2022年10月、従業員数101人以上500人以下の企業で勤務する一定の短時間労働者に対し、社会保険への加入が義務化された。そこで前回は、企業の人事労務担当者が押さえておきたい“適用拡大のポイント”として、「従業員数の要件」の実務上の留意点を整理した。第2回目の今回は、「労働時間の要件」の具体的な考え方を見てみよう。

【社会保険適用拡大の実務】「労働時間の要件」はどのように判断すればよいのか(第2回/全3回)

労働時間は『残業時間』を除いて判断する

2022年10月からの社会保険適用拡大により、現在は従業員数101人以上500人以下の企業で勤務する従業員についても、次の4つの要件の全てを満たした場合には「短時間労働者」として社会保険に加入することが義務付けられている。

(1)週の所定労働時間が20時間以上
(2)月額賃金が8.8万円以上
(3)2ヵ月を超える雇用の見込みがある
(4)学生ではない

上記(1)が「労働時間の要件」である。この要件は2022年9月までの基準と相違はないが、従業員数101人以上500人以下の企業にとっては初めて課される要件のため、間違いのないように仕組みを理解してほしい。

「労働時間の要件」ではじめにポイントとなるのは、「20時間以上かどうか」の判断を、単なる『労働時間』ではなく『所定労働時間』で行う点である。所定労働時間とは、企業と従業員との間で契約をした『通常働く時間』のことだ。従って、残業時間を含まない契約上の勤務時間が週に20時間以上なのであれば、「労働時間の要件」を満たすとされる。

例えば、「1日4時間、週4日勤務契約」のパートタイマーがいるとする。この場合、週の所定労働時間は「16時間」(=4時間×4日)のため、20時間以上の要件は満たさない。これに対し、「1日4時間、週5日勤務契約」のパートタイマーの場合には、週の所定労働時間が「20時間」(=4時間×5日)になるため、「労働時間の要件」を満たすことになるわけである。

『残業を入れた労働時間』が週20時間以上の場合

それでは、所定労働時間は週20時間未満だが、頻繁に残業が発生する職場のために実際の労働時間が週20時間以上になる場合、「労働時間の要件」はどのように判断すればよいのだろうか。

このような場合には、まず残業時間を含めた実際の労働時間が「2ヵ月連続で週20時間以上」になるかどうかがポイントとなる。仮に「2ヵ月連続で週20時間以上」となった場合、3ヵ月目以降も同様の状態が継続すると見込まれるのであれば、3ヵ月目からは社会保険への加入が義務付けられることになる。

例えば、前述の「1日4時間、週4日勤務契約」のパートタイマーのケースにおいて、2ヵ月間毎日1時間の残業が発生したために、実際の労働時間が1日5時間であったとする。その結果、2ヵ月連続で週20時間の勤務になり、3ヵ月目以降も同様の残業の発生が見込まれているとしよう。この場合、パートタイマーは3ヵ月目から厚生年金・健康保険に加入しなければならないのである。

社会保険への加入回避を目的に、雇用契約上の労働時間を恣意的に週20時間未満に抑制したとしても、実労働時間が週20時間以上となる月が連続するのであれば、契約途中から社会保険への加入義務が発生するため、注意をしたいところである。

所定労働時間が週によって異なる場合

次に、1週間に勤務すべき時間が、週によって異なるケースについて考えてみよう。

例えば、1週目と2週目は「1日4.5時間、週5日勤務」、3週目と4週目は「1日4時間、週4日勤務」で、この4週間の勤務サイクルが繰り返されるとする。このように、週の所定労働時間が短いサイクルで変動する雇用契約の場合には、当該勤務サイクルにおける週の所定労働時間の平均が20時間以上になるかどうかで判断をすることになる。

上記の場合、1・2週目の週の所定労働時間は「22.5時間」(=4.5時間×5日)、3・4週目の週の所定労働時間は「16時間」(=4時間×4日)である。従って、4週間の勤務サイクルにおける週の所定労働時間の平均は「19.25時間」(=(22.5時間×2週+16時間×2週)÷4週)と計算できる。これでは週の所定労働時間の平均が20時間以上にはならないため、このケースでは「労働時間の要件」は満たさないという結論になる。
週の所定労働時間の変動が4週間サイクルで繰り返される場合

所定労働時間が週単位ではない場合

最後は、所定労働時間が週単位で定められていないケースを考えてみよう。例えば、月単位で所定労働時間が決められている雇用契約の場合には、「週の所定労働時間が20時間以上」という要件についてどのように判断すればよいのだろうか。

このような場合には、「『月の所定労働時間』を『週の所定労働時間』に換算したときに20時間以上になるかどうか」で判断することになる。具体的には、はじめに月の所定労働時間に12ヵ月を乗じ、年間の所定労働時間を算出する。次に、1年間を52週と考え、先に算出された年間の所定労働時間を52週で除することにより、週の所定労働時間に相当する時間数を導き出すのである。

月の所定労働時間が「85時間」のケースで考えてみよう。85時間に12ヵ月を乗ずると、年間の所定労働時間は「1,020時間」と計算される。次に、1,020時間を52週で除すると、週の所定労働時間に相当する時間数が「約19.6時間」となる。20時間以上ではないため、「労働時間の要件」は満たさないと判断できる。
所定労働時間が月で定められている場合
次回の第3回では、短時間労働者が社会保険の加入対象とされる「賃金の要件」について、実務上のポイントを整理してみよう。


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