最近、障がい者雇用に配慮した「サテライトオフィスサービス」が注目を集めいています。障がい者雇用の中で言われる「サテライトオフィス」は、一般的なサテライトオフィスとは異なり、働く環境の提供、障がい者雇用に関わる業務や雇用管理などのサポートなどが含まれることがあります。障害者雇用率があがり、このようなサービスの活用を検討している企業も増えていますが、社外で雇用することに懸念を抱く声もあります。ここでは、「障がい者サテライトオフィスサービス」はどのようなものなのか、また、それを活用することのメリット・デメリットについて見ていきます。
障がい者「サテライトオフィスサービス」とは何か? メリットとデメリットは?

障がい者雇用における「サテライトオフィスサービス」とは何か?

昨今サテライトオフィスで障がい者雇用を検討する企業が増えてきています。一般的なサテライトオフィスとは、企業本社や官公庁・団体の本庁舎・本部から離れた所に設置されたオフィスのことを指します。本拠を中心としてみた時に、惑星を周回する衛星(サテライト)のように存在するオフィスという意味で使われ、多様な働き方の選択肢のひとつとして活用されています。

障がい者雇用のサテライトオフィスは、上記のような一般的なサテライトオフィスという形で使われることもありますが、障がい者雇用を対象としたサービスを指すことも多くあります。民間企業がサテライトオフィスを構えて、そこで契約した企業に障がい者雇用で働く環境を提供したり、それに関する業務やサポートをしたりするものとなっています。

障がい者雇用における一般的なサテライトオフィスと、サテライトオフィスサービスについて見ていきましょう。

【障がい者雇用のサテライトオフィス】
障がい者雇用のサテライトオフィスを設置するケースを見ると、今までにあったオフィスとは別の場所、多くは、通勤に便利な場所や、障がい者の雇用が確保しやすい場所に設置しています。それは、障がい者採用が激化している地域や職場の通勤アクセスがよくない場合でも、人材を採用しやすくなるからです。

また、テレワーク(在宅勤務)よりも働く環境が整ったところで雇用することにより、雇用管理やマネジメントがしやすくなります。

平成30年度には厚生労働省委託事業として、「障がい者のサテライトオフィス勤務導入推進事業」(※)がおこなわれています。自社で導入を検討している場合には、参考になるでしょう。



【サテライトオフィスサービス】
サテライトオフィスサービスは、障がい者雇用のサポートを行う人材会社等の民間企業と契約して、サービス提供する企業のサテライトオフィスで障がい者雇用を進めていくものです。このサテライトオフィスとして提供される場所は、一般的なオフィスの場合もありますが、仕事内容として農業をやっている場合には、農園などの場合もあります。

先に説明した自社でサテライトオフィスを設置するものと比較すると、サテライトオフィスサービスは活用することによって、簡易に障がい者雇用をはじめられるという特徴があります。それは、障がい者雇用に関するサポート体制が整っていること、サービス内容によっては職域の開拓や仕事内容が提示されることもあり、障がい者雇用に何らかの課題を感じている企業にとっても取り組みやすいものとなっているからです。

障がい者雇用で悩んでいる企業の話を聞くと、業務の切り出しが難しい、マンパワーが足りないなどの状況が見られます。もちろん自社で障がい者雇用を進めることは大切なことではあるものの、会社全体の経営・運営を考えたときに、他に優先順位が高いものがある場合も少なくありません。

また、障がい者雇用を進めるには、就労支援機関や特別支援学校などとの連携が必要となり、実習や採用の負担が大きいこともあります。一方、サテライトオフィスを運用している民間会社等では、すでに採用などのネットワークを持っているため、それを介した採用活動を行うことによって、スムーズに雇用まで結びつけることができます。採用後に課題があるような場合でも、すでに経験値があったり、支援機関との連携がとれているため、就職定着しやすい環境を作りやすくなっていたりすることもあります。

ここまで、「サテライトオフィス」と、「サテライトオフィスサービス」について見てきました。サテライトオフィスでは、自社の別拠点オフィスの1つという認識を持ちやすいと思いますが、サテライトオフィスサービスで提供される職場もこのサテライトオフィスと同じ考え方になります。そのため働く場所は職場と異なる場所となりますが、所属する先は自社となるため障がい者雇用率にカウントすることができます。

「サテライトオフィスサービス」のメリットとデメリット

では、「サテライトオフィスサービス」にフォーカスし、メリットとデメリットを見ていきましょう。

【サテライトオフィスサービスのメリット】
・障がい者雇用をすぐにはじめられる
企業名公表や雇入れ計画作成などの時期が差し迫っており、障がい者雇用を進める猶予がない場合でも、すぐに障がい者雇用をスタートしやすいサービスが整っています。

・採用や職場定着のサポートが受けられる
障がい者雇用を進めるには、就労支援機関や特別支援学校などとの連携が必要となります。実習や採用、職場定着などで支援機関からの情報や協力は欠かせません。しかし、たくさんある就労支援機関の中から、自社にあう人材がどこにいるのかをリサーチしたり、スケジュール調整したりしながら、実習や採用を行うことはマンパワー的に難しいことも少なくありません。

サテライトオフィスを運用している人材会社等では、すでにこのようなネットワークを持っているため、それを介した採用活動によって、スムーズに雇用まで結びつけられます。また、採用後に課題があるような場合でも、すでに連携が取れているので、就職定着しやすい環境を作りやすくなります。

・通勤しやすい立地のため、採用がしやすくなる
サテライトオフィスを設置する場合、交通の便がよい場所を選ぶことがほとんどです。これにより、採用が難しい地域にある企業にとっても雇用しやすくなるためです。

通勤するのに公共交通機関などが限られている地域にあると、人材募集しても採用しにくいことがあります。地域によっては、車通勤することも珍しくありませんが、知的障がいや精神障がいで薬の服用の関係などで運転できない人も少なくありません。

また、企業が多くある首都圏では、障がい者雇用が激化しています。雇用される障がい者にとっては選択肢が増えるのでよい面もありますが、採用する企業にとっては採用したくてもできない状況になることもあります。

・障がい者にとっても働きやすい環境が整えやすい
サテライトオフィスで働くというスタイルは、実は企業だけでなく障がい者にとってもメリットとなることがあります。

例えば、就職や転職などで新しい職場に行くことは、誰にとっても多少緊張するものですが、障がい者の多くの場合、より緊張しやすく、新しい環境に慣れるまでに時間がかかる傾向が見られます。そのため障がい者雇用の知見があり、彼らの特性をどのようにしたら伸ばせるのかについて理解しているスタッフがいることは、障がい者にとっても安心できる要素になります。

また、サテライトオフィスでは、障がい者雇用の経験あるサポートスタッフがいるので、特性に合った仕事に対する取り組み方や社内コミュニケーションなどを実践の場で支援することができます。結果的に、障がい者にとっても働きやすい環境で働けることにつながります。

【サテライトオフィスサービスのデメリット】
・サービス費用がかかる
サテライトオフィスサービスを活用する場合には、サテライトオフィスの使用料として、一定の管理費やオフィスにかかる施設費などの費用を支払う必要があります。

・社内に障がい者雇用のノウハウを蓄積できない
サテライトオフィスサービスの中には、自社の社員を常駐するスタイルをとっているところもありますが、多くの場合、サテライトオフィスにいるメンバーは障がい者社員が中心となります。そのために接する時間が限られ、障がい者雇用に関わるノウハウが社内に蓄積しにくくなります。


どのような方法で障がい者雇用を進めるのかは、それぞれの企業の経営方針や事業運営の考えがありますし、さまざまな要因や状況によって違ってきますので、このようなサービスを利用することの判断は企業によって異なるでしょう。個人的には、中長期的な経営を考えたときに、現段階の障がい者雇用を進める1つの方法として活用することができる、今まで働くことが難しかった障がい者に働く機会をつくるといった点からのメリットもあると感じています。

もちろんサテライトオフィスで雇用しているからといって、 企業が果たすべき雇用責任は何ら変わりません。職場とサテライトオフィス勤務者の勤務地が離れているからこそ、雇用管理や社員とのコミュニケーションを工夫することも必要です。
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