前回の記事では、人材育成の面でも切り離せないニューノーマル時代の働き方やキャリアの変化について紹介した。人材育成は企業が自社課題からアプローチしていくものだが、その課題は外部、世の中の変化からくるものも少なくない。今回も引き続き後編として、私が特に気になった「転職の活発化」や「ジョブ型雇用」などをテーマにお届けする。
人材育成にも関係するニューノーマル時代の働き方やキャリア、2020年~2021年でどのような変化が起きているのか(後編)

離職防止を目的とした研修を導入する前に考えるべきこと

私が気になったものとして、転職業界の著しい成長も見逃すとはできない。今企業の多くは、離職防止を重要な課題としてあげている。流行りの「エンゲージメント」だ。愛社精神的なものだが、こういった言葉遊びとも思える研修業界の新語や流行語は、昔から次々と現れてきた。ここ1~2年の間で、特にこの言葉の注目度が高いことから、離職問題に対して企業が特に課題を感じているようだ。

コストをかけて、苦労してマッチング・採用した人材を、さらにコストをかけて育成したわけだから、簡単に失うわけにはいかないのである。ただ、実際はこの考え方もかなり古い印象は否めない。離職防止という言葉で、「辞めたくならないような研修」といった施策を打つのは、問題解決のメソッドから言えば、モグラ叩きであり、本質的ではない。本来は離職したくならない魅力的な会社であること、社員が求める価値観とマッチングすること、それが何なのかを深く考え解明する必要があるのではないだろうか。

会社を辞めたいと思っている人を、辞めたくないと思わせるならば、会社が変わらない限り、「人を変えなければいけない」ということになる。それは極めて困難な話であり現実的ではない。もちろん一時的な納得感は得られるだろうが、応急処置で発病を遅らせることしかできないのではないだろうか。であれば、人事政策に大きな影響を与えるのである。そしてまた新しく、それらを一気に片付ける方法としてトレンドとなっているのが、ジョブ型雇用への移行である。

ジョブ型雇用制度になるとどう変わるのか?

人の流動性を止めることができないのであれば、これまでの雇用形態をやめて、スキルで割り切るジョブ型雇用への移行となる。流動性が止められないのだから、それを前提に有利に展開するべき戦略的人事の登場でもある。

特に新しい取り組みではなく、米国や欧州などでは通常の雇用スタイルであり、ポストに必要なスキルが定義され、有スキル者のマッチングを図る組織形態である。これまでの「人に仕事を与える」、成長に合わせて昇格する制度ではなく、ジョブ型は「仕事に人をつける」極めて合理的でドライなシステムと言えるであろう。

これまでの日本型経営の「社員は家族」スタイルでは、新卒を一括採用し、集合研修で社員として鍛えてきた。そして企業に最適にカスタマイズされた社員を一括で調達することで、業務と社員の標準化をはかり、高度に効率的な企業体を作ってきた。そして年功序列と終身雇用という保障制度で縛り、任用と異動のセットで企業都合に合わせて人員配置することで、安定した労働力の元で、継続的な成長を重ねる。まさに高度成長期を支える経営モデルであった。これは従業員の立場からすれば、能力の良し悪しにあまり左右されずに、安定した生活が長期に確保され、日々仕事をがんばることに専念すればよかった。とにかく大量生産、大量消費を前提とした時代の賜物である。

ジョブ型雇用は基本的には、企業と従業員の間には、必要なスキルを前提とした労働力の提供のみ存在すればいいわけで、かつての日本のような助け合いのようなWETな精神的な繋がりは必要ない。必要なジョブにその業務遂行を可能とする有スキル者を配置するにすぎないシンプルなものである。

もちろん実際には外資系でもない限り、アルバイト雇用のように辞めたら次の人というわけにはいかないだろうし、一番恐ろしいのは、従業員がスキルに見合った雇用条件でなければ、すなわちスキルを活かせない職場環境や待遇でなければ、どんどん離職していく。人材流動性が確保されるということは、企業間での人気の差が激しくなって、安定した労働力が確保できなくなる企業が多くなり、人材の取り合いも考えられるのである。

従業員からすれば、ぼんやりはしてられない。スキルアップしなければ雇用条件のいいポジションは得られないので、新入社員から賃金は変わらないということもありうるし、大幅な技術革新があれば、能力差が入れ替わり、いきなりベテラン社員が新入社員以下に扱われる可能性もある。つまり、勉強しない社会人は生き残れない世界になるということである。もちろんこれまでの年功序列は人のライフサイクルに合わせられていて、自宅購入や子供が進学するなどのライフイベントに沿った形で企業が用意したものである。それが無くなれば、ライフイベント対応含めて、自己解決となるであろう。

ここまでの変化はすでに始まっている話であり、新型コロナによるテレワーク拡大や飲食業の衰退などの産業構造の転換などの影響と同時に進んでいる大きな時代変化なのである。

今後の社員研修を考えるうえでの二つの戦略

ここまでのシナリオは企業によってその進捗レベルはかなり違う。長い目で見れば、スキルアップの多くの面で自己責任となっていくと考えると、企業が行う人材育成・社員研修は縮小していくと考えるのが自然かもしれない。ただ、この過渡期においてはまだまだ従業員の即戦力化に社員研修は不可欠であるし、各社人材育成の担当組織は大きく二つの面で以下のような戦略を必要とする。

一つ目は、ニューノーマル時代としては、全てがネットワーク上で行われている物理的な接触を伴わない形で、事業が進化するという短期的な動き。二つ目は、企業は有スキル者を増やす育成施策に投資し、従業員も徐々に自らのキャリアプランに合わせたスキルアップに自己投資していくという流れ。今後は、このような大きな動きに合わせた仕組みや取り組みが必要となると考えられる。

この両面から企業の行う人材育成施策が具体的にどう変わっていくのか。次回以降は、事業や階層などの切り口から、いくつか事例を見ながら未来予想も含めて紹介していく。
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