新型コロナウイルスのパンデミック以降、日本経済の先行きに暗雲が漂っているように感じる。例えば「全国旅行支援」にしても、特定業界の支援にはなるものの、その恩恵を被るのは当該業界と、比較的生活に余裕のある一部の人に限られるだろう。しかも、その財源は“借金”である。つまり、将来の大人世代に負担を先送りしているわけだ。年金制度の改定を例に、国民の生活に深く関わる税制の変化について考えたい。
年金制度は今後どう変わる? 税制と財政状況を理解して自らの生活を守ろう
日本の国債残高はすでに1,000兆円を超えており、1万円札を平たく積み上げて、それを太平洋側に倒せば、距離にしてアメリカのシカゴあたりまで届く途方もない借金額である。企業や生活者にとっては、国のレベルで借金があろうがなかろうが、それを敏感に感じ取ることはない。しかし、将来的には国家財政のつけを支払わされる。

すでに増税が始まっているとの声も出始め、現に2023年10月からはインボイス制度が始まる。そのうち、消費税も増税されると考えられる。また、身近なところでは社会保障制度の破綻を未然に防止するために、社会保険料の増税が待ち受けている。あえて「増税」と表現したのは、筆者はこれらを税金と何ら変わらないと考えているからである。

例をあげれば枚挙に暇がないが、社会保障制度の根幹でもある年金制度の改定に目を向けてみよう。すでに決定している事項としては、次のような“改悪”が待ち構えている。

●厚生年金の減額
2004年の年金大改革のときに制度化されたマクロ経済スライドの適用を操作し、国民年金を月額5万円台に下げ止まりさせ、その穴埋めを厚生年金の引き下げ期間の延長で対応することが検討されている。

●国民年金の加入期間の延長
現在、20歳~60歳の国民年金の加入義務年齢を64歳までに延長し、加入期間を45年とすることが検討されている。それにより、保険料徴収を拡大する見込み。

●厚生年金の適用対象者の拡大
厚生年金加入義務の企業規模要件、賃金要件などの改定により、より多くの被用者を厚生年金に加入させ、保険料徴収を拡大する。

また、今後見込まれる事項として以下のような内容が考えられる。

●厚生年金の加入上限年齢の引き上げ
現在は70歳となっている厚生年金の加入上限年齢を75歳に引き上げ、保険料徴収を拡大する。

●年金の支給開始年齢の引き上げ
現在65歳の年金支給開始年齢を、70歳までの雇用義務化に合わせ、68歳~70歳に引き上げる。

●国民年金の第3号被保険者制度の廃止
国民年金の第3号被保険者制度を廃止し、扶養者の厚生年金保険料に上乗せして保険料を徴収する。

これら、ほぼ確実に実施されるだろうと想定する改定は、マクロの年金財政のひっ迫を表しているといえよう。「歳入」を増やし、「歳出」を減らすことが一貫して行われているのがおわかりいただけるだろう。「100年安心」など夢のまた夢の様相である。年金制度は、数字のマジックで破綻しなければ良いというものではない。国民生活ができないような制度に存在価値はなく、実質破綻しているも同然ではないだろうか。

年金制度を象徴的に取り上げたが、ほかにも国民目線でネガティブな社会保障制度や税制の改定は目白押しである。思いつくものだけでも下記の事項がある。

●退職所得税制の廃止
●介護保険の「要介護1・2」認定者を国の枠組みから外し、地方自治体へ移行
●2024年度から65歳以上の介護保険料を引き上げ
●後期高齢者医療保険制度の自己負担を1・2・3割負担割合へ引き上げ

このような見通しであることを、企業も生活者も目を見開いて理解し、協調して自己防衛に勤しまなければならない。沈黙は敗北を意味する。以下に、キング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏の言葉を引用したい。

「最大の悲劇は、悪人による圧力や暴力ではなく、善人による沈黙である。直面する問題に対して沈黙しようと決めたとき、我々の人生は終わりに向かい始める。あなた達は、『発言』にだけでなく、『無言』にも責任を負うべきである。この世で、『究極の無知』と『真面目な馬鹿』ほど危険なものはない。愛だけが、敵を友人に変えられる唯一の力だ」(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)


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