「人は見かけが9割」といいますが、これは案外、大げさな表現とも言えません。ある調査で、企業の幹部人事に関わる社長や取締役に「役員に昇進させる際に“らしさ”や“見栄え”は影響するか」と聞いたところ、YESと答える人が圧倒的に多かったそうです。とはいえ、「らしさ」とは非常に曖昧な言葉ですよね。具体的にどうすれば、その人にふさわしい“らしさ“を手に入れられるのか。今回は、自分の見せ方にフォーカスした「デキるボスらしさの法則」をご紹介します。あえて“カタチから入る”経営幹部育成について、どうぞご参考ください。
第24回:“見せ方”で評価が変わる? 経営幹部が信頼される「振る舞い」と「話し方」とは

「昇進できる立ち振る舞い」vs「昇進できない立ち振る舞い」

後継者育成や組織設計を専門とするビーソン・コンサルティング社の社長、ジョン・ビーソン氏によれば、経営幹部に欠かせない要件として「エグゼクティブ・プレゼンス」があるといいます。このエグゼクティブ・プレゼンスとは、やや直感的なものですが、究極的には「成熟した自信を醸し出す能力」とされています。ビーソンはその例として、3人のマネジャー例を挙げ、誰がその中で昇進を果たしたかについて紹介しています。

●A氏
豊かな経験と協調性を持ち、成果主義で、会社への忠誠心も厚い。専門分野ではトップレベルの業績を上げていたが、いつも「よれよれした」印象で、少し猫背。経営陣へのプレゼンには準備万端で臨んだが、身振り手振りに落ち着きがなく、話が長ったらしくまとまりに欠けていた。その上、幹部たちへの話し方は慇懃無礼。

●B氏
これまでの全ての仕事で高い業績を上げ、その力に経営陣も一目置いていた。ただ、会議にはいつも遅刻してきて、書類を乱雑に抱え慌ただしく駆け込んでくる。行動ががさつで、自分の態度が周囲からどう思われているかについては無頓着。

●C氏
日頃は決して目立つ存在ではないが、ひとたび会話が始まれば、口調は柔らかく、押しが強すぎずに明確な意見を述べる。聴く力が高く、どのタイミングで会話に入り自分の意見を述べるべきかを感覚的にわかっていた。物腰は落ち着き、率直で、どのような場でもうろたえず、周囲が感情的になっても冷静さを保った。難しい状況では、とぼけたユーモアで場を和ませ、他者から意見されても真っ向から反論したりせず、毅然とした態度を貫いた。


読者の皆さんは、上記の各マネジャーのうち、誰が昇進・抜擢されたと思いますか?

こうして言葉にすると一目瞭然かもしれませんね。正解はC氏です。A氏とB氏の仕事ぶりは評価が高かったものの、上級幹部に抜擢されることはなかったといいます。

「エグゼクティブ・プレゼンス」とは、「この人ならば困難な状況をコントロールし、難しい決断を迅速に下し、他の優秀で頑固な幹部たちをもまとめあげることができるだろう」というイメージを指しています。この3人の例から学べるのは、「立ち振る舞いや身だしなみ、話し方や態度が大きく影響を及ぼしている」ということです。皆さんの周囲のマネジャーたちや経営陣をご覧になってみて、その点はいかがでしょうか?

リーダーが気をつけるべき「ものの言い方」

リーダーとして、「いつ」、「誰に」、「何を」、「どのように」言うか。また、それを“適切な文脈で”言えるか。こうしたことの総体を「エグゼクティブ・ボイス」といいます。大企業の経営幹部であれ、中小企業のマネジャーであれ、あるいはもっと少人数のチームリーダーであっても、エグゼクティブ・ボイスはリーダーとしての潜在能力を最大限発揮するための重要な要素です。エグゼクティブ・ボイスも、エグゼクティブ・プレゼンス同様、感覚的な部分があり定義が難しいのですが、次のようなことを満たすと良いといいます。

【文脈を理解する】
会議であれ、普段の会話であれ、自分の中でまとまっていない話や、相手の意図から外れた話をすることは避ける。そのコミュニケーションで自分が何を求められているかを把握・整理した上で話す。

【ビジョナリーになる】
自分の機能や役割を意識しすぎて近視眼に陥らないよう気をつける。広い視野で先を見て話をする。

【戦略的な関係を築く】
具体的なビジネス目標を念頭に置き、そのために活かせる人間関係を築く。毎週少なくとも1人以上、自分のチーム以外の人にアプローチして話をする。

【解決策を提示する】
コミュニケーションにおいて、常に課題の指摘だけでなく解決策を提示する。決して評論家にならない。

【冷静さを保つ】
プレッシャーがかかる状況においても、常に冷静さを保つ。どんなにストレスを感じても、感情に振り回されるのではなく、事実に立脚し続けるよう務める。


部下に信頼され、影響力を与え続けるためには、このエグゼクティブ・ボイスに磨きをかけ、会話や会議の中で相手に果たしてもらいたい役割を簡潔に伝える必要があるのです。

一般的に信じられている「カリスマ性」の功罪

最後に、リーダーの立ち振る舞いと言えば「カリスマ性」というワードを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、これには実際に“カリスマ的”な性格や振る舞いがあるとされています。

パーソナリティ特性などの専門家であるゲント大学のフィリップ・デ・フリート教授らの研究によれば、カリスマ的特性には「大胆」、「カラフル」、「遊び心」、「想像豊か」の4つが挙げられ、それらが自信や強い印象、限界に挑む姿勢、先見性のある思考となって表れるそうです。こうしたカリスマ性を発揮するパーソナリティには、メンバーを鼓舞して良い仕事をさせる力があり、部下の信頼や満足感につながります。それによってチームメイトたちは、カリスマ性を有するリーダーに対して、仕事ができる有能なリーダーだという印象を持つのです。

ただし、このカリスマ性が行き過ぎる(強すぎる)と、自信が「過信」や「自己陶酔」につながったり、説得力が「不健全な人心操作」になったりもしかねません。さらには、行き過ぎた想像力から「夢想への暴走」、「現実からの乖離」を引き起こす可能性もあるため、要注意です。カリスマ性は“ありすぎる”と失敗するのです。過ぎたるは及ばざるが如し、ですね。

リーダーの地位をつかむには、他者からの信頼を勝ち取ることが不可欠です。そのための「見栄え」、「立ち振る舞い」、「ものの言い方」を身につけることで、皆さんの会社の経営幹部もより輝きを増すことでしょう。
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