第80回 終身雇用の終わりに思うこと〜その2〜

大学の就職支援室からみた新卒採用

前回のコラムでは、終身雇用が終わりを迎える中、条件面ばかりを追い求めて仕事を選ぶことの弊害について、私なりの考えを述べさせていただきました。今回も引き続き、この件についてもう少し考えを整理するとともに、その改善のためにどのようにすればよいかアイデアを出してみたいと思います。
前回お話ししたのは、今の若者の短期間で転職を繰り返すタイプと、大手企業のリストラにより中高年になって転職をせざるを得ない層は、「転職先に条件面のみを追い求めている」といった点で共通項があり、そのことが転職市場のミスマッチを生み、ひいては転職そのものの可能性を下げてしまっているのではないか、という内容でした。

しかし、「転職先に良い条件を求めること」は悪いことでしょうか? そんなことはありません。プロならむしろ当たり前のことだと思います。私の知人に、外資系企業で何度も転職している方がいます。彼は最低でも年収2,000万と公言し、実際に何度も転職しているのですが、おそらく毎回そのくらいの条件で決まっています。彼もそういう意味では、条件を重視して転職しているわけです。

実際に転職活動の相談に乗り、彼の考え方を聞いたことがあるのですが、ただ条件だけを追い求めている人とは明らかにマインド面が違う印象を持ちました。その違いをうまく言葉にしきれないもどかしさがあるのですが、言ってみれば彼は、雇用する側とされる側が対等な位置づけで契約する、という前提で交渉しているのですよね。

「自分にはこういう能力があり、今までこういう実績を上げてきた。今回、転職にあたってこういうやりがいがほしいので、こういうポジションで、こういう成果を必要とするポストを求めている。また、自分のライフキャリアの維持のためにはこういう処遇水準が必要なので、その水準以上のオファーを探している」といった感じでしょうか。

一方、条件面のみで会社を探している若手や中高年層は、「この会社ならこのくらいの処遇が期待できるから働きたい」と曖昧な動機なので、求人のポスト(入社後の役割とそこで求められる成果)について、あまり踏み込んだ考え方を持っていないのです。

もっと言うと、「その条件で雇ってもらえるなら何でもやります!」という印象を持ってしまうことが多い。仕事の対価としての報酬でなく、報酬が保証されている組織へ入りたい、というだけの仕事選びになってしまっているのです。

私が自分の会社(人材紹介ビジネス)を立ち上げた頃、この業界の大先輩から、人材の見極め方について、次のようなアドバイスをもらいました。

「なぜ転職するのか、転職の目的を尋ねると、その人の価値がよく分かる。『二流の人材』は転職先の条件を重視する。『一流の人材』は自分の価値にこだわる。そして『超一流の人材』はやりがいにこだわる。超一流の人材は、自分のやりたいことができる環境であれば、結果として報酬を手にできることが分かっているから、転職時には条件をそれほど重視しない。」

では、現在のような、自分の価値ややりがいにこだわらず、条件面のみで会社を探している人が増えている風潮をどのように捉えればよいのでしょうか。

それについてはまず、日本人はどうしてこういう考え方をする人が多いのか、という視点から考察するのがよさそうです。結論から言ってしまうと、それは「終身雇用前提の考え」が根強く残っているからだろうと思います。

終身雇用では、どの組織に所属するかによって、その後の人生が決まってしまいます。同時に、所属した組織によって、大きな既得権が生まれます。人間は本質的には安定を求めますから、一度既得権を手にすると、なかなかそれを手放したくありません。また、そういう既得権を持っている人を見ると羨ましいので、自分が転職する際もついそれを重視しがちになってしまうのです。

しかしながら昨今、その終身雇用が終わりを迎えようとしており、この考え方は時代に合わなくなってきていると言えるのではないでしょうか。

また、こうした考え方をどのように伝えていくかも問題です。個人的には、やはり何度か転職活動をすること、それも若いうちに2〜3回転職することが一番響くのではと思います。

さらに、先述した、一流ないしは超一流のマインドの人材と一緒に仕事をする経験も有効でしょう。しかしこういう人は、新卒採用重視の会社にはあまりいないと思います。そういう意味でも、積極的に中途採用を行っている会社に転職する、という経験は効果があるかも知れません。

そもそも私は、今の学生を見て、新卒時にいきなり自分が望むすべての要素を満たしている企業を選ぶのは無理なのではないかと思っています。これは学生の能力や資質がどうこうというよりも、ライフキャリアについて、経験を通してしか理解できないことが増えていること、また世の中の変化のスピードが速くなり過ぎて、人材紹介業を行う私たちも、求職者へうまく伝えきれない部分が多くなってきていることが大きいです。

ですから、30歳くらいまでに2〜3回転職することを前提に、自分が今やりたいことと素直に向き合って仕事を探し、「成長できそうな環境」を基準にして企業を選ぶ。やってみて違和感があれば自分の中でのリフレクションを行いつつ、必要があれば環境を変えてみる。そうやって少しずつ自分の中のキャリアに対する考え方を育みながら、腰を据えて向き合える仕事と組織に出会えることを目指していこう……。

これからの若者は、こういう考え方で就活に臨むのが一番無理がないのではないかと思っています。

皆さんはどのようにお考えになりますか?
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著者プロフィール

金沢大学 就職支援室長 山本 均

1962年生、金沢大学法学部卒業後、株式会社ナナオに入社、採用教育に従事、その後株式会社アイオーデータ機器、沖電気工業株式会社にて人事採用業務に従事。2007年10月に帰省し、故郷金沢で人材紹介事業を中心とした人事コンサルティング会社、株式会社北陸人材ネットを設立、代表取締役に就任。2009年4月より金沢大学就職支援室長に就任(兼務)。学生の就職支援業務に従事する傍ら、大学の就業力向上プロジェクトに従事中。

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