2025年6月13日、第217回通常国会で「年金制度改正法」が成立した。法律の名称は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」。今回、成立した改正内容の中で、企業経営に大きな影響を及ぼすと思われるのが「社会保険の加入対象の拡大」である。社会保険の適用拡大が一層進められることが、法定されたわけだ。そこで今回から複数回にわたり、決定された適用拡大の内容を見ていこう。
【年金制度改正法/社会保険がさらなる適用拡大へ:1】賃金要件の廃止で「106万円の壁」が撤廃に

不要になりつつある「厚生年金等の加入義務」の賃金要件

短時間労働者が厚生年金などに加入を義務付けられるのは、現行制度では次の5要件が揃った場合とされている。

●企業規模要件 … 被保険者数51人以上の企業に勤務すること
●労働時間要件 … 週の所定労働時間が20時間以上であること
●賃金要件 ……… 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
●雇用期間要件 … 2ヵ月を超える雇用の見込みがあること
●学生除外要件 … 学生でないこと

今回の年金制度改正法には上記のうちの賃金要件を撤廃するなど、次の4項目の実施が定められている。

1.賃金要件の撤廃
2.企業規模要件の撤廃
3.個人事業所に対する社会保険加入の強化
4.支援策の実施

本稿では「賃金要件の撤廃」について見ていこう。

現行の短時間労働者の社会保険加入要件では、前述のとおり「所定内賃金が月額8.8万円以上であること」という賃金要件を充足した場合に、その他の要件も満たすと加入が義務付けられる。ところが、賃金要件の撤廃が決定したため、法施行後は加入に際して賃金額は問われないことになる。ただし、賃金要件の撤廃により、所定内賃金が月額8.8万円未満でも社会保険加入が求められるということではなさそうだ。

過去20年間、わが国の最低賃金は右肩上がりを続けてきた。そのため、「所定内賃金が月額8.8万円以上であること」という要件をあえて設けなくても、「週の所定労働時間が20時間以上であること」を求める労働時間要件を充足していれば、自動的に所定内賃金が月額8.8万円以上となるケースが生じている。

例えば、2024年度の東京都の最低賃金は1,163円である。この条件で週20時間の勤務を行うと、所定内賃金の月額はおよそ10万円(≒1,163円×20時間×52週÷12ヵ月)になる。このような事情から、短時間労働者の社会保険加入における賃金要件は不要になりつつあるとの見方もできよう。

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