テレワークが一般的になっている今、「産業保健」の方法についても大きく変革が求められています。昨年末から今年にかけ、次々とガイドラインや通達が改定され、もはや「産業保健」の現場よりも「法令の変化」のほうが先をいっている感じすらあります。今回は、厚生労働省(以下、厚労省)の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン 」と、令和3年3月31日に公布された「基発0331第4号 」を中心に、産業医を含む「産業保健」の現状と職務遠隔化について具体的に説明します。
産業医の今後の在り方とは ~変革が進む「産業保健」の遠隔化~

法律改正に伴い、チェックしておきたい「労働安全衛生分野」

筆者もその一員である「日本産業衛生学会」内の研究会「遠隔産業衛生研究会」においては、「空間・時間的距離のある二点を結びつける機器(デバイス、ネットワーク)を活用した産業衛生活動」を『遠隔産業衛生活動』と定義し、その有効性や限界などを研究しています。その活動における重要なガイドラインと通達が、今年3月に相次いで出されたので解説していきましょう。

令和3年3月25日、上記の通り「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(※1)」が公表されました。内容は「労務」や「ハラスメント」、「セキュリティ」等多岐にわたるのですが、労働安全衛生分野においては主に次のようなことが挙げられています。

1.「仕事」と「生活」の区別があいまいとなり、「長時間労働」につながりやすい
実際このことを「ストレスの原因」に挙げる従業員は多くおられます。対策としては、いわゆる「繋がらない権利(時間外のメール等の指示の禁止や社内システムへのアクセス制限等)」や「勤務間インターバル制度」の活用などがあげられています。

2.メンタルヘルス対策
一人で働くことになるため、「コミュニケーション不足からのメンタル不全」が生じやすく、さらに上司が「労働者の心身の変化に気づきにくいこと」が指摘されています。筆者もこのことは実感しており、中々有効な対策は難しいのですが、ガイドラインにはチェックリストが準備され、その活用が勧められています。

3.作業環境整備
「自宅」は、職場と違って働くために作られてはいません。例えばJIS規格を満たしているオフィスは明るさが“750ルックス”ありますが、自宅は“400ルックス”程度です。暗いところでの作業は「眼精疲労」や「肩こり」につながります。また、床に座り、ローテーブルなどで仕事をする方もいますが、これは医学的には非常に腰に悪く、避けるべき作業姿勢とされています。こういった「自宅」での作業環境確認チェックリストが添付されており、筆者から見ても妥当だと思われますので、ぜひ活用をお勧めします。

産業医の新たな体制「職務遠隔化」

一方で、「基発0331第4号(※2)」においては、産業医の職務遠隔化について述べられています。まず事業者に対して、産業医の「どの職務を遠隔化するか」を、衛生委員会等で調査審議を行なったうえで、次の「3つの仕組み」を作るよう書かれています。

1.労働者の健康管理に必要な情報を円滑に提供できる仕組み。例えば遠隔面談で保健指導を行う際、定期健康診断の結果や残業時間等を産業医が見られるようにすることなど。

2.産業医が必要と判断した場合は、実地に産業医が赴いて作業環境等を確認する仕組み。

3.事業所周辺の医療機関との連携を図る仕組み。急に従業員の体調が悪くなった場合受診の手配や情報提供などが必要となります。また事業者は、不正アクセス防止の措置を講じた、「使いやすく送受信が安定しているウェブ環境」を整えることを求められています。

さて、多岐にわたる産業医の職務のうち、この通達で触れられているのは以下の通りです。

1.長時間残業、ストレスチェックの面接指導
2020年11月に改訂された、平成 27 年「基発 0915 第5号」を遵守することとされています。以前はTV会議システムなどで面接指導を行う条件として、過去1年以内にその事業場を巡視したことがある、その従業員に面接指導をしたことがある、等のどれかを満たすことが「必須」でした。それが改訂により「望ましい」に変わりました。

2.作業環境管理・維持管理、職場巡視
産業医は少なくとも月に一度(条件を満たせば2月に一度)職場巡視を行って労働者の健康に有害な環境や作業がないかを見て回り、直ちに必要な措置をとります。この通知においても「定期巡視は実地で行うこと」とされています。ただし、追加巡視として360℃カメラで現場を撮影し、産業医はそれを見ながら気になる点を指摘することなどは、むしろ推奨されているようにも読み取れます。

3.衛生教育
“労災防止”のために、雇い入れ時や作業変更時に必ず実施しなければならない「安全衛生教育」は、法定で内容や時間が決まっている「職長教育」や「技能研修」などもあります。これらを遠隔で行なうことについては、令和3年1月25日通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」に沿うこととされています。

4.労働者の健康障害の原因調査・再発予防
産業医は現場に赴き、「作業環境等を確認する」ことが原則です。ただし、報告書等を確認して「産業医が不要」であると確認した場合は、現場へ赴く必要はないとされました。

5.安全衛生委員会等への参加
「安全衛生委員会等を遠隔で行なうことは可能」と明記されました。これはすでに行なっているところも多いかと思います。テレビ会議システム等だけでなく、メールのみ、チャットのみでの開催も可能です。詳細については令和2年8月27日付の「基発0827第1号」(※3)を参照するよう書かれています。

このように、産業保健における法令が変わり、企業の産業医の在り方も日々変化してきています。リモートワークにおいて、「従業員の安全管理」は簡単なものではありませんが、職務遠隔化により、産業医がすべきことが見えてくる部分も多々あるでしょう。厚生労働省のガイドラインを熟読し、現状業務の可視化や工夫、調整をして快適に「従業員の安全管理」ができるよう見直してみてはいかがでしょうか。

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