多くの企業で、人手不足は大きな課題となっている。できれば即戦力となりえるような有能な人材を中途採用したいところだが、その予算を捻出するのが難しいというケースもあるのではないだろうか。そうした悩みに応えてくれる助成金制度が、厚生労働省が支給する「中途採用等支援助成金」だ。「支給条件が厳しいのでは」と懸念する人事担当者もいるかもしれないが、ハードルはそれほど高くない。本稿では「中途採用等支援助成金」の概要やコースの詳細、申請にあたってのポイントなどについて解説していきたい。
【2023年版】「中途採用等支援助成金」とは? 中途採用拡大コース/UIJターンコースの詳細を解説

「中途採用等支援助成金」とは

「中途採用等支援助成金」とは、中途採用を行ったり、東京から地方への移住者を雇い入れたりすることで雇用創出を図ろうとする企業に支給される助成金だ。言うまでもなく、日本では少子高齢化が加速しており、人材の確保は困難を極めている。事実、新卒採用は売り手市場がもう何年も継続しており、質・量ともに計画通りに人材確保が進んでいない企業がほとんどだ。

特に地方の中小企業は、知名度が低い上に採用予算も十分ではないこともあって、より一層厳しい状況にある。かといって、ただ単に手をこまねいているだけでは人手不足が一向に解消されない。そこで、中途採用に活路を見出そうという企業の支援に向けて設けられたのが「中途採用等支援助成金」である。

◆「中途採用等支援助成金」のメリット


●返済不要の資金が得られる
支給条件をクリアすれば、一定の資金を調達することができ、事業展開に有効活用できる。また、中途採用を行うためにはそれ相応の手間やコストを要するものの、「中途採用等支援助成金」を活用すればその負担が軽減される。

●職場環境の整備、活性化につながる
助成金を活用して労働環境を整え、採用を進め、迎え入れた人材が活躍してくれれば、職場の士気も上がり生産性を高められるだろう。

「中途採用等支援助成金」(中途採用拡大コース)について

「中途採用等支援助成金」には、2つのコースが設けられている。ちなみに、2022年3月31日でかつて存在した「生涯現役起業支援コース」は廃止されているので注意する必要がある。現存するコースそれぞれの助成内容や受給要件を確認していこう。

◆「中途採用等支援助成金」(中途採用拡大コース)

1つ目は、「中途採用拡大コース」だ。これは、中途採用者の雇用管理制度を整えた上で、中途採用の拡大、または45歳以上の初採用を行なった企業に対して助成するコースとなる。また、受給後一定期間が経過した段階で、生産性の向上が認められた企業は、追加で助成金を得られることになっている。なお、「中途採用等支援助成金」については、2022年12月に改正が行われ、助成対象や助成額が見直されている。その改正内容も織り込んだ上で、コースの概要を整理した。

【対象となる労働者の要件】

支給対象となるのは、中途採用拡大コースを申請しようとする事業主により、中途採用計画期間中に採用された労働者である。支給要件は以下の6つだ。

(1)中途採用により雇い入れられた方であること

(2)雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れられた方であること

(3)期間の定めのない労働者(パートタイムを除く)として雇い入れられた方であること

(4)採用の前日から起算してその日以前1年間において、雇用関係、出向、派遣又は請負により当該事業主の事業所において就労したことがない方であること

(5)雇入れ日の前日から起算してその日以前1年間において、申請事業主との関係が下記のいずれかに該当する事業主に雇用されていた方でないこと

・両者が親会社と子会社、またはその逆の関係にあること
・取締役会の構成員について、両者の代表取締役が同一人物であることまたは取締役を兼務している方がいずれかの取締役会の過半数を占めていること
・その他、資本的・経済的・組織的関連性等からみて両者が独立性をみとめられないものであること

(6)雇入れ時の年齢が 45 歳以上であること(45歳以上の中途採用率の拡大のみ)

上記に基づき、支給要件の一つとなる「中途採用率」を以下の計算式で算出する。
中途採用率の計算方法

出典:中途採用等支援助成金ガイドブック 中途採用拡大コース(厚生労働省)

【コース区分】

中途採用拡大コースは、支給内容によって以下のように2つに区分される。

(1)中途採用拡大助成
以下のAまたはBに該当する場合支給される。

A)中途採用率の拡大
中途採用率を20ポイント以上上昇させた企業に対して助成する。

B)45歳以上の中途採用率の拡大
以下の全てを満たす企業に対して助成する。

• 中途採用率を20ポイント以上上昇させた
• うち45歳以上の労働者で10ポイント以上上昇させた
• 当該45歳以上の労働者全員の賃金を前職と比べて5%以上上昇させた

なお、2022年12月の改正前までは、助成対象はA)中途採用率の拡大(中途採用率を20ポイント以上上昇させた企業に対する助成)、B)45歳以上の方の初採用(45歳以上の労働者を初めて中途採用した企業に対する助成)、C)情報公表+中途採用者数の拡大(中途採用に係る情報の公表を行い、中途採用者数を拡大させた企業に対する助成)と定められていたが、45歳以上の賃金を前職より引き上げる中途採用を推進するため、助成対象や助成額の見直しが行われた。

(2)生産性向上助成
中途採用拡大助成の支給を受けた企業のなかで、一定期間が経過した後に生産性が向上した企業が対象となる。

【申請の流れ】

中途採用拡大コースの申請には、まず(1)「中途採用計画の作成・策定」と(2)「労働局への中途採用計画の提出」の2つのステップが必要である。なお、中途採用計画の開始日の6ヵ月前の日から中途採用計画の開始日の前日までに、必要な書類を管轄の労働局へ届出しなければいけない。

(2)を終えたら、以下の流れで助成を受給する。
1.中途採用者の雇用管理制度の整備・対象となる方の雇入れ
2.支給申請(1 回目)
3.中途採用拡大助成に関する助成金の支給
4.支給申請(2 回目:生産性が向上していた場合のみ)
5.生産性向上助成に関する助成金の支給

【助成額】


金額は、対象企業が実施した取り組みによって異なる。いずれも一定期間後に生産性が向上した場合には割増助成を得られる。具体的には以下の通り。

A)中途採用拡大助成の場合
1.中途採用率を拡大した企業:50万円
2.45歳以上の中途採用率を拡大した企業:100万円

B)生産性向上助成の場合
1.中途採用率を拡大した企業:25万円
2.45歳以上の中途採用率を拡大した企業:30万円

注:中途採用率がどれだけ向上したのかは、「中途採用計画期間終了時の中途採用率」と「中途採用計画開始日の前日から過去3年間の中途採用率」から算出できる。

「中途採用等支援助成金」(UIJターンコース)について

◆「中途採用等支援助成金」(UIJターンコース)

「中途採用等支援助成金」の2つ目のコースが、「UIJターンコース」だ。こちらは、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)からの移住者を雇い入れた企業に対して、その採用活動の経費の一部が助成されるコースである。

【対象となる労働者の要件】

(1)東京圏からの移住者であること

(2)デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ:移住・起業・就業型)を活用して地方公共団体が運営するマッチングサイトに掲載された求人に応募していること

(3)雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れられること

(4)継続して雇用される労働者として雇い入れられること

なお「UIJターンコース」の対象となるには、「移住支援金」の受給者であることが前提となる。移住支援金とは、東京23区に在住または通勤する方が、東京圏外へ移住し、起業や就業等を行う方に、都道府県・市町村が共同で交付金を支給する事業を意味する。

【助成の対象となる経費】

(1)人材募集や採用パンフレットなどの作成・印刷に要する経費

(2)自社のホームページやPR動画の作成・改修に要する経費

(3)就職説明会・面接会・出張面接(オンラインによるものも含む)などの実施に関する経費

(4)外部の専門家(社会保険労務士、中小企業診断士、民間有料職業紹介事業者等)によるコンサルティング費用

なお、民間有料職業紹介事業の紹介手数料や求人情報誌および求人情報サイトへの掲載料などは対象とはならない。

【助成額】

上記の助成対象経費の合計額に、助成率を乗じた金額が支給される。中小企業の場合は助成率1/2、上限額は100万円。中小企業以外の場合は助成率1/3、上限額は100万円となっている。

【受給のための手続き】

(1)採用計画書の提出
中途採用計画には中途採用者の雇用管理制度の整備(労働時間・休日、雇用契約期間、評価・処遇制度、福利厚生など)や、中途採用の拡大に取り組む期間を記載する。注意点は下記となる。

・提出日の翌日から3か月以内の範囲で計画期間の始期を設定する必要がある。
・計画期間は、6か月以上12か月以内で設定する。
・なお、2023年6月26日からは電子申請の受付もスタートしている。

(2)採用活動

(3)対象労働者の雇い入れ

(4)支給申請書の提出
計画期間の終期から2か月以内に支給申請書を提出する必要がある。

(5)助成金の支給

「中途採用等支援助成金」の申請のポイント

「中途採用等支援助成金」を申請するにあたって、留意すべきポイントは下記の通りである。

●着実に実行できる計画書を作成する

最初に立案した計画をしっかりと実行し、目標を達成しなければ助成金を受け取ることはできない。もちろん、計画書を申請した後も変更は可能だが届出を提出しなければいけないし、「なぜ計画を変更するのか」「新たな計画は確実に実行していけるのか」などを担当者から追及される可能性がある。それらを考えても、計画段階で着実に実行できる内容であるかを十分検討しておく必要があると言える。

●申請と採用計画のスケジュールを徹底する


計画書を作成した後は、そのプランをスケジュール通りに進めていくことが重要となる。いつまでに採用計画や助成金申請書類を申請するのか、提出期限は決められており、万が一遅れが生じ、要件を達成しえなかったりすると助成金は受給できないこととなる。特に、生産性向上助成の申請は気をつけないといけない。申請のタイミングは採用から3年後となるので、思わず忘れていたというケースがあるからだ。計画通りの事業遂行だけでなく、支給申請の時期を逃さないよう、スケジュールの把握・管理を徹底するようにしたい。


終身雇用は、日本式雇用慣行の代名詞とされてきた。正社員として一旦入社すれば、定年まで雇用してもらえるという体制にあった。だが、今や時代は大きく変わってきており、人材の流動化が加速している。企業からすれば、せっかく育ててきた社員が転職してしまう可能性もあれば、逆に外部から新たに優秀な人材を迎え入れ、競争力を高めていくチャンスも膨らんでいる。ただ、中途採用を行うといっても、多大な時間も手間を要するのは否めない。今回解説した「中途採用等支援助成金」は、そのハードルを下げるという意味でもメリットが大きい。制度の仕組みや支給要件、申請のポイントをしっかりと理解して、自社の中途採用を有利に進めていきたいものだ。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!