2015年に閣議決定された「日本再興戦略」において、雇用制度改革・人材力強化のための施策の一つとして織り込まれ、また、2016年度より「キャリア形成促進助成金」の支給対象制度になった「セルフ・キャリアドック」。
中小企業においても導入が進んでいるが、効果的な導入運用方法について考えてみたい。
セルフ・キャリアドック導入の効果的な導入方法(その効用について)(1)

『セルフ・キャリアドック』とは、いったい何なのか?

『セルフ・キャリアドック』について、問い合わせを受けることが増えている。しかし、このセルフ・キャリアドック制度、導入する企業の経営者・人事担当者も、またその制度に従いキャリアコンサルティングをうける従業員も、それがどのような制度か、その制度の導入によってどのような効果があるのか、今ひとつ十分に理解されていないのが実情ではないだろうか。

『セルフ・キャリアドック』とは、「日本再興戦略」において、
「経済社会環境の変化に先手を打って対応していくための労働市場インフラとして、働き手が自らのキャリアについて主体的に考える習慣を身につける環境を整備することが重要である」
とし、

具体的には、
「定期的に自身の職務能力を見直し、今後、どのようなキャリアを歩むべきかを確認した上で、身につけるべき知識・能力・スキルを確認する機会」として、『セルフ・キャリアドック』を整備する、としている。

『セルフ・キャリアドック』は一定の要件を満たして導入すれば、「キャリア形成促進助成金」の助成対象にもなるが、本助成金のパンフレットには次のような導入メリットが記載されている。

(1)労働者の仕事に対する主体性を向上させることが出来る。
・労働者が自らキャリア・プランを考えることにより、主体的に仕事や職業能力開発に取り組もうとする意識を高める事が出来る。 
・労働者が適性や職業能力などへの自己理解を深めることにより、工夫して仕事や能力開発に取り組もうと意識を高めることが出来る。
・労働者がキャリアパスをイメージしやすくなり、仕事のやりがいや向上心を高めることができる。

(2)新規採用職員などの定着支援や、育児休業者などの復帰を円滑に行うことが出来る。
・新規採用職員などにキャリアコンサルティングを実施することにより、キャリア・プランを明確化、具体化し、職場への定着や仕事への意欲を高めることが出来る。 
・育児休業者や介護休業者などにキャリアコンサルティングを実施することにより、職場復帰を円滑に行うことが出来る。

うーん。やはり、今ひとつ分かるようでわかりにくいのである。

『セルフ・キャリアドック』の主な効用を考えてみる。

『セルフ・キャリアドック』の、“ドック”は人間ドックのドック。身体の健康診断と同様に、自身のキャリアの検診を定期的に受ける機会を、会社が整備・提供し、キャリア形成に関する従業員自らの課題認識や、キャリア・プランの作成、見直しを支援する制度である。

ただ、『セルフ・キャリアドック』を導入すると、優秀な人材が社外に流出するのではないか、との危惧をする経営者や人事担当者も多い。確かに、前述の『セルフ・キャリアドック』の趣旨を見ると、そのように受け取ることも出来るだろう。

しかし私見では、『セルフ・キャリアドック』には、次のような効用があると考える。

(1)個人(従業員)と組織(企業)の共生と発展
・個人のキャリアにおけるニーズと組織のニーズの摺り合わせを行い、共生、発展できる。
・個人の意思・意欲を尊重しながら、組織が求める成果に結びつけることができる。
・個人の自律的な意思、意欲を喚起し、その達成が組織の目標達成につながる為の仕掛けとして有効。

(2)キャリアパスの明確化と有効活用
・各組織における「キャリアパス」=「役割等級」と、個人の「キャリア」=「役割」の課題と目標を明確化できる。(→外的キャリアの意識化)
・職能資格制度から、役割や職によるキャリアパス制度へ移行する企業が増えている中、個人と組織の関係性を深く掘り下げるツールとして活用できる。

(3)MBO(目標管理制度)との連携による相乗効果
MBO(目標管理制度)を導入している企業も多いが、MBOにおける「目標」が短期的なプランニングであれば、キャリアは長期的なプランニングである。
同様に、長期的なキャリア・プランが確立していれば、MBOにおける「目標」も、さらに意味のある物になる。(→内的キャリアの充実)


『セルフ・キャリアドック』を担うキャリアコンサルタントも、また、助成金の支給審査を行う労働局の担当者も、『セルフ・キャリアドック』制度の活かし方を吟味できていないように思う。上記の3つの効用については、次回以降に深く考察していきたい。

少し余談になるが、「人材」を「人財」や「人罪」と表現することが良くあるが、いつも違和感がある。もし「人材」を言い換えるならば「人在」が適切では無いだろうか。ただ「人」がここに「在る」だけである。その「人」が「財」を生むのか、「罪」となるのか、それは、周囲の環境にも大きく依存する。
その環境要因として『セルフ・キャリアドック』を活かせないか、と考えるのは、単なる理想に過ぎないのだろうか。
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