このところ、「週休3日制」の議論が活発化してきた。現に、自民党が、「正社員が週休3日制を選択できる制度」の政策提言を目指しているようだ。そこで今回は、その適否は別とし、「週休3日制」が“実行された場合”に起こる影響について考えてみよう。
「週休3日制で働く」ことで、給与や社会保険料などにはどのような影響が出るのか?

「週休3日制」を導入したらどうなる?

「週休3日制」を導入した場合、やはり気になるのは、“給与はどうなるのか”ということではないだろうか。財務的に余裕のある企業は、「週休3日制となっても、給与は変わらない」ということがあるかもしれない。しかし、通常は「ノーワークノーペイ」の原則により、「減額」される恐れがあるだろう。給与が減額されると、社会保険の保険料や、受け取れる「給付制度」にプラス、マイナスの影響が必ず出てくる。「給付制度」の具体的なものとして、「年金」、「傷病手当金」、「出産手当金」、「育児休業給付金」などが挙げられる。

具体的にどう影響があるかを考えてみよう。「社会保険」は、個人ごとに「負担」や「給付制度」が異なるので、ここでは「現在の年齢が40歳、月額給与40万円の労働者が、月額給与32万円(2割減)に減少したケース」を想定して考えていく。

まずは「社会保険」だが、「減額」により本人負担金額が年間約15万円減少する。内訳は、「厚生年金保険料」が10万円、「健康保険料」が5万円である。もちろん、企業負担分も同時に減少することになる。さらに、「労働保険」の雇用保険料も減少するが、これは保険料率が低いため、年間数千円の減少にとどまるくらいだ。

一方、「給付制度」で大きく影響を受けるのは「厚生年金」である。65歳から受給したとして、年間約15万円少なくなってしまうのだ。この減少は非常に大きく、老後の痛手となる。ただ、65歳以降の働き方にもよるが、仮に働いた分の収入+国民年金で生活費用を賄うことができるようであれば、ひと月繰り下げるごとに“0.7%”受給額が増加する「繰り下げ受給」を選択することで減少額をカバーすることが可能である。

さらに、「出産手当金」、「育児休業給付金」、「介護休業給付金」や「傷病手当金」も同様にマイナスの影響を被ることとなる。これらの「給付制度」は、すべての人に支給されるものではないが、対象労働者にとっては大きな減少額となるだろう。また、失業した場合に給付される「雇用保険の基本手当(失業給付)」にも影響が出てくる。以上の給付制度の給付金は、給与額から算定されて支給されるものであり、給与が減少すれば、連動して給付金も減少する仕組みとなっているからである。

このように、給与が下がれば、社会保険料も下がるプラスの影響がある一方で、「社会保険」や「雇用保険」の給付制度の金額が少なくなるというマイナスの影響も受けてしまう。したがって、「週休3日制」を選択する人の中には、副業や兼業で減収分を補おうと考える人も出てくるだろう。そうすれば、企業は副業・兼業を“新たな視点を持った制度”として整備していかなければならない。これに関する国のガイドラインも発出され、その基本的スタンスは副業・兼業を“積極的に許容する方向”に変化している。

現在のところ、副業・兼業に関する企業の方針も様々であるが、以前よりは柔軟に認める方向にシフトしているように感じる。そのため、今後の動きとして、副業・兼業は拡大していくことになるだろう。ただ、社会保険制度の枠組が適用されるので、その仕組を十分に理解しておく必要があるので注意しておきたいところだ。

副業・兼業の場合の「社会保険適用」

副業・兼業に法的な定義があるわけではないが、雇用関係にある労働者が副業をする場合、実務上は大きくわけて2つのケースがある。

<ケース1>
労働者が「フリーランス」の立場となって、副業先から業務委託等を受けて働くケースの場合、副業先と“雇用契約を結ばない”ため、社会保険は本業先の企業だけで加入することになる。従って、「社会保険料」や「給付制度」は、副業先の収入が多額となっても、影響を受けることはない。

<ケース2>
副業先と“雇用契約を結んで働く”場合、副業先との雇用契約の内容によって、副業先でも社会保険に加入すべきか否かが決まってくる。具体的には、以下の加入要件による。

副業先での社会保険の加入要件
1)適用対象の事業所の要件

a.事業主を含む従業員1人以上の企業、国や地方公共団体などの法人
b.常時使用の従業員が5人以上いる、一部の業種を除く個人事業所

2)その他の要件
a.1週間の所定労働時間および1月の所定労働日数が、同じ事業所で同じ業務をおこなっている正社員など一般従業員の4分の3以上
b.上記(1)の要件を満たしていなくても、次の「短時間労働者の要件」すべてに該当する
・週の所定労働時間が20時間以上
・勤務期間1年以上またはその見込みがある
・月額賃金が88,000円以上である
・学生以外である
・従業員501人以上の企業に勤務している


これらの社会保険加入要件に該当した場合は、本業先と副業先の2社で社会保険に加入することになる。社会保険料は2社の給与が合算され、各々の給与の額に案分されて負担することになるので、しっかりと理解しておきたい。

このように「週休3日制」は、プラスの影響ばかりではない。給与の減額により、従業員が副業・兼業をする場合にも、雇用形態によっては注意しておかなければならないため、企業にとっても容易に喜べない現実がある。もし仮に「週休3日制」が実現したら、どのような影響があるのか、自社の規定と合わせ見ながら慎重に行動するべきだろう。

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