第25回で“ツイてる経営幹部が身につけている4つの行動・思考法”について紹介しましたが、そもそも活躍する経営者は「運」や「ツキ」を持っていると言われます。確かにそうとしか思えないような千載一遇のチャンスをものにしていたり、目くるめくヒット作を放ち、誰もが羨む立場を掴み取っていたりしますね。そこで今回は、キャリア論でも語られている「運の操り方」について紹介してみたいと思います。
第44回:調査研究が明らかにする成功者の「運」の操り方。チャンスを掴んでキャリアを切り拓く方法とは
「運」や「ツキ」というと、その人が持って生まれたもののように思われている方も少なくないのではないでしょうか。「結局その人の生まれや育ちだよね」と。しかし、「運」や「ツキ」は引き寄せることができ、それを使いこなすことで自分の仕事やキャリアに活かすことができるのです。まだ信じられていない読者の皆さんに、今からその理論と方法をご紹介します。

「その幸運は、偶然ではないんです!」

スタンフォード大学の心理学者であるジョン・D・クランボルツ教授が、いわゆる“成功者”と定義できる人たちを対象に、その成功の秘訣やキャリアを分析・研究しました。この調査で明らかになったところによれば、人生の節目節目の出来事やターニングポイントになった要因の8割が、本人も思いもよらなかった偶然の出来事や出会いだったとのことなのです。象徴的な仕事やキャリア展開のうち8割も、偶然の出来事や出会いから成っている事実。どうでしょう。皆さんは実感がありますか?

成功者たちは、この偶然を柔軟に受け止め、計画的にデザインしていくことでキャリアを形成、成功に到達していることが、学術的に明らかにされているのです。このクランボルツの理論を、「プランド・ハップンスタンス・セオリー(計画的偶発性理論)」と言います。

1999年に発表されたこの理論は、キャリア関連の研究やビジネスに関わる人たちの間で瞬く間に有名なものとなりました。キャリアに関する情報に興味のある読者の方なら、目にしたことがあるのではないでしょうか。

変化する環境の中で、どうキャリアを考えれば良いのか

クランボルツ教授はもともとキャリア論の研究をしてきた人で、その土台を「社会的学習理論」に置いています。折しも米国では1980年代に産業再編の嵐が吹き荒れ(日米貿易摩擦の頃ですね)、その中で、ビジネスパーソンがキャリアについて次の3つのように考え動く必要があることを、当時クランボルツは指摘しました。

1.すでにある特性に基づいた意思決定ではなく、自分の能力や興味を広げていく必要がある
2.職業が安定したものであると思い込むのではなく、変化し続ける仕事に対して準備をしなければならない
3.行動を起こすように勇気付けられる必要がある


そしてクランボルツは、キャリアカウンセリングの目標を次のようにまとめています。

「現在クライアント(=キャリア相談者、転職相談者)が有している興味・価値・能力にマッチした職業を見つけることではなく、変化し続ける仕事環境において満足のいく人生をクライアントが作り出していけるように、スキル・興味・信念・価値・職業習慣など、個人特性に関する学習を促進させること」

私自身も日々、幹部や経営職の方々へのキャリアアドバイスや転職アドバイスなど、支援を行う立場を担っていますが、まさにいま日本で働く私たちにとっても、全く同様のことが必要だと実感しています。これまで培った経験やスキル、現時点での興味関心だけにマッチした職務を見て転職先を決めることは、本人にも採用企業側にも、「その後」という意味において必ずしも望ましいものではないのです。

キャリアの意思決定などするな!?

「私たちは、人々がキャリアについての意思決定をするための支援に多くの時間を費やしてきました。しかし、みなさんには、今後一切キャリアの意思決定をしないで欲しいのです」

クランボルツは著書『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)で、上記のように述べています。それはいったい、なぜでしょう?

キャリアについての意思決定をするということは、一つの固定したキャリアを宣言することになります。しかし、自分自身も取り巻く環境も時事刻々と変化し続ける現代において、それは果たして正しい選択でしょうか? そういったことを、クランボルツは投げかけているのだと思いますし、私も同感です。

私たちのキャリアは用意周到に計画できるものではなく、予期できない偶発的な出来事によって決定される。偶然を柔軟に受け止め、その結果を計画的にデザインしていくことでこそ、良いキャリアを展開できるのです。

さて、クランボルツが「プランド・ハップンスタンス・セオリー(計画的偶発性理論)」の研究で明らかにしたところによると、偶然を味方につけるために、私たちが持つべき心構えは「好奇心」、「粘り強さ」、「柔軟性」、「楽観性」、「リスクテイク」の5つであるとのこと。この5つの心構えを踏まえつつ、クランボルツがキャリアアドバイスする5つのレッスンを以下にご紹介します。(※キャリアカウンセラー向けのレッスンなので、読み手がキャリアカウンセラーである前提の表現となっています。念のためご留意ください)

選択肢は常にオープンに。想定外の出来事を最大限に活用せよ

レッスン(1)
想定外の出来事がキャリアに影響を及ぼすことは普通のことであり、かつ当然のことであること、そして望ましいことであることを認識しなさい

レッスン(2)
未決定を治療すべき問題としてとらえるのではなく、用意周到なオープンマインドな状況とみなしなさい。その状態は思いがけない未来の出来事をクライアントが利用することを可能にする


仕事の目標を定めることやキャリアのイメージを持つことは大事なことだと思います。それがなければ、何かを学んだり行動したりするモチベーションの源泉が湧くことはありません。ただしクランボルツが説くように、それに固執することもまた、問題だと考えます。人生には、予測不可能なことのほうが多いうえに、私たちは常に日々遭遇する出来事や人たちから影響を受け続けているためです。

そのため私たちには、結果がわからないときでも行動を起こし、新たなチャンスを切り開き、選択肢は常にオープンにして、想定外の出来事を最大限に活用する姿勢が大事なのです。

行動を起こし続けることで、あなたの運は創り出せる!

レッスン(3)
新しい活動を試みたり、新しい興味を開発したり、古い信念に疑問を呈したり、生涯にわたる学習を続けるための機会として、想定外の出来事を利用する方法をクライアントに教えなさい

レッスン(4)
将来、有益な想定外の出来事が起こりやすくなるように行動を始めることをクライアントに教えなさい

レッスン(5)
クライアントがキャリアを通して学習できるよう継続的な支援をしっかり提供しなさい


クランボルツの強いメッセージが、「行動量を増やすこと」と「継続的に学習すること」です。私がクランボルツのアドバイスが実際的だなと感じ、また好きなのはこのあたりの主張です。

クランボルツは『その幸運は偶然ではないんです!』の中でも、「結果が見えなくてもやってみよう」、「どんどん間違えよう」と私たちにエールを送り、背中を強く押します。一度夢が破れても挫けない。次の夢に向かえば良い。結果が見えなくてもやってみる。どんどん間違える。学び続ける。自分の中にある壁を打ち破る!

どうでしょう。元気と勇気が湧いてきませんか?

いつも好奇心を持ち、いつも学び、いつも挑戦する! 行動を起こすことで、私たちは自分の運を創り出すことができるのです。「運は自分で創り出せる」。ぜひ運を味方につけた経営執行、事業推進を行いましょう。
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