ある日突然、退職代行業者から「〇〇さんが退職します」との連絡が来たらどうしますか? これまで、退職の申出は当事者が行うことが当然と思われていましたが、実際に退職代行業者から連絡を受けた場合、面食らうと同時に感情的になってしまうことで、トラブルに発展してしまうことも少なくありません。ここでは、「従業員から退職代行業者を通じて退職の申出があったときの対応策」についてお話しします。
従業員が「退職代行業者」を使ったとき、“少しでも企業のストレスを軽減させる対処法”とは

そもそも「退職代行業者」を通じた退職の申出は有効なのか?

退職代行業者から従業員の退職の申出があったときに、それをそのまま受け入れていいのか悩むところです。

結論から申し上げると、「退職の意思表示」は従業員からの一方通行であり、企業側が承諾するかどうかを問うものではありません。退職代行業者を通じての退職の申出であったとしても、従業員の意思を反映しているものであれば、その申出は有効であると一般的には解されます。

ただ、退職代行業者が法的に有効であるのは、従業員の退職の意思表示の伝達のみであり、たとえば、年次有給休暇の消化や残業代などの未払賃金の請求などについて交渉をすることは、弁護士でない限り非弁行為となり違法となります。したがって、もし退職代行業者が退職に関する交渉をしてきた場合は、弁護士としての交渉なのかを確認するようにし、弁護士資格がないとのことであれば、本人から連絡するよう伝えてもらうようにしましょう。

退職が「本人の意思」なのか確認を取る

次に、退職代行業者による退職の申出が、従業員の本意なのかどうかを確認することが重要です。可能性としては極めて稀であると思われますが、従業員本人ではない第三者が退職代行業者を通じて退職の申出をしていないかどうかのリスクを排除する必要があります。

したがって、連絡してきた退職代行業者には、従業員が代行を依頼したことを確認できる委任状や契約書等を提示してもらうようにして従業員本人の依頼かどうか確認を行います。

意思確認が取れたら正式に退職手続きに入るわけですが、退職届を提出してもらうようにしましょう。退職の申出は、口頭でも成立しますが、後々のトラブルを防止するために、退職日、退職理由、本人の署名を記載した退職届があると安心です(退職日を確定させることにより、雇用保険や社会保険の資格喪失の手続きがスムーズになります)。

ちなみに、退職届のフォーマットを企業側が整備していることも多いですが、所定のフォーマットでなければならない、という法的根拠はありませんので、フォーマットに固執することなく退職手続きを進行させることをお勧めします。

また、就業規則や雇用契約書等で、たとえば「退職する場合は1ヵ月前までに申し出ること」といったことを規定していることも多いですが、期間の定めのない雇用の場合、「民法」第627条では“2週間前に申し出ること”で足りることとしていますので、2週間後の退職の申出に対して規定違反を問うことは難しいです。そのため、年次有給休暇の取得や最終出勤日等の確認を行い、退職手続きをスムーズに進める方が企業側にとっても不要な手間を避けることにつながります。

「退職日までに必要な手続き」と企業側が取るべき対応策とは

退職日等が確定したら、以下の3点の手続きを進めましょう。

(1)業務の引き継ぎ

従業員が退職代行業者を利用したということは、その従業員が出社をしてくる可能性はほとんどないと考えられます。ですが、業務の引き継ぎを円滑に進めるよう、メールや電話などで業務の引き継ぎを行うよう、退職代行業者を通じて依頼をすることになります。

ただし、業務の引き継ぎを強制することはできませんし、仮に企業側が強い態度に出たとしても、先方から拒否される可能性が高くなるだけだと思われます。したがって、今後の対策としては、従業員の急な退職にも対応できるよう、業務マニュアルを整備することで、業務の属人化を防ぐようにすることでしょう。

(2)制服等の貸与物の回収

企業が貸与しているパソコンやスマートフォン、鍵などの貸与物については、宅配便の着払い伝票を貸与リストと一緒に送ることをお勧めします。本来であれば、従業員側が送料を負担するべきなのでしょうが、送料負担を嫌っていつまで経っても貸与物が回収できない方が企業にとって負担となります。ここは冷静に対処するようにしたいところです。

(3)離職票の発行など公的手続き

雇用保険や社会保険の資格喪失手続きを行います。退職者が雇用保険の離職票の発行を急かしてくることも想定して速やかに手続きを行うようにし、不要なやり取りを防ぐことで企業の負担を減らすようにしましょう。

また、給料の支払や源泉徴収票の発行などのお金についての手続きもトラブルに発展しやすいため、慎重かつ正確に処理を進めるようにすることをお勧めします。



いかがでしょうか。退職代行業者を通じた退職手続きは、本人と直接連絡を取ることが難しいケースが多いため、通常の退職手続きに比べて労力がかかることが多いです。

ですが、従業員が退職代行業者を利用するということは、企業側に対して何らかの不信感があった結果であると考えた方が建設的です。つまり、従業員が何を考えているのか、何に悩んでいるのかを普段から知っておくよう努めることで、従業員が退職に踏み切る前に対処をすることが可能になります。

そのために、定期的な面談やパワハラ等を防止するための取組などの実施のよって、より快適な職場環境の構築を推進していきたいものです。
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