「クリティカルシンキング」がビジネスの現場で注目を集めている。特に、イノベーションや新規事業立ち上げを検討する企業ならば、必ず押さえておきたい思考法だ。クリティカルシンキングは感情にとらわれず、客観的に物事を考察するという意味で使われることが多いが、「VUCA時代」でこの思考法をどのようにビジネスに活かしていくと良いのだろうか。「クリティカルシンキング」の詳しい意味やメリット、そして本質の見極めや問題解決など業務で実践する上でのポイントについて考えてみよう。
本質の見極めや問題解決の業務に役立つ「クリティカルシンキング」の意味やメリットとは? 新規事業やイノベーションにつながる実践ポイントや活用事例を解説

「クリティカルシンキング」の意味やロジカルシンキングとの違い

「クリティカルシンキング」とは批判的思考とも呼ばれているが、欠点を指摘するだけのものではなく、健全な批判精神を持ち、感情のままではなく、客観的に物事を判断する思考法だ。

クリティカルシンキングが注目されているのは、価値観の多様化、そしてビジネススピードが従来に比べ飛躍的に上がっていることが理由である。今までの仕事の進め方や習慣が通用しない時代に「今のやり方は正解なのか」、「この方法で今後成功する可能性があるか」を絶えず考えながら動くことが非常に重要になってくるだろう。

●ロジカルシンキングとの違い

ビジネス関連で頻繁に聞かれる言葉の一つに「ロジカルシンキング」というものがある。ロジカルシンキングとクリティカルシンキングの違いはどのような点なのかもチェックしておきたい。「クリティカルシンキング」は現在行っている方法に至るまでの考え方や情報を集め、「今のやり方は正しいのか」と疑い、正しい方法を探すという思考法だ。

一方、ロジカルシンキングは課題を感覚で捉えるのではなく、体系的に整理し、結論を導き出すという思考法になる。日本語で「論理的思考法」と言われている点からもどのような思考法なのかが推察できるだろう。従業員がロジカルシンキングを身に付けると、情報を共有する際にも的確に情報を伝え合うことができるようになる。また、会議などの場で筋道を立てた説明ができるようになるため、自分と違う意見を持つ相手がいた場合でも、納得してもらうことが容易になるはずだ。

ただ、ロジカルシンキングにも弱点はある。論理的に考える思考法ではあるが対象を批判的に見る思考法ではないことだ。そのため、検討対象自体に間違いがある場合は、結論も間違えてしまう可能性がある点には注意すべきである。

なお、クリティカルシンキングを実践する場面ではロジカルシンキングが実践できない、というわけではない。下記の長所を理解していると、組み合わせて使うことができる。

【クリティカルシンキングの長所】
・前提となっている条件が正しいのかの検証ができる
・視野を広げて考えることができる

【ロジカルシンキングの長所】
・既にある枠組み(フレームワーク)を利用して、情報の整理ができる
・情報を分かりやすく伝達できる

「クリティカルシンキング」を実践することによるメリットは、問題解決の精度向上や本質の見極め

では、「クリティカルシンキング」を実践するメリットについて、以下の4つを挙げて説明していく。

●問題解決の精度向上

ビジネスの現場での問題発生はよくある話だ。しかし、問題の完璧な解決方法はないと言っても過言ではない。どのような解決方法にも欠点がある。

そこで「クリティカルシンキング」を実践することで、今の解決方法の問題点や矛盾を洗い出すことができる。問題点が明らかになることによって、改善に向けての議論もスムーズに行うことができるだろう。

●物事の本質の見極め

「クリティカルシンキング」は物事の本質を見極めることができる思考法だ。「これが本当に正解なのか」、「どうしてこうなったのか」と物事を批判的に見ることで、客観性を持てるようになる。

例えば、会議で「直売店の売上が下がっているから会社の業績も下がった。直売店の売上を上げて業績も上げよう」という意見が出たとする。その際に「取扱商品を増やして選択肢を増やそう」、「商品を値下げして客を集めよう」といった簡単に導き出せる結論で終わるのではなく、「そもそも直売店の取扱商品は客のニーズに合っていたのか」、「業績が悪いのは本当に直売店だけのせいなのか」と疑問を持つことがクリティカルシンキングだ。疑問を持つことで、効果的な解決方法が生まれる可能性も高まる。

●新たな視点や発想の創出

「クリティカルシンキング」は、今ある意見について疑問を持つ思考法である。解決方法は1つしかないと思われている事柄であっても、「本当に解決方法は1つしかないのか」と疑問を持つことで、新たな視点を持てるようになるかもしれない。新たな視点を持つことができれば、新しい発想や解決方法も生み出されるだろう。

●検討した内容の矛盾や漏れの阻止

会議で企業やプロジェクトの意思決定をする際、検討している内容に矛盾や漏れが生じることはよくあることだ。会議の場でもクリティカルシンキングを実践していれば、「今話し合っている内容に矛盾はないか」と考えながら話し合いを進めることができるため、結論や決定事項に矛盾や漏れが生じる恐れは少なくなる。

実践するうえでの3つのポイント

「クリティカルシンキング」を実践する上で覚えておきたい以下の3つのポイントについて解説する。

(1)常にゴールを意識

「クリティカルシンキング」を実践する際は、必ずゴールを意識することが重要である。例えば、会議に参加する従業員が目的を意識していないと、「何のために議論しているのか」が分からなくかもしれない。そのため、話し合いや考えることにばかり時間を取られる恐れがある。常にゴールを意識し、議論の目的は何かを頭に入れておくことが必要である。

(2)思考のクセを意識

どんなに「自分は公平な考え方ができる」と思っている人でも、必ず偏見は持っているものだ。今までの経験や知識があるため、主観を全て無くすことは誰にもできない。

「クリティカルシンキング」を実践する際は、誰もが思考のクセや偏りを持っているという点を、あらかじめ頭に入れておくことが重要だ。「この提案には自分の主観が入っていないだろうか」、「自分の好みで意見を言っていないか」と日常でも意識して業務にあたることが、より良い問題解決方法を生み出す。

(3)絶えず問う

絶えず問うことは「クリティカルシンキング」において一番重要である。日常からクリティカルシンキングの実践を心がけることで、物事の本質を見抜く力が付くだろう。

企業やプロジェクト内で生じる問題は一つだけではない。解決した後も別の問題が生じる可能性は大いにある。従業員がクリティカルシンキングを日頃から実践していれば、問題解決スピードは格段に速くなるだろう。

「クリティカルシンキング」を実践するうえで役立つフレームワークを紹介

「クリティカルシンキング」を実践する際に役立つフレームワークを2つ紹介する。

●MECE

もともとMECEはロジカルシンキングの考え方であるが、「クリティカルシンキング」にも役立つ。なおMECEとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」のことで、「漏れがない」、「ダブりがない」という意味である。

業務上の問題解決のために話し合う場合は、問題点のみをピックアップするのではなく、業務全体を知っておく必要がある。また、その際に漏れやダブりがあると、全体像が把握できず正しい結論を導き出すことも困難になるだろう。そのため、今存在するフレームワークを意識し、重複していないか、漏れがないかを再確認することが重要になる。

●ピラミッド・ストラクチャー

ピラミッド・ストラクチャーとは、結論および根拠をピラミッド型の図で表すフレームワークのことだ。ピラミッド・ストラクチャーでは、意見を整理すること、そして意見を客観的に考えることができる。そして、結論・根拠が分かりやすくなるため、意見を分かりやすく伝達できることも期待される。

また、ピラミッド・ストラクチャーには、考え・意見を部分ごとに分けていくため、問題点を特定できるというメリットもある。

実際の業務における「クリティカルシンキング」の活用事例

最後に、実際の業務上での「クリティカルシンキング」活用例を紹介する。

●新規事業

ある企業が新規事業を立ち上げる場合、通常ならば「新規の部署が必要だから、従業員を増やさないと」という意見が出てくるかもしれない。

しかし、「クリティカルシンキング」を活用し、「本当に新しい部署を設立しないといけないのか」、「本当に人員が必要だろうか。社内に余っている人員がいるのでないか」まで考えてみないと、新規部署設立や従業員増が適切なのかは分からない。もしかしたら既存の部署に新規事業を行ってもらうことや各部署から人員を数名ずつ出してもらうことも可能かもしれないからだ。

●業務プロセスの見直し

業務プロセスの見直し時にも「クリティカルシンキング」が役立つ。例えば、「アポイントの確認のため、新規顧客を訪問する前には必ず手書きの挨拶状を送付する」というBtoC企業があったとしよう。効率化目的でこの業務を改善するとしたら「挨拶状をやめる」、「挨拶状ではなく電話にする」といった解決方法が出てくるかもしれない。

ただ、クリティカルシンキングでこの解決方法を考えると「挨拶状がなくなったら顧客がアポイントを忘れるかもしれない」、「電話はタイミングによっては出てもらえないかもしれない」という懸念も出てくる。

この懸念も加味すると、「メールやメッセージアプリでの挨拶にする」という解決方法も生まれるのではないだろうか。手紙を手書きする時間も省略でき、顧客とコンタクトできる可能性は電話よりも高くなることが期待できる。


「クリティカルシンキング」は、「批判的思考」とも言われるように、物事を批判的な視点で見るものだ。しかし、単に批判や否定をするのではなく、そこから新しい解決方法を導き出していくという思考法でもある。ビジネスのスピードが速くなってきており、今の業務のやり方がいつまでも正しいということはあり得ない。日頃から「クリティカルシンキング」を実践し、企業もアップデートを図っていかないと、時代に乗り遅れる恐れもある。

従業員に対し、常に「このやり方は正しいか」、「もっといい方法があるのでは」と疑う気持ちを持つように指導していくことが今後ますます重要になるだろう。
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