要となります。
なお、平均賃金は、原則以下の計算式で計算します(「労働基準法」12条1項)。

平均賃金の計算式
休業が発生した日以前の3ヵ月間の賃金総額 ÷ その3ヵ月間の総日数(暦日数)
※「賃金総額」には、基本給のほかに残業手当や諸手当を含む。

一方で、災害によって施設が物理的に壊滅的被害を受けた場合や、停電等で業務遂行が不可能な状況では、「不可抗力による休業」として休業手当の支払い義務は発生しません。不可抗力の判断は、(1)その障害が事業の外部的要因により発生しており、(2)通常の企業経営における最大の注意を払っても回避できない事情かどうか、の2点が基準となります。

●判断に迷うグレーゾーンと対応策

上記のような判断基準はありますが、実務上は判断に迷うケースが多いです。

例えば、「事業場は稼働可能だが従業員の一部が通勤困難」や「すでに出社しており業務はできるが、今後天候の悪化や交通機関の混乱が予想されるため終業前に帰らせた」というパターンです。このような場合には、業務遂行が可能な従業員については休業手当の支給が必要になると考えられます。

一方で、通勤が困難により出勤できなかった従業員についてはノーワーク・ノーペイの原則により休業手当の支払いは不要になると考えられ、個別事情に配慮した判断が必要となります。

また、上記のようなケースでも、「休業手当を支給する」以外に「年次有給休暇の取得を促す」、「休日と振り替える」、「あるいは特別休暇制度を設けてカバーする」など、会社の実情に応じた柔軟な対応を検討すると良いでしょう。

これらの対応をとる際には事前の制度整備と従業員との合意形成がカギになります。出勤の可否と給与の取り扱いはセットで考え、事前に制度を整備しておくことをおすすめします。

「災害時の労務対応」のその他の注意点

最後になりますが、災害発生時や天候の悪化が予想される状況下で、「だれが」、「いつ」上記のような判断を下すか事前に決めておくことも重要です。これらの判断を行う責任者、災害の規模の目安、緊急連絡網の整備や災害時勤務方針のマニュアル化も併せて事前に検討すると良いでしょう。

また、関連して近年では「BCP(事業継続計画)」の策定をしておくことも重要視されています。BCPとは、自然災害等の自社の事業継続が危ぶまれるような緊急事態に遭遇した場合において、損害を最小限にとどめつつ、事業の継続あるいは早期復旧を実現するために、平常時に行っておくべき活動や緊急時における対応方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

自然災害発生時やその発生が予想される時に慌てることがないよう、事前の準備をしっかり行っておきましょう。
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