大学の就職支援室からみた新卒採用第63回 リモートワーク | 採用、育成・研修、労務・人事に関する情報ならHRプロ

人事にプロのサポートを―新卒採用、中途採用、人材育成、研修、人材マネジメント、労務、人事システム、適性検査ならHRプロ

  • 第3回HRテクノロジー大賞<締切2018.6.14>
大学の就職支援室からみた新卒採用

第63回 リモートワーク

金沢大学 就職支援室長 山本 均
2018/01/31

先日のNHKニュースで福井県の鯖江市のリモートワークの取り組みが紹介されていました。都心に本社がある企業が鯖江市に事務所を借りて事務職を採用し、本社とネットでつないで仕事をするといったスキームです。鯖江市は今こうした取り組みに力を入れ、市内の空き家をリフォームしてワーキングスペースに改装するための支援もしているとのこと。番組では、現在リノベーション中の、託児施設が併設された20名ほどが働けるオフィスづくりの様子を追っていました。
リモートワークと聞くと、都市圏限定の話だろうと思っている方々が多いかもしれませんが、地方でも導入しているところは少なくありません。自分の話で恐縮ですが、私が大学の仕事とダブルワークしている会社(北陸人材ネット)は、昨年からリモートワークを導入しています。これが導入されたきっかけは、ある女性社員が結婚して会社から60キロほど離れたところへ転居することになり、通勤が困難になったからでした。この改善策として、近くのコワーキングスペースで仕事ができるよう、会社が新たな制度を設けたのです。(余談ですが、この制度で総務省の選定するテレワーク先進企業百選に選出されました)。

このようなリモートワークは、さすがに新卒採用では導入されないだろうと思っていましたが、多くの方から話を聞いてみると、インターンシップに限っては、リモートワークを導入している企業がいくらかあるようです。このような状況を見ると、新卒採用であっても最初からリモートワークで採用ということが、もしかしたら近い未来にあり得るかも知れません。

さて、このような都市部の企業が地方に事務所を設ける、というリモートワーク推進の動きは、地方企業にとって、相当の脅威になる可能性が高いと思っています。先述のNHKのニュースでも、この事務職の給与が、福井県内の給与水準を大幅に上回っているという紹介がされていました。

首都圏に本社を構える大手企業から地方の中小企業へ転職すると、30歳前後を例にとった場合、年収は150万から250万くらいダウンします。一般的な転職でこれだけ大幅な給与ダウンを受け入れる転職というのは、あまり考えられないのですが、地方へのU・Iターンにおいては以前から珍しくありません。
給与ダウンのない他のU・Iターンのパターンでいうと、大手企業の地方支社や工場への移動という形もありますが、これはそもそもそこにあいているポジションがないと無理ですし、移った後にその地方支社が縮小して転勤になる、工場が閉鎖する、あるいは売却になる、というケースもあるので、それなりにリスクがあります。また、勤務している会社の拠点(支社や工場)が地方にもなければ不可能である、という問題もあります。

これまで地方企業はU・Iターン転職というスキームで、良質な労働力を安価に確保できていた部分があります。北陸の場合だと20歳台の求職者の人気が高く、20歳台後半がU・Iターン転職の適齢期といわれていました。大手企業で体系的な教育を受け、戦力として活躍する素地をしっかり養ってきた人材を、即戦力に近い形で確保できるという意味では、とてもおいしい人材供給源といえるでしょう。私が在職していた企業では、20歳台後半にU・Iターン転職した人材が今は経営陣になってその企業の成長を引っ張っています。

リモートワークによって都心の企業に所属しながらの地方勤務が可能になると、こうした地方企業へのU・Iターン転職の必要性が薄れてしまいます。さらには、地元の人材も待遇の良い都心企業の方に流れてしまうことにもなりかねません。

実際に、私の身近にこうした事例があります。本学のOBで、都市圏でAIベンチャーを立ち上げた方がいるのですが、その会社のエンジニアの一人が家庭の事情で地方に戻ることになりました。そこで、いっそその故郷に会社を新たに設立してそのまま仕事を続けてもらおうということになったのです。ついでに人材も募集したところ、地元のIT系企業の優秀なエンジニアたちがごっそり転職してきてしまったということでした。

人材の世界では、都市圏と地方はまったく別の構造で動いており、これまではそれぞれが独立したロジックで回っていた部分がありました。しかし、リモートワークの普及が本格化すると、この構造まで崩れてしまう可能性があるということを、改めて再認識した次第です。
  • 1

プロフィール

金沢大学 就職支援室長 山本 均

1962年生、金沢大学法学部卒業後、株式会社ナナオに入社、採用教育に従事、その後株式会社アイオーデータ機器、沖電気工業株式会社にて人事採用業務に従事。2007年10月に帰省し、故郷金沢で人材紹介事業を中心とした人事コンサルティング会社、株式会社北陸人材ネットを設立、代表取締役に就任。2009年4月より金沢大学就職支援室長に就任(兼務)。学生の就職支援業務に従事する傍ら、大学の就業力向上プロジェクトに従事中。

関連リンク

  • 海外進出企業の「人と組織の活性化」〜インドネシアに架ける熱き想い〜

    第4話:緊張感あふれる海外で磨かれる組織マネジメント力

    組織マネジメント関連の書籍は、時代を問わず、いつも売れ筋ランキングの上位に入っており、書店には多くの本が並ぶ。昔からの名著もあれば、いまの時代に合わせた新著もあり、いつの時代もビジネスパーソンにとって、組織をマネジメントすることへの興味関心は高いようだ。

  • 人材育成コラム-プロが教えるコツとポイント-

    せっかく立てた人材育成計画 - 「研修」の取り入れ方で達成までの道のりは変わる

    人材育成計画で掲げた目標を達成するに当たっては、「OJT(On-the-Job Training)」、「OFF-JT(Off-the-Job Training)」、「自己啓発」の3つを継続的に実践していくことが必要です。中でも、多くの企業が注目しているのが「OFF-JT」の1つ、「研修」です。本コラムでは、人材育成計画を効率的に進めていくための研修選びのコツをご紹介します。

  • 94歳現役人事コンサルタント、梅島みよが行く

    第10回 米国でダグラス.W.ブレイ博士と出会う

    この米国訪問は、時期的にも非常に恵まれていました。ちょうどこの頃、米連邦政府の雇用差別撤廃法に各州が批准し、米企業は、特にマイノリティとされる女性社員の活用と管理職への登用推進を始めていました。

  • 特別読み切り

    ハラスメント防止の鍵は思いやり

    総務省の「労働力調査年報」によると、2016年の労働力人口は6,648万人。これに、翌2017年の厚労省による「将来推計人口」の結果を交えて勘案すると、2065年には2016年時点より、労働力人口が、約4割減少する見通しだ。
    労働市場が衰退していく中で、今後必要とされるのは、女性の活躍や、病気や介護者を抱えていても働ける就業環境であろう。多様な人々が、多様な働き方で、幸せに生きていける社会を目指す中、最近、巷で話題となっている、パワハラ・セクハラ事件。こうしたハラスメントは、多様性、生産性はおろか、仕事にも人生にも、何一ついいことはない。その防止対策は、日本社会において重大なテーマである。

  • 人材育成コラム-プロが教えるコツとポイント-

    働き方改革の担い手でもある「管理職」を「成果を出せるリーダー」へ

    明確なビジョンをもってリーダーシップを発揮し、個人ではなく組織として成果を出すことができる人材が管理職のあるべき姿。分かってはいても、なかなか思い通りの人材を確保できないのが実情です。今回は、組織の成果を担う管理職の育成に役立つ「管理職研修」についてご紹介します。

  • 94歳現役人事コンサルタント、梅島みよが行く

    第9回 日本企業の「女子教育」に失望、米国企業視察旅行を企画

    女性講師の有能な働きぶりを見て、機を見るに敏な社長が「ウメさん、女性講師をもっと増員しよう」と言い、早速、募集を始めました。女性教育コンサルタントは、会社での勤務経験や、社会人としての十分な良識が必要です。若過ぎても不相応なので、対象年齢は28歳以上としました。すると思いがけず素晴らしい人達から数多くの応募があり、その中からまず4名を採用し、講師として教育しました。