今回はもう一つの二極化、企業側の二極化について書いてみたいと思います。
企業側の二極化とは「学生の応募が殺到する会社」と「そうでない会社」が両極端に分かれてしまっている状況をさしていますが、これについては一番わかりやすい形で出ているのが、リクルートワークス研究所が今年の4月に発表した従業員規模別の求人数・民間企業就職希望者数・求人倍率のデータかと思います。このデータによると従業員5000人以上の企業の求人倍率が0.47倍、従業員300人未満の企業の求人倍率が4.41倍となっています。要は学生の人気が規模の大きな特定の企業に集中しているという状況になっているということです。
地方にいるとこの二極化の状況はさらに顕著になっていまして、同業のほぼ同じような規模の会社でも応募者数が極端に変わっているような話を聞きます。いったいなぜこのような二極化が進んでしまったのでしょうか? 二極化の要因は、就職サイトの普及にあると私は考えています。就職サイトの露出の多い会社が良い会社、安全・安心な会社、出ていない会社は不安な会社というふうに学生が思い込んでいることに問題の本質があると考えています。ではなぜ学生がこのように思い込むことになってしまったのでしょうか?
理由は二つあると考えています。一つは学生が就職先の選び方が間違っていること、もう一つは情報収集の進め方が極めて拙いことです。それぞれについてもう少し詳しくご説明させていただきます。

一つ目の就職先の選び方が間違っているというのは、完全な寄りかかり志向で会社を選ぶことが当たり前になっているということだと考えています。あの会社なら安心、あの会社なら大丈夫、就職先は安心・安全を求めて企業を選ぶものだという考え方で就職先を選んでしまう学生が非常に多くなっています。仕事を通しての自己実現欲求がほとんど省みられない状態で就職先を選ぶために、安全性や安定性を得られそうな一定の基準を満たした条件の中でしか会社を選べなくなっているようです。他人事ではなく、自分がその会社で力を発揮することが、本人にとってもその会社にとっても非常に重要なはずなのですが、そのあたりについての考え方がほとんど欠落した状態になっています。
そういう考え方の学生が多く入社した会社は間違いなく大企業病が蔓延し、将来に禍根を残すことになるということに今年辺りから企業も気づき始め、厳選採用の状況下で志望動機を重視した選考を取り始めているようにも感じています。

さて、もう一つの情報収集の拙さについてですが、今の学生のほとんどは就職サイトを利用して就職活動を行っています。就職サイトを使うことは問題ではないのですが、問題はその大半が「就職サイトしか使っていない」という状況にもなっていることです。したがって5月下旬以降、就職サイトの求人数(エントリー受付企業数や新規掲載数)が減ってくると、「行き先がない!!」とかなり逼迫した精神状態に追い込まれてしまう学生が多いようです。

そういうわけで6月くらいになるとこんなやり取りを学生とやっています。

学生 「もう受験できる会社がなくなってしまいました! どうしたらよいでしょう?」
   ※話しながら泣き出す学生もいます。

山本 「どうしてそう思うの?」

学生 「リクナビ、毎ナビに自分の希望する勤務地の求人が出ていません!」

山本 「そもそも就職サイトって求人広告の集合体で、お金をかけて新卒を採用したいという会社の求人広告しか出ていないよ。別に就職サイトに広告を出していなくても新卒を募集している会社はたくさんあるよ。」

学生 「それはどこに行けばその会社の情報がわかるのですか?」

山本 「大学にも求人は来ているし、ハローワークに行ってもそういう求人はたくさん出ているよ!」
何割かの学生はそれで少し元気になるのですが、大半の学生は不安そうな顔をして次にこのような質問を私にしてきます。

学生 「あの、そこに求人出している会社って・・・・・大丈夫なのでしょうか??」
就職サイトに出ていない会社は大丈夫じゃない会社になっているようなのですね。さらに上述した安心・安全な会社ではないというイメージに直結しているみたいです。あと、就職サイトに出ているような会社に入れなかったということが、どうもすごく肩身の狭いような思いにつながるみたいです。

ちなみに2社以上の内定をもらっている学生と話していて気づかされるのは、共通して情報網が多彩であることです。それもネットや雑誌などの静的な情報でなく、先輩社員や企業の人事、他の大学の就活生など人的ネットワークを豊富に持っており、それらの情報網を複合的に活用できている学生が、やはり多く内定を獲得できているように感じます。

就職サイトは広告の集合体ですから、利用者の人気がある内容に当然露出が集中していきます。今の学生は前述したように安全・安心を重視した企業選びを行っています。そうするとそれを売り物にした求人広告でないと学生の人気が上がらないので、学生のニーズに迎合する形でこの手の情報の露出が多くなります。そうすると結果的には、ますます学生の安心・安全志向の企業選びに拍車をかけて、今の間違った会社選びの考え方を助長してしまうことに至ったと考えています。

学生の大半は就職サイトの求人情報が絶対的なもの(??)という一種の催眠状態になっているようで、この呪縛を解き放つところから始めないといけないなあというのが、今の私の素直な気持ちです。 
さすがに企業側もこの構造のおかしさに気づき始め、学校への直接求人やリクルーター制など、就職サイトが普及する前に使っていた従来の手法に重点をシフトし始めているところが増えてきているように感じます。現時点では、学生たちの方がこうした変化にまだうまく対応し切れていないように感じておりまして、このあたりは私たちがしっかりと指導していかなくてはいけない部分だと思っております。

「就職サイトに依存するな!!」
「安全・安心だけで会社を選ぶな!!」
この二つが、今年の本学の就職指導のキャッチフレーズですね。
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