本年3月18日、厚生労働省は全国にある厚生年金基金の約37%にあたる195基金が解散などを検討していると発表した。また、朝日新聞社は4月27日、今年度から来年度にかけて解散を検討している厚生年金基金のうち、特例を使って解散をする方向で調整している基金が74基金に上ると報じている。
厚生年金基金の法律改正から4ヵ月~企業が求められる対応とは

 厚生年金基金に対して「厳しい財務上の存続基準」を適用する改正法が本年4月1日にスタートしてはや4ヵ月。全国にある500余りの厚生年金基金のうちの多くの基金が、国の年金支払いを代わりに行う「厚生年金基金制度」の継続を断念する方向で動き始めている。

 現在運営されている基金の約9割は同業の中小企業等が集まって設立された「総合型」といわれるタイプの基金である。それでは、今後、さらに多くの基金が業務を終了する方向にシフトチェンジした場合、傘下の中小企業にはどのような対応が求められるのであろうか。

 元来、厚生年金基金が業務を終了する場合には、清算をして終了する「解散」という方法か、傘下の企業が揃って新しい企業年金制度を始める「代行返上」という方法かのいずれかを選ぶ必要があった。傘下の企業の足並みが揃わない場合には、清算をして終了する「解散」の道を選ばざるを得なかった。

 ところが、改正法では基金の業務終了後、希望する企業だけが新しい企業年金制度へ移れる道が開かれた。各企業の意向に応じて任意で新制度に移れるので、傘下の中小企業には、新しい企業年金制度へ移るかどうかの意思決定をすることが求められる。もしも、企業側が新制度を設けないことを決定した場合、その後の企業側の対応には十分な注意が必要となる。

 厚生年金基金が支払う年金には、一般的に企業の退職金が一部、含まれている。そのため、基金が業務を終了すると、今まで基金が払っていた年金のうち、退職金相当分も支払いが行われなくなってしまう。この支払われなくなった退職金相当分は、原則として企業側が何らかの方法で補てんをしなければならない。「新しい企業年金制度へ移る」とは、まさしくこの支払われなくなった退職金相当分を補てんすることを意味している。

 通常、企業には退職金規程等が用意されており、そこに退職金の支払いルールが明記されている。もしも、基金の業務終了後、退職金相当分の支払いがなくなることに対して、企業側が新しい企業年金制度への移行をせず、その他の方法による補てんもしない場合、規程どおりの退職金を払わないことに対する「違法性」を問われる可能性が出てくる。

 そのような事態を避けるためには、退職金規程自体を変更し、規程に定める退職金支払額を従前よりも少なくしてしまう方法も考えられる。しかしながら、社員側が不利になるように規程を変更するには、法律上の厳しい要件をクリアしなければならず、企業側の裁量のみで簡単に行うことはできない。そのため、規程を変更した場合には、「規程変更の有効性」が問われる可能性がある。

 いずれの場合も、訴訟リスクを伴う難しい問題となる。したがって、基金の解散に伴う退職金規程等の取り扱いについては、法律の専門家のサポートを受けて実施することが肝要といえる。

 例年、厚生年金基金は9月に代議員会という会を開き、重要事項の決定を行う。そのため、今秋の代議員会で新たに多くの基金が、基金制度の継続を断念する可能性が高い。現在、基金のある会社に勤める人は約408万人おり(平成26年3月末日現在/厚生労働省社会保障審議会第6回企業年金部会資料)、全国のサラリーマン、OLの10人に1人は基金のある会社に在籍している。今後の厚生年金基金の動向は、決して人ごとではない。


コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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