「マインドセット」とは、固定された考え方や物事の見方を指す言葉だ。マインドセットは先天的な性質や経験、教育、育った時代背景によって形成されるもので、個人の信念や価値観も含まれる。近年では、人材育成の一つの手法としてマインドセット教育を行う企業が出てきている。先行きが不透明なVUCAの時代、組織力の強化に寄与するマインドセット教育はどのように行えばいいのだろうか。本記事では「マインドセット」の意味を改めて説明し、活用事例を紹介する。

「マインドセット」の意味や組織に必要な理由とは

「マインドセット」とは、考え方や物事の見方の「癖」のようなものを意味する。生まれ育った環境や先天的な性質、時代背景、経験によって形成され、信念や心構え、価値観、判断基準にもマインドセットが影響を与えている。マインドセットは個人だけでなく企業や組織にもある。企業理念や組織文化、行動規範、経営戦略などから形成され、社風として表出する。

近年、なぜ「マインドセット」という言葉が注目されているのか。それは、数年先も見通せないVUCAの時代で企業が継続的に成長するためには、経営陣やリーダー人材だけでなく、従業員一人ひとりの意識や発想を変化や課題に耐えうるものに変えていく必要があるからだ。マインドセットの変化は個々の行動を変えることができる。

またマインドセットの変化は、少なからず周囲にも影響を与えるだろう。例えば、ポジティブな人とネガティブな人、それぞれと会話をしているときに抱く感情とその後の自分への影響を考えてみてほしい。ポジティブな思考や言葉を受け取った後には、自分もポジティブな気持ちを持って物事に取り組みたくなるのではないだろうか。

ポジティブなマインドセットを持つ従業員が増えれば、自然とそれが伝播し問題が発生したときにも前向きに解決できる組織になっていく。また思考の変化は業務への向き合い方にも影響し、行動を変えていく。従業員の多くがポジティブなマインドセットに変わることで、成功を引き寄せる組織へと成長していくだろう。

「マインドセット」は大きく分けて2種類ある

「マインドセット」には大きく分けて2つの種類がある。それぞれの特徴について見ていこう。

●成長マインドセット

成長マインドセットはグロースマインドセットとも呼ばれる。この「マインドセット」がある人は、「自分の能力は経験や努力によって向上できる」という思考から積極的に挑戦し、自主的に努力する傾向がある。

成長マインドセットを獲得すると、集中力や忍耐力が向上し、目標を成し遂げられるようになる。目標を達成するまでの間に生じる障害にも対応できるようになるだろう。当然、企業においては成長マインドセットが求められる。成長マインドセットの浸透で、自主的に努力し挑戦する社風が生まれるからだ。

●硬直マインドセット

硬直マインドセットはフィックストマインドセットとも呼ばれるもので、成長マインドセットとは真逆の思考を指す。「自分の能力は経験や努力によって向上できない」というように、思考が硬直してしまうのだ。

硬直マインドセットを持つ人は、目標を達成するまでの間に障害が生じると、不正やごまかしを行おうとしたり、自分より劣る人間を探したりと課題解決につながらない行動に走りやすい。

個人と組織における「マインドセット」とは

次に、個人と組織、それぞれにおける「マインドセット」とはどのような要素で構築されているのか説明する。

●個人における「マインドセット」とは

・経験
生まれてから今までに得た経験は「マインドセット」に大きく影響する。成功体験は自分のやり方や考え方に肯定感を生むからだ。

失敗は同じ物事への抵抗感を生み、再度チャレンジする際の障害になる。努力をして成功した体験が多くあれば、自然と成功マインドセットを獲得できるだろう。何度も失敗し、努力しても成功した体験がなければ硬直マインドセットに陥りやすくなる。

・先入観
先入観は「マインドセット」の中でも変えることが難しい要素だ。先入観は生まれ育った環境や接する人、情報によっても形成されていく。偏見や差別を生むような先入観は、多様性を許容できず周囲と軋轢を生む可能性がある、負の影響を与えるマインドセットといえるだろう。

・価値観、信念
価値観や信念は、個々人の実際の行動に影響を与えている。「人間関係には調和が大切である」という価値観を持つ人は、人間関係のトラブルを避けるために忌憚のない意見を発しづらいことがある。一方で、「正直に生きる」という信念を持つ人は、どのような状況であれ正直な意見を述べるだろう。

・暗黙の了解
暗黙の了解も「マインドセット」に含まれる。暗黙の了解は所属する場所によって左右される変化しやすいマインドセットだ。転勤や転職で、これまでの暗黙の了解のマインドセットが180度転換することもあるだろう。

●組織における「マインドセット」

・製品、事業特性
会社が取り扱う製品や事業特性は、会社の組織文化の構成に大きな影響を与える。医療や健康に関する事業を展開する企業は、自然と人の体について考え、より「体にいいもの」を選択するようになる。オフィスの完全禁煙や過度な残業の禁止、健康増進に関する福利厚生の充実など、従業員の健康にも目を向けた施策を取り入れ、従業員同士も互いの体を気遣うようになるだろう。

IT関連企業ではスピードや効率が求められることから、無駄な会議や飲み会が禁止され、忌憚のない意見を伝えやすい環境が構築されるなどの影響が考えられる。

・戦略、ビジョン、理念
戦略、ビジョン、理念は企業が目指す道であり、企業文化の醸成に欠かせないものだ。理念の共有によって経営陣も従業員も同じ心持ちで業務にあたれるようになる。

「すべての人が幸福な社会を目指して」といった理念を掲げる企業では、人がより幸せになれる方法を追求し、それに沿った商品やサービスを開発する。その中で、企業文化が醸成され根付いていくだろう。

・経験
開発した製品・サービスの爆発的なヒットから、不祥事まで、あらゆる経験が企業文化を形成する。大きな成功や失敗はなくとも、当初見込んでいた客層とは異なる客層を得て、自社の製品やサービスに対する価値観が変わるかもしれない。

あるいは、「高くともいい技術を売ろう」としていたがうまくいかず、結局「それなりの価格でそれなりの技術を」という方向に転換したとしたら、マインドセットが経験によって変化したといえる。

企業におけるマインドセット教育の必要性

なぜマインドセット教育が企業にとって重要なのか。それはマインドセットが従業員の行動に大きく影響するからだ。マインドセット教育によって、従業員は次のようなプラスの影響を企業に与えてくれる。

●従業員が自信を持てるようになる

成長マインドセットの獲得によって、「努力によって能力を伸ばせる、成長できる」ことを知ると、従業員は自分に自信を持ちながら行動できるようになる。

自信がつくことで目標に対しても前向きに取り組み、さらに努力と成功を積み重ね、より自信が高まっていくだろう。「失敗してもまた努力をして成功できる」という自信は、次々現れる課題をクリアし、高い目標を達成するために必要なマインドだ。

●キャリアに対して前向きになれる

成功マインドセットを獲得した従業員は、大きな責任も受け入れ期待に応えようとする。またモチベーションが高く、経営陣から評価される業務に進んで取り組むという特徴を持つ。

成功マインドセットを持つ従業員は、性別に関係なくキャリアに対して前向きで、管理職へのキャリアアップにも躊躇しない。管理職希望者が少ない企業、すでに管理職の数が足りていない企業は、マインドセット教育によって主体的な管理職を増やせる可能性がある。

●ポジティブシンキングが波及する

従業員の多くが成功マインドセットを獲得すれば、社内全体にポジティブシンキングが広がり、浸透するだろう。ポジティブシンキングは、社内の雰囲気を明るくしてくれ、透明性の高い組織づくりにも役立つ。

ポジティブな空気は「いつでも自分の意見を受け入れてもらえる」という安心感につながり、従業員の属性に関係なく互いに自由に意見し合えるオープンな関係性を構築してくれるだろう。

おさえておきたい「マインドセット」のポイント

マインドセット教育を実施する上で、押さえておきたいポイントは次の2つだ。

(1)リーダーに求められるマインドセットは

リーダーの「マインドセット」は、チーム全体に伝わり生産性にも大きな影響を与える。そのため、リーダーには優れたマインドセットが必要だ。

硬直マインドセットを持つリーダーは、部下の育て方がわからず、自分の指導方針にも自信が持てないだろう。問題が起きたときには部下のせいにし、自分は問題から逃げるという行動を取ってしまうかもしれない。

一方、成長マインドセットを持つリーダーは、ポジティブな空気をチーム内に伝播し、意見を言いやすい空気をつくる。常に前向きに挑戦する環境で部下を育て、課題解決力の高い人材へと育成してくれるだろう。

(2)指導におけるマインドセットを整える

従業員のパフォーマンスを向上させるためには、適切な指導とマインドセットが必要になる。リーダーや人材育成に携わる従業員に対しては、指導におけるマインドセットを整える取り組みを実施しよう。

指導する側は成長マインドセットを獲得したうえで、指導される側がどのようなマインドセットを持っているのかを分析し、個々に必要な声がけや指導を行っていく。硬直マインドセットを持つ従業員に対しては、自信を付けられるよう適宜声を掛けていくといいだろう。指導者がポジティブな行動を自然に行えるように、「成長マインドセットをどのようにして指導に生かすのか」を教育する必要がある。

【場面別】「マインドセット」の活用事例

では、実際にどのような場面でマインドセットを活用すればよいのだろうか。4つの場面を例に、マインドセットの活用事例を紹介する。

(1)採用面接

採用面接では、選考中の人材に対して「成長マインドセットを有しているか」確認するために質問を行う。自己評価のバランス、行動優先意識、他責・自責思考などを回答からくみ取っていく。過去の成功体験や、チャレンジしたこととその結果などの質問も有効だ。

過去の成功体験についてすぐに話せる、成功までのプロセスを詳細に語れる人は成功マインドセットを有している可能性が高い。

(2)目標設定

目標設定においては、硬直マインドセットがマイナスの影響を与えるケースが少なくない。成長マインドセットを持って目標を設定すると、将来への希望が高まりモチベーションも向上する。目標を設定する際には、目標達成を阻害する硬直マインドセットを可視化するところからはじめてみよう。

まずは思考を可視化するマインドマップを作成する。そして、目標を達成することを考えた際に脳内に浮かんだものをすべて書き出すことで、その中にある目標を阻害する硬直マインドセットが何か見えてくる。

目標達成を阻むマインドセットがわかると、それを解決するためにどうすればいいのかを個々が考えられるようになる。

(3)コーチング

コーチングによって成長マインドセットを従業員に身につけさせることもできる。結果ではなく具体的なプロセスを褒めることで努力への肯定感が生まれ、成長への意欲が増すだろう。

人材育成の面では、誰しもが成長マインドセットと硬直マインドセットの両方を持っているという前提に立ってコーチングすることも重要だ。どちらかしか持っていない人材は少なく、度合いの違いが行動に表れているだけなのだ。コーチングを行う側は、「硬直マインドセットを成長マインドセットに変える」よう意識しよう。

(4)人材育成

人材育成の観点では、戦略思考と経験学習の2つを重点的に考える。成長マインドセットの獲得とあわせて人材が持つ能力を強化し戦略的な成長を促そう。

マインドセットにはこれまでの経験が影響している。そのため、マインドセットの転換を望むのなら、「経験で何を得たのか」を「成長マインドセットに転換するように」理解する必要がある。

これまでの経験について聞き、紙に書き出し整理してもらい、「結果ではなくプロセスを褒める」などアドバイスや感想を伝えて思考の変化をサポートしよう。


「マインドセット」は本人の無意識内にあるものだが、日々の行動や意思決定に大きな影響を与えている。無意識であるため、意識的に変化を促さなければなかなか変えることができない。マインドセット教育を実施することではじめて、従業員自身が自分のマインドセットに気づき、意識して変えられるようになっていく。これを機に本記事で紹介したポイントや活用事例をもとに、従業員や組織の行動変容を促しパフォーマンスの最大化につなげていただきたい。
  • 1