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HRサミット2018／HRテクノロジーサミット2018講演録

禅に学ぶ人の育て方

HRサミット2018／HRテクノロジーサミット2018 講演録
公開日：2018/11/19

ジャンル：

人材育成・研修全般人事・労務全般・その他

キーワード：

メンタルヘルス

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HRサミット2018／HRテクノロジーサミット2018 講演録

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　禅僧になるには修行が必要です。最低でも3年、老師になろうと思えば15年から20年はかかります。修行の内容は、まず朝の3時に起き、1時間の経をあげた後に2時間の坐禅を組みます。空が白む頃には畑を耕したり草を刈ったり、薪でご飯を炊いたりします。そしてまた夕方の6時頃から夜中の12時頃まで坐禅を行います。睡眠が1日3時間程度のこの日常を3年以上繰り返します。テレビもラジオも、携帯も新聞もなく、本すら読んではいけません。　大変厳しい修行ですが、その中でも最も厳しい時期は12月の1週間です。12月8日はお釈迦様が悟りを開いた日とされており、その縁にあやかって毎年12月1日から8日まで、私たちも修行道場で一睡もせずに、読経も食事の時間もひたすら坐禅を行います。初日や2日目は何とかなりますが、3日が過ぎるとかなり消耗します。そうするとどうじても眠くなるので、警策（けいさく）という木の棒で叩くのですが、極限状態ですから中途半端に叩いても目を覚ましません。1週間で多い人は4,000回くらいフルスイングで思いきり背中を叩かれます。そんな非常に時代錯誤な修行をいまだに続けています。　個人的な話になりますが、私は中学、高校とキリスト教の学校に通いました。その縁でヨーロッパの修道院に泊まらせていただくこともあり、キリスト教の修行も知っています。修道院でも朝早く起きて祈りを捧げる、そして静かに過ごすところは禅の修行と同じです。しかしヨーロッパの修道院では、歴史や語学などを学ぶ勉強の時間がものすごく多いのに対して、禅の修行は1分も勉強の時間がありません。テキストではなく、ひたすら薪割り、雑巾がけという実践の中から学びを得ることを重視しています。　妙心寺には最近、海外の方も多くお見えになるので、個人的な興味から国別に統計を取ってみました。すると一番多いのはユダヤ人のお客様でした。ジョブズもユダヤ系ですがなぜユダヤ人が多いのでしょうか。これは私の想像ですが、ユダヤ教というのは宗教的に禅の対極にあります。ユダヤ人は迫害されて世界中に散り散りになりながら、イスラエルが建国するまで2,000年以上もユダヤ教徒として自分たちのアイデンティティーを守ってきました。なぜそんなことができたかというと、食事から風俗から祭礼まできちんとしたルールがあり、それを厳格に守る立法主義の宗教だからです。ルールさえ守れば、どの国に暮らしていてもユダヤ人であることができます。しかし禅は逆です。どの国にいようが何年前であろうが、お釈迦様がされたことと同じことをすれば追体験できるかもしれないという、徹底した実践によってつないできた宗教です。ユダヤ教を文系とするなら、禅は完全なる体育会系。対極にあるからこそ、興味関心を惹くのだと想像しました。　仏教の専門用語に「聞思修」という言葉があります。セオリーを聞いて学び（聞）、自分で考え（思）、実践する（修）という、物事の修得の仕方を表したものです。一般的な学びの方法と言えますが、禅は逆なのですね。とりあえずやってみる、という「修」から入ります。最初はわけがわからなくても、数年も経つと自分がしていることの意味を考えるようになります。そして修行が終わってから歴史や理論を学びます。　今の世の中はセオリーファーストです。もちろんそれで上手くいく場合もありますが、そうでない場合も多々あるのではないでしょうか。身近な例でいうと自転車の乗り方です。ハウツー本を読むと乗れるかというとそうではないですね。泳ぎ方もDVDを見ればすぐできるわけではありません。転ぼうが溺れようが、とりあえず乗ってみろ、泳いでみろと教えていきます。そこから自分で工夫して息継ぎなどができるようになり、上達して本当にプロになろうと思ったらセオリーを学びます。とりあえずの実践が大事なのです。　私も大学時代までは完全なセオリーファースト人間でしたから、修行道場に入った時は「なぜこんなことをしなければならないのか」と、すごい反感を抱きました。例えば食事をする時に、ご飯をつぐ係の人は、身体をぐっと前に出してお櫃の上の茶碗に盛るという作法があります。修行に入った当時は、「もっと前に出せ」だの、「指が曲がっている」だの、散々注意されて、「なぜご飯を食べるだけなのに、こんなことをしなければいけないのか」とずっと思っていました。　しかし修行も2、3年経つと、入門したばかりの僧と私たちでは、所作の美しさが明らかに違うのですね。読経ひとつとっても、自然とありがたさが込みあげるような声の出し方になります。今も私が老師様に会いにいくと修行僧がお茶を出してくれるのですが、彼らのふすまの開け閉めやお茶の入れ方、衣の着方を見るだけで、何年くらい修行されているかすぐにわかります。　まずやってみる。恐らく普通の日本人も、昔はこういう学び方をしていたはずです。場合によっては「聞思修」ならぬ「修思聞」も上手くいくことがあると、皆さんの頭の片隅に留めていただければ幸いです。

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