働き方改革の一環として、大手中小を問わずテレワークの導入が進んでいる。しかし、テレワークにはまだまだ解決すべき課題も多いのが実状だ。その現状を探るべく、株式会社日立製作所が主催したHitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYOにおいて「働き方改革を加速させるテレワーク環境の将来像」というテーマでトークセッションが行われた。ゲストは、サテライトオフィス「NewWork」を運営する東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ サテライトシェアオフィス事業「NewWork」担当 永塚慎一氏と、社員の生産性を上げるオフィスの環境作りに携わる株式会社乃村工藝社 第一事業本部開発部の真鍋 順一氏。ファシリーテーターは同社ビルシステムビジネスユニット ソリューション営業本部の簑輪正樹氏が務めた。
最寄り駅のサテライトオフィスまでの「駅まで通勤」がテレワークの理想的な働き方

テレワークの定義と現在の導入状況

簑輪氏 総務省によると、テレワークとは情報通信技術(ICT)を駆使して時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方、と定義されています。働き方改革を進める強力な手法の一つで、テレワークには労働力人口の確保、生産性の向上、柔軟な働き方などさまざまな効果が期待できます。同じく総務省の調べによると、2018年の時点で19.1%の企業がテレワークを導入しています。2019年夏のテレワークデイズの盛り上がりをみるに、、テレワークを導入する企業は今後さらに増えるのではないでしょうか。また、テレワーク導入企業の就業形態をみると、モバイルワーク、在宅勤務、サテライトオフィス勤務の順に多くなっています。サテライトオフィス勤務は、テレワーク導入企業の中で11%しか認められていません。しかし、サテライトオフィス用のシェアオフィスの供給は、急激に増えています。そこで今回は、シェアオフィスのトップシェアを誇る東急株式会社の永塚氏、空間作りのトップランナーである乃村工藝社の真鍋氏にご登壇いただき、テレワーク環境の将来像について探っていきたいと思います。

働き方改革を推進。企業のテレワークへの取り組み

永塚氏 東急株式会社の永塚です。当社は鉄道事業をはじめ不動産、百貨店などさまざまな事業を展開しております。サテライトオフィス「NewWork」(ニューワーク)もそのうちの一つで、東急東横線・田園都市線の混雑緩和とテレワーク促進の目的で、NewWorkを首都圏の鉄道沿線の各所に設置しています。

真鍋氏 株式会社乃村工藝社の真鍋です。当社は、創業127年の歴史を持つ空間創造活性化に携わる企業で、商業施設のデザインや演出、展示会の開催やPRなどを手掛けています。働き方改革の一環として企業の特徴を活かしつつ、従業員の生産性アップを狙えるオフィス環境や企業内保育園を作ったり、地域と協力して古民家を改装したシェアオフィスの立ち上げを行ったりすることで地域の活性化にも貢献しております。

簑輪氏 まずは東急のNewWorkについて詳しく聞かせてください。

永塚氏 NewWorkは大企業の従業員に特化したシェアオフィスです。2016年に立ち上げて以来、大手企業を中心に約300社超、会員数約15万人、毎月延べ3万人の方に利用いただいております。テレワークの拠点を整備することで、企業で働く人たちの時間や場所にとらわれない働き方をサポートするための取り組みとして、NewWorkは誕生しました。2019年10月現在、直営店が30店舗、提携店のコワーキングスペースやサテライトオフィス、カラオケ店などが110店舗、合計約140店舗あります。利用者には大変好評で、来年以降、毎年50店舗の直営店を出店して、最終的に500店舗の直営店を展開する計画です。

直営店は無人店舗で、入口にカードリーダーを設置し、電車の自動改札のようにNewWorkカード(社員証)をタッチして入室/退室を行います。提携店は有人の受付にあるカードリーダーにタッチして入退室を行うと考えてください。NewWorkカードもしくは社員証が1枚あれば、全国各地の直営店と提携店が利用できます。直営店のレイアウトはどこの店舗も同じで、椅子と机があり、電源とWi-Fi、複合機、会議室を用意しています。複数の会社の社員が利用するため、情報漏洩防止の目的で室内では電話ブース以外の場所で携帯電話の利用と会話は原則禁止です。

事前予約は不要で、好きな席に自由に座ることができます。また、予約ができない代わりに、店内の混雑状況を10分ごとにホームページに掲載して確認が可能です。入り口のカードリーダーに記録された入退出の履歴を、企業の人事部や勤怠管理を行う立場の人がWeb上で確認でき、出勤しなくても「誰がどこの店で何時から何時まで使った」と社員一人ひとりの勤怠管理を正確に行えます。

簑輪氏 テレワーク導入企業でサテライトオフィスを認める企業はまだ少ないですが、使い勝手の良いNewWorkの利用者が急激に増えていることがわかりました。次はオフィス作りの観点で乃村工藝社のテレワークにおける具体的な取り組みをお聞かせください。

真鍋氏 2008年に当社のオフィスを新築したときは組織優先のレイアウトでした。しかし現在は、社員一人ひとりがベストを発揮できるようにチューニングされた「働き手優先の環境」へとオフィスレイアウトを変更しました。決まった固定席でなく、その日の気分で集中して作業ができるワークスペースを選べるようになっています。社内の至る場所に人流センサーを配置して定量的に社員の動きを把握することで、定期的にオフィスレイアウトの改善を行っています。

しかし、社員が働きやすいオフィスレイアウトに変更しても、子どもが急に熱を出した、学級閉鎖が起きるなど、突発的な出来事で子どもを預けられないときは、早退や欠勤をするしかありません。そこで、当社は大手研究所と協力して「おやこワークスペース」という子連れ出勤できる場を作りました。

オフィスデザインの前に子どもを連れた状態で出勤してグループディスカッションや個別インタビューを行った結果、「仕事への専念」と「子どもの見守り」を緩やかにつなぐ空間デザインが必要なことに気づいたのです。子どもはキッズスペースから出てきてもそこから先のワークスペースには入ってこない、親も近くにいる子どもの気配を感じる程度で仕事の妨げにはならないというスペースです。部屋と庭をつなぐ縁側みたいなスペースと思ってください。「おやこワークスペース」の利用者にアンケートを取った結果、つなぎの空間は大人も子どもも満足できる空間であることが判明しました。

現在の在宅勤務の課題や改善点

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