経営戦略やビジネスモデルがどれだけ優れていても、それを体現する人材がいなければ意味がない。そのため、優秀な人材を一人でも多く確保・育成しておかなければならない。しかし、「どうすれば優秀な人材が育つのか」、「育ってきたと思った頃に社員が転職してしまう」、「そもそもどんな取り組みをすれば良いのか」など、多くの課題もある。そこで、本稿では企業に求められる「人材育成」の考え方を整理し、その目的や、社員のスキルアップや定着につながる方法や課題の解決策を解説していく。
「人材育成」とは? 企業が押さえるべき重要事項・育成手法・成功事例を解説

「人材育成」とは

「人材育成」とは、社員を企業の成長に貢献できる人材に育成することを意味する。社員が能力を伸ばすことで、企業業績の向上が期待でき、「人材育成」は企業の成長にとっても必要不可欠となる。また、「人材育成」は指導する側にとってもメリットが大きい。育成経験を通じて、自身の成長につなげることができ、人材育成を成功させるために、社内に協力し合う風土も醸成されやすくなるからだ。

「人材育成」と言っても、新入社員や中堅社員、管理職など、育成対象に応じていくつかの種類がある。それぞれで人材育成の目標が異なってくるのは言うまでもない。例えば、新入社員向けであれば、社会人の基礎を理解・習得することに重きが置かれ、中堅社員となると何らかの専門性を身に付け、他のメンバーをディレクションできるようになることが目標となる。

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●「人材育成」の重要性

企業が持続的に成長していくために「人材育成」は欠かせない。優秀な人材を育てることが、生産性の向上や組織全体のパフォーマンスアップにつながる。まして現代は急速な技術革新やグローバル化が進み、労働人口が減少している。従来のスキルや知識だけでは競争優位性を維持することが困難になっているうえ、限られた人材の能力を最大限に引き出し、変化に対応し得る組織力を持つことが経営戦略の柱となるのだ。

「人材育成」はエンゲージメントやモチベーション向上にも寄与し、離職率低下にもつながる。労働力不足が深刻化する中、既存社員の能力向上は企業存続の生命線と言えるだろう。また、指導者自身も成長できるため、社内で学び合う文化が醸成されやすくなるのも重要な効果と言える。

●「人材育成」の目的について

「人材育成」の目的は、企業の経営資源である人材を効果的かつ効率的に活用して企業の競争力を高め、利益を最大化させることである。特に現代の日本では、労働人口が減少傾向にあるだけに、限られた人材をいかに育成していくかは、経営戦略の柱となってくると言って良い。企業全体として取り組むべき最重要課題に位置づけられていると断言できよう。

●人材教育や人材開発との違い

「人材育成」は、人材を会社が思い描く方向へと成長させることを意味する。一方、同じような言葉に人材教育があるが、これは人材育成の手段の一つとして知識やスキルを教えることを指す。さらに、人材開発となってくると、人材を経営資源として捉え、それを有効活用するために能力を開発していくという意味合いがある。

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「人材育成」の目標設定の考え方

では、「人材育成」の目標をどう設定するべきか。その考え方について解説しよう。

●「人材育成」の目標設定

「人材育成」の目標を立てる際に、おさえておきたいポイントが3つある。まず、1点目が「定量的な目標の設定」だ。定性的な指標に偏らないように注意する必要がある。2点目が、「期日を明確に設定すること」。そこから逆算して人材育成の計画を立てることがポイントとなる。そして、3点目が「会社やチームの目標を意識すること」だ。人材育成は会社やチームの目標を実現するためのものと言って良い。それだけに、会社やチームの目標と人材育成が密接につながっている状態を作り出していかなければいけない。

「人材育成」の現状と課題

次に、「人材育成」の現状と課題について考えてみよう。

最も指摘されるのは、人材育成自体が後回しされがちであるということだ。多くの企業で「人材育成」の重要性は理解していながらも、実際には手が回っていないということが明らかになっている。例えば、労働政策研究・研修機構の2021年の調査では、約60%の企業で「現場社員が多忙で育成に割ける時間がない」と回答している。

一方、「人材育成」に力を注いでいるものの、管理職の育成能力や指導意識が不足しているなどの理由で、人材が思ったように育たないという課題も少なくない。経団連のアンケート調査によると、管理職の約54%が「部下の能力や特性を把握した適切な育成ができていない」と感じており、育成の質にも課題があることがわかっている。リモートワークの普及により対面コミュニケーションが減少し、育成の機会が減少している現状も一因として挙げられる。

また、そもそも部下の育成意欲が低い場合もあり、管理職の指導負担の増加と育成効果の低下という悪循環が生まれている。そこで企業は、組織的かつ計画的な育成支援と管理職育成の強化が喫緊の課題となっている。

「人材育成」の動向と企業の取り組みの変化

近年の人材育成は時代とともに変化し、企業の取り組みも多様化している。その変遷をわかりやすく解説していこう。

●これまでの「人材育成」の流れ

戦後から高度経済成長期にかけて、日本企業では終身雇用制度の定着とともに長期雇用を前提にした職能資格制度や階層別研修が確立された。終身雇用は戦後の高度成長に適した制度として発展し、長期的な展望に基づく企業内教育による人材育成への投資が行いやすいという点が企業側の利点だった。この時代の「人材育成」は新卒一括採用から始まり、OJTを中心とした先輩から後輩へ現場での技術や知識の伝承、年功序列に基づく昇進システムが特徴だった。

それから1980年代に入ると、成果主義や能力主義の導入に伴い、研修内容も評価型にシフトし、個人の能力開発が重視されるようになった。そして、2000年代に入ると、グローバル化とIT化の進展により、多様なスキル習得とリスキリングの必要性が高まり、オンライン研修やeラーニングが普及してきた。

●近年の「人材育成」の動向

近年はDXやAI技術の活用が急速に進むのに伴い、IT人材の不足が一層深刻化しており、デジタルスキルを含むリスキリングが急務とされている。政府も積極的な支援策を展開しており、経済産業省がDXを推進する人材の役割や習得すべき知識・スキルを示すデジタルスキル標準を策定し、リスキリングの促進、実践的な学びの場の創出、能力・スキルの見える化を図っている。

こうした技術革新に対応する一方、柔軟な働き方が広がり、時間や場所を選ばないオンライン研修が標準化してきており、また、多様性の尊重や心理的安全性の重要性が増し、社員の自律的な学びを支える環境整備が企業の課題ともなっている。個別化された育成プログラムやメンター制度など、対話型の育成手法も広がり、個人の成長と組織の競争力強化を両立させる動きが加速していると言える。

「人材育成」の代表的な手法8選

次に「人材育成」の具体的な方法を紹介しよう。代表的な方法としては以下の8つが挙がる。

●OJT(On the Job Training)

OJT(On the Job Training)は、上司や先輩が部下や後輩に対し、実際の業務を通じて、必要な知識やスキルを教える形式の育成方法だ。実践的な学びが可能で、即戦力の育成に効果的と言える。また、個々の能力や進捗に合わせた指導ができるため、効率的な育成ができる。ただし、指導側の能力によって効果に差が出るため、指導者の育成も必要となる。

【関連記事】「OJT」とは? 目的やデメリット、問題点を紹介

●Off-JT(Off the Job Training)

Off-JT(Off the Job Training)は、通常の業務から離れて、集合研修や外部セミナーで知識やスキルを磨く育成方法だ。専門的な知識やスキルを集中的に学べ、幅広い視野や新しい発想を得る機会となる。他部署や他社の人々との交流を通じて、ネットワークを広げられるのもOff-JTの利点だ。ただし、学んだ内容を実務にどう活かすかが課題となるため、OJTとの連携が重要と言える。

●自己啓発(SD、Self Development)

自己啓発(SD、Self Development)は、従業員自身が書籍や専門誌やオンライン講座などを通じて主体的に学習することだ。個人の興味や目標に合わせて学習できるため、モチベーションの維持や向上につながり、自己管理能力の向上や学習習慣の形成にも効果がある。企業側は、書籍代補助や資格手当など、自己啓発の支援制度を設けるなどして、従業員の自主的な学びを促進・サポートすると良い。

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●eラーニング

eラーニングは、インターネットを利用した学習方法である。時間や場所の制約が少なく、いつでもどこでも個人のペースで学習できる点が大きな特徴だ。専門のサイトやツールを活用すれば、企業側も従業員側も学習履歴の管理や進捗状況の把握がしやすい。また、同じ教材を使用するため、教育の質を均一化できるのもメリットとなる。

【関連記事】「eラーニング」の意味や効果とは? 企業と従業員それぞれのメリット、導入方法も解説

●メンター制度

メンター制度は、経験豊富な先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティー)の相談役となり、キャリア形成や成長をサポートする手法だ。業務上の指導だけでなく、精神面でのサポートも行うため、若手社員の悩みや不安の解消にもつながり、定着率向上の効果も期待できる。一方で、メンター自身のリーダーシップの向上も同時に図れる。ただし、相性の良し悪しで効果が変わってくることに注意を要する。

【関連記事】新入社員の教育や成長に必要な「メンター」の意味や役割とは? 制度の中身以外にも企業事例やOJTとの違いを紹介

●ジョブローテーション

ジョブローテーションは、幅広い知識やスキルを習得させるために、計画的に異なる部署や職務を経験させる人材育成方法を言う。自社の業務全体を理解することもでき、将来の管理職や経営層の育成にも効果的だ。ただし、短期的には業務効率が低下する可能性があるため、計画的な実施と各部署の理解と協力が不可欠である。

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●コーチング

コーチングは、対話を通じて相手の考えや感情を引き出し、自発的な気づきや成長を促す人材育成手法だ。指導者は相手の強みや課題を明確にし、目標達成に向けて共に考えながら支援する。部下の主体性や問題解決力が高まり、組織全体のパフォーマンス向上に効果的だ。ただし、コーチングを成功させるには上司と部下の信頼関係が鍵で、定期的に対話をすることで相互理解をし、継続的な成長を促すことが重要である。

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●1on1

1on1は、上司と部下が定期的に1対1で対話することで、部下の成長支援や業務上の課題解決を図る手法だ。双方向のコミュニケーションによって信頼関係が構築され、部下は安心して本音を話しやすくなる。早期の問題発見やモチベーション向上が期待できる。さらに、個々の能力やキャリア志向を把握し、適切な育成計画を立てるための貴重な場となるため、現代の「人材育成」に欠かせない重要な手法となっている。

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階層別の「人材育成」の課題やポイント

ここでは、階層別の育成課題とポイントについて考えてみたい。

●新入社員

新入社員を育成する上でよく指摘される課題とポイントとしては、以下のようなものがある。

【育成課題】

・管理職やトレーナーの業務が多忙で、育成に取り組む時間的、精神的な余裕がない
・上長の育成能力や指導意識が欠如している
・新入社員側の意欲が低い

【育成ポイント】

上記のような課題がある中、新入社員の育成を成功させるためのポイントが3つある。

(1)採用時にリーダーシップがあるかを見極める
新入社員においては、採用と育成をミックスして「人材育成」と捉える必要がある。採用時の基準としてはリーダーシップに重きを置きたい。リーダーシップは、持って生まれた才能や経験で培われてきたスキルであり、採用の段階で見極めることができる。

(2)内定者の入社後ギャップを解消する
内定者が入社前に思い描いていた会社のイメージと入社後の現実との間には、多少なりとも差が生まれるものだ。マイナス面が大きければ、最悪の場合、入社早々に退職してしまうこともあり得る。それだけに、人事担当者は内定者にチームや仕事のリアルな実態・情報を伝えながら、適切にフォローしていく必要がある。

(3)入社後の研修では、厳しさと丁寧なフォローのバランスを図る
入社後の研修では、社会人としての厳しさを教える一方、適切かつ丁寧なフォローを行うことが重要だ。ある程度の逆境もしのげるよう、多少厳し目の姿勢で指導にあたることもあるかもしれない。ただ、それが過度なレベルになると、パワハラやモチベーションの低下につながるので留意したい。

●中堅社員(次世代リーダー)

中堅社員を育成する上での課題とポイントは、以下のようなものがある。

【育成課題】

・キャリアパスが不透明で、育成が計画的・体系的でない
・キャリアの中盤に差し掛かり、現状維持に傾きやすい
・専門的になるがゆえ視野が狭まる

【育成ポイント】

中堅社員・次世代リーダーの育成に向けてポイントが3つあるので紹介したい。

(1)部下を持たせる
経営層に求められるマネジメント力を、いかに身につけていくか。書籍を読むのも一つの方法だが、実際に部下を持ち、経験値を上げることをぜひお勧めしたい。部下を指導・管理し、目標達成に導くためのプロセスを実際に体験することで、マネジメント能力の向上が期待できる。

(2)多様な業務知識を習得させる
経営層ともなると、会社全体の動向に着目し、今後自分がどう貢献しながら、自社の成長をもたらしていくかを考えなくてはならない。そのためには、様々な業務知識や広い視野で物事を考察する能力を習得していく必要がある。時には、他業種のセミナーへの参加を勧めたり、ジョブローテーションによって新たなスキルや能力を習得できそうな職種を経験させたりすることも有効な方法の一つだ。

(3)責任のある役職に就かせる
あえて責任あるポストに就かせることもぜひお勧めしたい。より難易度の高い仕事をこなしていくには、視野を広げ、視座も高めていかなければならない。また、こうした経験の積み重ねは、将来経営層として大きな決断を迫られる場面でも役に立つだろう。

●管理職・経営層

管理職や経営層を育成する上での課題とポイントは、以下のようなものがある。

【育成課題】

・経営環境の急速な変化に対応するための戦略立案能力が不足している
・部下の多様性が高まる中、従来型のマネジメント手法では限界がある
・次世代リーダーの育成能力や後継者の計画的な育成が不十分である
・デジタル化やDX推進など新しい領域への理解と推進力が求められている

【育成ポイント】

管理職・経営層の育成を成功させるためのポイントを3つ解説する。

(1)戦略的思考力と意思決定力を強化する
経営層には、複雑で不確実な状況下でも適切な判断を下す能力が求められる。そのため、経営戦略や財務分析、リスクマネジメントなどの専門知識を体系的に学ぶとともに、ケーススタディや経営シミュレーションnなどで実践的な意思決定経験を積ませることが重要だ。

(2)人材育成とチームマネジメント力を向上させる
管理職・経営層は組織全体のパフォーマンスを最大化する責任を負う。多様な価値観を持つメンバーを統率し、それぞれの強みを活かしながらチーム力を高める能力が不可欠だ。コーチングスキルや心理的安全性の構築、効果的なフィードバック手法などを習得し、次世代リーダーの計画的な育成も担える人材に成長させる必要がある。

(3)変革推進力とイノベーション創出力を養う
現代の経営層には、既存の枠組みにとらわれない変革推進力が求められる。業界の常識を疑い、新たなビジネスモデルを創造する発想力と実行力を身に付けさせることが重要だ。そのために、異業種交流や海外研修、社外取締役との対話機会などを通じて視野を広げ、イノベーション創出のためのマインドセットを醸成していくことが効果的である。

「人材育成」に取り組むうえで押さえておきたいポイント

次に、「人材育成」に取り組むうえでのポイントをいくつか紹介したい。

●目的の明確化

まずは、「人材育成」の目的を明確化することだ。例えば、対象者が次世代リーダーであった場合、事前に次世代リーダー候補者に求められる要件を定義したり、候補者を選抜したりする必要がある。その上で、次世代リーダー候補者としての意識付けと、研修の目的・意義を受講者と共有することで、施策の効果がより高まるだろう。

●自律性を引き出す環境づくり

どれほど素晴らしい研修を行い、参加者の意識やスキルを高めたとしても、それぞれが元の職場に戻る、やがてその効果が薄れてしまうということが良くある。原因の一つに挙げられるのが、ルールや前例に重きを置きがちな社内の風土だ。「不要なルールはなくす」、「チャレンジを促し、失敗を責めない」など、社員の自律性・自発性を引き出す環境作りに取り組まなければ、「人材育成」は進まないと言って良い。

●実践機会を設ける、またそのサポート体制も構築する

人材育成施策を通じて学んだ内容を定着させるためには、実践機会を設けることが必要だ。それには、本人だけでなく上司のサポート体制も欠かせない。例えば、「研修などで学んだ内容を生かせる業務をあえて任せてみる」、「権限を委譲してみる」といったことも有効だ。

●体系的な育成機会を用意する

人はすぐには育たない。それだけに、長期的かつ体系的な育成機会を用意しなければいけない。企業で定めた階層・役割ごとに人材要件があるはずなので、それらを改めて見直し、必要な要件を満たすためのスキルマップや教育計画を策定した上で、実行したい。

●指導する側の育成にも取り組む

企業の人材育成力を高めるには、管理職やOJTトレーナーなど、指導する側の育成にも取り組む必要がある。育成する環境を整えることで、効果的・継続的な人材育成が期待できるだろう。管理職・OJTトレーナーが業務の多忙を理由に、研修などの人材育成施策への参加や、部下・後輩への指導経験を積むことが後回しにされることはあってはならない。これに関しては、指導する側の既存業務を減らしたり、人材育成の意義を改めて伝えたりなど、経営や人事サイドの関わりが求められると言って良い。

●経営層と共通認識を持つ

人材育成は、経営層・部門責任者・人事部門が重要なテーマであることをお互いに認識し、連携しながら推進していかなければ機能しない。まずは、企業のミッションやビジョン、それを実現していく上での人材育成の位置づけなどについて、共通認識を持つことから始めてみよう。対話の場を設けることも良い方法だ。

●成長の可視化とPDCAを構築する

学びと成長を可視化して、企業としての人材育成のPDCAを回していくことも重要だ。実際、近年では人事評価制度や目標管理制度などを構築するために、成長の可視化を実践している企業が増えている。社員の知識やスキルレベルを客観的かつ定量的に把握できるテストを導入するのも良いだろう。

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「人材育成」の方針・計画の立て方

「人材育成」の方針や計画を立てることで、一人ひとりの社員が目標に向かって成長できる環境づくりがスムーズになる。「人材育成」を進めるために押さえておきたい基本の考え方と、効果的な計画の立て方をわかりやすく解説する。

●育成理念・方針を明確にする

まずは企業として将来的に求める人材像を定め、それを基準に育成の方向性を具体化していく。この育成理念は企業の経営理念やビジョンと密接に連動させることが大切だ。明確な方針があれば、社員一人ひとりの成長を促すための統一感ある施策が実施でき、組織全体の成長力につながっていく。育成方針の策定には、経営陣や人材育成担当者が協働し、組織の目指す未来を共有しながら策定することが求められる。

●期待される人材像の設定

期待される人材像を具体的に設定するためには、現状の社員のスキルや能力を可視化し、理想とのギャップ分析を行うことが先決だ。これにより育成すべきポイントが明確になり、計画的で効率的な育成が可能になる。スキルマトリクスや評価シートを活用することで、社員の強みや弱みをデータで把握でき、個別の育成策や組織的な研修プログラムの設計を組み立てやすくなる。各社員のスキルを可視化することで、育成効果の把握やモチベーション向上施策にもつなげやすい。

●教育研修計画の作成

育成理念や期待される人材像を踏まえ、具体的な教育研修計画を体系的に立てていく。計画作成には、経営目標の確認や対象者の現状分析、目標設定が必要だ。次に必要なスキルを洗い出し、それに最適な研修手法やコンテンツを選定してスケジューリングを行っていく。計画は関係部署と調整し、実施後には効果測定と改善を繰り返すことで、さらなる効果向上も図りやすくなるだろう。

「人材育成」を進める手順

「人材育成」を効果的に進めるためには、以下の手順で進めることを推奨したい。

(1)自社の課題把握

まず自社の現状と課題を正確に把握することが重要だ。従業員の能力やスキルの現状、組織の強みや弱み、業界動向や市場環境の変化などを分析することで、「人材育成」において特に注力すべき点や、優先的に取り組むべき課題が明確となる。

(2)目的・目標設定

課題を踏まえ、「人材育成」の目的と目標を設定する。目的は、「生産性の向上」、「イノベーションの創出」など、企業の経営戦略に沿ったものであることが望ましい。また目標設定は、SMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)の原則で考えると良いだろう。

(3)解決方法・施策内容の検討

次に、自社の目的と目標に合わせて解決方法や施策内容、育成方法を検討する。外部の専門家や研修サービスを活用するのもよいだろう。各施策の実施時期、対象者、予算、必要なリソースなども計画し、自社に適した育成プランを設計したい。また、この時、従業員の希望や意見も取り入れることで、より効果的で受け入れられやすい育成計画が組み立てられる。

(4)実行・評価・改善

実際に施策を実行し、定期的に評価と改善を行う。実行時には進捗管理を徹底し、実行後は、設定した目標に対する達成度や従業員満足度、業績への影響などを評価していく。方法としては、スキルテスト、アンケート、上司評価、業績指標の分析などがある。また、評価結果を基に施策を見直し、継続的に育成プログラムの改善を行っていくことが大切だ。

「人材育成」の取り組み事例

次に、特徴的な「人材育成」の取り組みをしている企業の事例を紹介しよう。

●サントリーホールディングス

サントリーホールディングスは、グローバル化に対応した「人材育成」を重視し、2015年に「サントリー大学」をスタートさせた。これは実際に校舎を建設したわけではなく、国内外約4万人の従業員を対象に自発的な学びを促すことを目的とした育成プログラムのことだ。サントリー大学は、「自ら学び、成長し続ける風土の醸成」、「創業の精神の共有と実践」、「リーダーシップ開発」、「未来に向けた能力開発」という4つの視点から、多様なプログラムを実施している。この取り組みは、国際的にも高く評価され、2022年には米国Chief Learning Office誌主催の「Learning Elite」でブロンズを受賞している。

●旭化成

旭化成は、若手社員の自律的成長を支援するため、2023年6月から新入社員向けラーニングコミュニティ「新卒学部」を導入した。これは、新入社員が自身の志向に合わせてゼミを選択し、約9カ月間にわたり同期とともに“横のつながり”で学ぶのが特徴だ。その結果、新入社員の学習時間が前年度比約3.5倍に増加し、キャリア不安の低減にも効果が見られているという。

●商船三井

商船三井は、若手社員だけでなく、グローバルに活躍できる次世代リーダーの育成にも力を入れている。その中核が、2014年から毎年実施している「One MOLグローバル経営塾(MGMC)」だ。このプログラムでは、世界各地から選抜された参加者が、国内外の重要拠点を巡り、戦略思考や組織運営、リーダーシップを学んでいる。さらに、2010年からは、6カ月にわたって「人と組織」、「経営戦略」、「会計」、「DX」などのテーマの講義を通して、リーダーシップの要諦を学習する「One MOL経営スクール」を開催している。

「人材育成」に活用できる支援制度

「人材育成」に活用できる代表的な補助金や助成金の概要と、利用するメリットを紹介しよう。

●人材開発を後押しする助成金制度(人材開発支援助成金)

人材開発支援助成金は、企業が従業員の職業能力開発を目的に実施する研修や訓練にかかる経費や、訓練期間中の賃金の一部を国が助成する制度だ。企業は人材育成にかかるコストを削減でき、計画的に社員のスキル向上を図ることができる。

助成対象となる研修は、専門的な技術研修やビジネスマナー研修など幅広く、従業員の能力の底上げと生産性向上を支援することが狙いとなる。企業としては、経済的な負担を軽減しつつ、積極的に「人材育成」に取り組みやすくなる支援制度と言える。

【関連記事】「人材開発支援助成金」とは? 各コースの条件や助成額、申請方法をわかりやすく解説

●キャリア形成を支援する助成金制度(キャリアアップ助成金)

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善などキャリア形成を支援するための助成金だ。非正規社員を正社員に転換する際の費用や賃上げに対して助成されるため、企業は人材の定着やモチベーション向上を図りやすくなる。

多様な雇用形態の社員がキャリアアップを目指せる環境づくりを促進できるため、組織全体の安定性や競争力を強化することにつながる。返済不要の補助金であり、経営資源を有効活用できる点も大きなメリットだ。

【関連記事】「キャリアアップ助成金」とは? 正社員化コースなどの条件や金額を解説

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まとめ

「人材育成」は、企業が中長期的に競争力を維持・向上していくためには欠かせない。人材育成に取り組むことで、社員は仕事に対する意識を変容するだけでなく、能力・スキルが高まり、成長を実感しやすくなる。また、管理職からしても部下が育ち、活躍してくれる姿を見るのは嬉しいものだ。お互いに充実感を抱くことで、チームや組織としてのパフォーマンスも向上するだけに、会社としてのビジョンや目標の実現にもより一層貢献していくことができる。ただ、人はすぐに成長するものではない。どうしても手間や時間が掛かってしまう。それだけに、目指すべきゴールを明確に定め、我慢強く取り組んでいきたい。

よくある質問

●「人材育成」の3要素とは?

「人材育成」の3要素は、「能力開発」(スキルや知識の向上)、「動機付け」(学ぶ意欲の喚起)、「環境整備」(成長を促す職場環境の整備)と言われている。これらが揃うことで、効果的な育成を進めることができる。

●「人材育成」に大切なことは?

「人材育成」では、個々の適性に応じた指導と継続的なサポートが重要となる。明確に目標を設定し、フィードバックによってモチベーションを維持させつつ、成長の実感を得られる環境を作ることが求められる。

●「人材育成」に向いている人の特徴は?

「人材育成」に向いているのは、共感力が高く、部下の成長を真摯に支援する姿勢を持っている人だ。コミュニケーション能力が優れ、課題解決や指導力に長けていることも求められる。
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