コロナ禍も2年目になり、当初は密を防ぐために集合研修の多くが姿を消した。テレワークの拡大とともに、研修のオンライン化が進むにつれ、ブレイクセッション機能を使ったワークを行うなど集合研修風のスタイルが多く見られるようになった。しかし、残念ながら、消えた集合研修を完全に補うにはまだまだといったところである。この影響は大きく、かなりの企業で人材育成が止まってしまったことを意味する。
人材育成にも関係するニューノーマル時代の働き方やキャリア、2020年~2021年でどのような変化が起きているのか(前編)

コロナ禍によって人材育成にどのような影響が及んでいるのか

一年研修をストップしたぐらいでは、人材面でのレベル低下などの問題は、正直目に見えないかもしれない。しかし、資格取得についてはどうだろうか。ほぼ一年分の予定された社員の様々な資格取得が進まなかったのは数値でわかる事実としてある。人材育成の責任部署は、この実態を正確に把握し、取り戻さなければならない。ただ、コロナ禍は社員の生命の危険に関わる問題であり、それどころではないかもしれない。そして会社全体が業績不振となっていれば、育成は後回しになるであろう。しかし、頭の片隅にこの空白の一年間があったことを置き、忘れずにどこかでリカバリーをする必要があるだろう。

また、一般的にコロナ禍で経済活動は減退したイメージが強いが、冷静に企業ごとの業績を見てみると、多くの企業が業績不振に陥っている中で、ここをチャンスに伸びている企業が意外に多いことも無視できない。よく言われるマスク関連会社とかだけではなく、飲食業界でありながら回転寿司業界で史上最高益を出している企業もある。特に恐ろしいのはGAFAを始めとするIT・DX関連企業の躍進である。

この一年間の人材育成のブランクが、どの程度企業のパフォーマンスに影響与えるかは不明である。もし影響がない、特に変わらないのであれば、これまでの育成施策自体に効果がないことを証明してしまうことになる。テレワークが一気に進んだ企業では、仕事の仕方やマネジメントを変えざるを得ないだろう。そもそも顔が合わせられなくなったのに、それらの責任を全てマネージャサイドに押し付けるのは限界があるからだ。

ほとんど仕事の進め方や仕組みが変わっていないのに、リアルには会えないのだから、それらをきっかけに、様々な化学反応が起こるだろう。その影響の方が育成停止よりも影響が大きいかもしれない。実際にコロナ禍が始まってからのメンタル不調者や自殺者の数は増えていると聞く。これらに効果的な手立てが無いのも現実なのである。

人材育成を考えるうえで切り離せない2020年~2021年の働き方やキャリアの変化

人材育成業界だけでなく、この1~2年の間に世の中における働き方やキャリアについて、様々な変化があった。

私が気になったものをいくつかあげてみたい。
(1)FIRE
(2)転職の活発化
(3)デジタル化ブーム
(4)オンライン化、サブスク化、マイクロラーニングブーム
(5)ジョブ型雇用
(6)パワハラ防止法
(7)メンタルケアの増加


コロナ禍の影響であるものを除いても、注目点は多い。人材育成は企業が自社課題から行うものだが、その課題は外部、世の中の変化からくるものが少なくない。

かつての日本では、企業が家族のように社員を育て活躍させるというスキームをベースにしていた。その後の不況により、リストラが当たり前になると、「企業と従業員の関係」は、企業にとって従業員の人生を預かるほどの責任感を伴うものではなくなってきた。

この「会社と従業員の関係のドライ化」は、仕事のあり方や雇用のあり方の変化を意味している。従業員として長い期間頑張ってきたことを、そのプロセスを含めて、意味のあることとして評価する価値観が無くなったことは大きい(年功序列の崩壊でもある)。

が、近年の関係性の希薄化は、企業側の都合から始まった経済状況に応じて「自由に解雇できる仕組み作り」の流れなどの一方的なものだけでなく、若者の人間関係観や、人生観の変化も大きい。実際、バブル崩壊後の失われた10年や、リーマンショック、そして新型コロナと、長い不況で日本人の価値観も大きく変わった。

もはや物理的な満足よりも、時間的なゆとりや、成長的な満足に重きが置かれる優先順位の変化、それも多様性を伴ったものになっているのである。簡単に言えば、食費を削ってでもお洒落な新車を買って、所有することがステータスだった昭和世代の価値観は、今やレアである。自分の趣味に没頭する、あるいは独りでいる時間を楽しむなど、「時間」を大切にすることの方がリッチな価値観になってきているのだ。

昭和世代の私からすると、「自分に正直になった」時代と感じる。いい車を背伸びして買うような、見栄っ張りではなく、またブランドに振り回されるのではなく、自分がいいと思うものを、素直に好きと言える、またアニメやアイドルに没頭することを、隠すともなく言える、当たり前に自由な時代になったのである。

「FIRE」は日本の企業や従業員に何をもたらすのか

そんな大きな価値観の変化の中でも、新しく、また私のようなミドルシニア世代でも気になるのが、ミレニアム世代注目の「FIRE」である。FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略で「経済的独立と早期リタイア」を意味する。簡単な例で言うと、若いうちに資産形成を図り、資産や不就労所得により、リタイア後にやりたいことをして充実した生活を楽しむことである。

アメリカで流行った考え方だが、日本で紹介されている記事を見ると、例としては40歳までに1億円貯めて、それを4%で運用して資産を目減りさせないイメージのようだ。極端な生き方かもしれないが、非常に象徴的でわかりやすい考え方だと感心した。ローンで先取りするが、そのためにその後の生活を拘束されていた昭和世代とは対局であるとも言える。

少し前には、やりたいことが見つからずに転職を繰り返す、バージョンアップする職業観が主流で、離職防止に躍起になっていた企業からすると、これまた微妙なトレンドである。FIREが日本で流行る余地は十分にあると思う。ちなみにGAFAは、意外にもかつての日本企業のように、仲間意識が高く、それ自体が強さでもある。ところが本家の日本企業はかつてのような求心力はなく労働者側のロイヤリティも高くはない。従業員も多様化しており、何をおいても「早々にリタイアできる」、すなわち企業からの解放と自分の自由な生き方への切り替え、この思い切ったライフプランが、誰もが魅力的に感じる時代になったからである。

このように大きく働くことや生き方に大きな変化が起きている上に、コロナ禍によるニューノーマルの波が来ている。企業による人材育成問題はより複雑化しているのだ。次回も引き続き後編として、転職の活発化やジョブ型雇用などをテーマに、人材育成にも関係するニューノーマル時代の働き方やキャリアについて紹介したい。
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