
「高年齢者雇用安定法」改正のポイントと企業に求められる対応について
2025年4月1日より、すべての企業に対して「65歳までの雇用確保措置」の実施が義務化された。これは、「高年齢者雇用安定法」の改正によるもので、これまで一部の企業に認められていた“経過措置”が廃止されることに伴うものだ。これまでは、経過措置により労使協定で「継続雇用制度の対象者」を限定することが可能であったが、2025年3月31日をもってその取扱いが終了した。
今後は、すべての企業において以下のいずれかの措置を講じる必要がある。
・定年制の廃止
・65歳までの定年の引き上げ
・希望者全員を対象とした65歳までの継続雇用制度の導入
この改正の背景には、急速な少子高齢化による労働力人口の減少や、報酬比例部分の年金支給開始年齢の引き上げがあり、無年金・無収入期間を防ぐための措置であった。
今年の4月以降60歳となる人については、特別支給の老齢年金の受給がないのであるが、あわせて知っておきたいのが、「高年齢者雇用継続給付の支給率の引き下げ」である。「高年齢雇用継続給付」は、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける“60歳以上65歳未満の一定の雇用保険被保険者”に給付金を支給する制度だ。
60歳に達した日(その日時点で被保険者であった期間が5年以上ない方は、その期間が5年を満たすこととなった日)が2025(令和7)年4月1日以降の場合は、各月に支払われた賃金の10%を限度として支給されることになり、従前の15%より支給率が引き下げられている。なお、高年齢雇用継続給付は今後も段階的に縮小し、最終的には廃止する方針も示されている。
これらの事由により、就業継続を促す公的なインセンティブが減少することになるため、企業側は人件費の見直しなどが必要になるといえる。
「高年齢者雇用安定法」改正に伴う実務上の対応と留意点について
改正対応の第一歩は「自社制度の確認」だ。まずは就業規則において、定年制度の確認を行い、65歳までの雇用確保措置が制度上整っているかを点検しよう。すでに65歳以上となっている場合や、定年制を廃止している場合は就業規則対応の必要はないといえる。継続雇用制度を設けている場合についても、問題がないか確認をしておきたい。労使協定による経過措置を定めている場合は該当条文の削除が必要である。経過措置の定めがない企業であっても、継続雇用しない事由について、解雇事由又は退職事由とは別に定めている場合は、「高年齢者雇用安定法」違反となるため注意が必要だ。
なお、2024(令和6)年の「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果によると、高年齢者雇用確保措置の措置内容別の内訳は、 以下の通りとなっており、若干ではあるが定年の引上げを実施している企業が増えているようである。実際、近年の採用難により、定年の引上げに関する相談は増えているように思える。この機会に定年の引上げ等を検討する企業も増えるかもしれない。
(1)「継続雇用制度の導入」により実施している企業:67.4% ※1.8ポイント減少
(2)「定年の引上げ」により実施している企業:28.7% ※1.8ポイント増加
継続雇用制度を導入している場合、再雇用者への職務内容の調整や報酬体系の見直しも、企業の持続性に大きく関わるため、経営的観点からも慎重な対応が必要だといえる。
また、高年齢者の就業ニーズも多様化していることから、フレキシブルな働き方の導入も有効といえる。短時間勤務やテレワークの活用、高齢者の能力を活かした業務設計などが挙げられる。企業側としても、単なる延長雇用ではなく、「活かす」ための雇用制度を志向することが求められる。
実務上の対応としては、以下のようなステップが有効といえる。
1.就業規則および定年制/継続雇用制度の見直し
2.該当者へのヒアリングと希望確認
3.再雇用者の賃金制度や人事評価制度の整備
4.シニア社員向けキャリア設計の支援
5.担当部署(人事部・総務部など)への法改正内容の共有と研修
加えて、努力義務ではあるが、70歳までの雇用確保措置も検討が求められている。今後の人手不足の深刻化を見据えれば、高齢人材を「戦力」として活用する視点が企業経営には欠かせない。
2025年4月からの「65歳までの雇用確保措置」の完全義務化は、企業にとって制度対応にとどまらず、人材活用戦略の見直しの機会であるといえる。単に延長雇用とするのではなく、シニア世代の能力と経験を活かす制度設計が、持続可能な組織づくりに直結する。今後の法改正や社会変化に対応するためにも、早期の準備と柔軟な雇用管理が求められるだろう。
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