仕事の上で人間関係を構築するのは、業績を上げるための「手段」だ。だから、ある意味「損得」が判断基準になることは明らかである。
これが、友人関係であれば、損得を無視して考えるだろうし、家族ならなおさらだ。そこには、友情や愛情が大きな意味を持つ。
しかし、企業では、「業績」というような考え方の比重が大きくなる。
もちろん、業績一辺倒ではなく、企業も一つの共同体(コミュニティ)であり、そこに損得を超えた関係性が構築されないと、うまく機能しないことが多い。
組織である以上、人と人の信頼関係は重要で、それがあるかないかで、実際は仕事の成果が全く違う。真に組織が機能するためには、共同体という意識が絶対的に重要なのだ。
「家族主義経営」という言葉もある。そこには、事業を通してコミュニティをつくり、助け合うという思考がある。
普通に「共同体」というと、市町村や村、町内会等、ある一定の血縁、地縁を持ち、共助の精神を持つものだが、その主体を企業に持ち込んだ形だ。

現代において、この思考はだいぶ薄れてきたように思う。
弊社の新入社員意識調査の設問に、「上役との関係は仕事上のつながりである。したがって、仕事以外の付き合いはできるだけ避けた方がよい」というものがある。
この回答傾向も、「企業は共同体」という思考が薄れてきているのなら、「そう思う」が増えてきていてもよいはずだが、実際はそうはなっていない。
10年前の2005年と2016年の回答傾向を見ると、次のようになる。

       2005年 2015年
そう思う    3.7%   3.3%
わからない  13.5%  12.0%
そう思わない 82.8%  84.7%


この数値、数パーセント内でこの15年、ほぼ変っていない。数値だけ観ると、どちらかと言えば、ウェットな、「仕事以外の付き合いもやる」、あるいは「求める」方向になってきているようにも思える。

この背景には、何があるのだろうか。

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このような傾向に関係すると思われる弊社のインストラクターやお客様の人事担当者、現場の指導者から聞く意見をまとめると、次のようになる。

・一方的な指導より、まずは話を聞いて欲しいという新人が多い。
・依存しようとする気持ちが強く、妙に頼ってくる。
・以前と比べると、転職志向は弱い。


意識調査で並行して、入社動機を聞いているが、そのデータでは、「能力・個性が生かせる」と「会社の将来性」がこの10年、トップを占める。
安田生命保険様の調査でも、同様で、「「仕事のやりがい」が38.5%で1位、「会社の安定性」が38.2%で2位となりました。
2008年の当項目調査開始以降、この2項目が1位と2位を独占しています」とのことで、さらに「男女別に見ると、男性では3位が「会社のネームバリュー」」と弊社の調査と変わらない。
これを時系列で変化を見た場合、「会社の将来性」を選んだ率は、2005年22.2%、2015年23.9%と若干、上がってる他、会社の知名度は2005年5.7%、2015年9.7%と、企業依存の傾向は高まっているとも感じられる。

つまりは、会社依存の傾向が増える中、自らの立場を保全する意味でも、「上司や先輩社員と付き合っておいた方が良いのではないか?」と考えているのではないだろうか。
結局、企業に入る際に、個人主義的な意識は表出させてはいけないものとして封印され、会社依存の意識は、従順に組織に身を任せようれば良いとの意識に転嫁しているのではないか?
インストラクターの所感には、「同調傾向の強さ」も指摘されている。新入社員の議論を聞いていると、「議論を戦わせる」というより、「落としどころを見つけている」ように思える。
最初に口を開いた人の意見に流されることも多い。「長いものには巻かれよ」という意識が強くなっているなら、それは困ったことである。

研修で見られるこれらの行動には、様々な手段で是正を求めるようにしている。弊社の研修では、何度もの振り返りの時間を確保している。
直前の行動を「ダブルループ学習」で、自らの思考様式に戻って振り返えさせる。それを職場に配属されてからも継続してできるようにしている。

求められる人材として、「自律型人材」という言葉を聞くようになって久しい。それだけ、依存的な社員が多く、自律的な人材が少ないということだと思う。
自らの思考様式に戻って振り返り、行動を是正できるようにすることで、自律型人材に近づくと信じている。
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