厚生労働省では「公正採用選考特設サイト公正な採用選考を目指して(以下、厚労省サイト)」を設置し、「就職差別」の防止に向けた取り組みを推進しています。なぜ、採用場面で人権尊重の必要性が問われているのか、そして、採用業務に関わる担当者が人権尊重への理解を深める必要性があるのかを解説します。
【採用と人権】なぜ採用業務に関わる担当者が「人権尊重」への理解を深めることが必要性なのか

採用で “就職差別” を生まないために~「人権尊重」の観点から採用の自由に向き合う~

憲法22条では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」として、『職業選択の自由』が認められています。一方で、会社としては経営を維持するためにも、そして雇用している従業員の生活を保障するためにも、誰でも採用しなければならないわけではありません。どのような人を採用するかは、会社の裁量です。それが『採用の自由』となります。

しかし、会社が必要な人材を確保したいがために、『採用の自由』というものを法的視点ではなく、都合の良いように解釈をしてしまうと、「応募者の思想や家庭環境など、能力や適性以外の要素で選考する」などの『就職差別』が生まれるおそれがあります。

厚労省サイトでは、公正な採用選考を行う基本として、以下の2つを挙げています。

●応募者に広く門戸を開くこと
●本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とすること


この2つの基本を柱とし、採用業務に関わる担当者は「採用の自由」に人権尊重の観点から向き合うことが必要となります。

「人権尊重」の観点から~採用を俯瞰的・客観的に捉える必要性~

採用業務に関わる担当者といっても、会社の規模や仕組みなどによって役割は異なります。例えば「採用担当者」という職名でも、採用の決定権限を持っている場合もあれば、事務的な部分を担当し、その権限は会社の上層部が持っている場合もあります。

採用の決定権限を持つ持たないに関わらず、採用業務に関わる担当者は「人権尊重」への理解を深める必要性がありますが、大事なことは「どの場面で人権尊重への理解を業務に反映させるか」ということです。例えば、応募業務の担当者であれば「人権尊重に配慮した応募用紙を作成する」など、面接担当者であれば「就職差別につながるような質問はしない」などです。

そして、特に大事な役割として「採用の決定権限を持っている役割」に対して、『人権尊重の観点から、採用を俯瞰的・客観的に捉える役割』がいるかということです。言い換えれば「採用の決定権限を持っている会社の上層部など」に対して、「人権尊重の観点から助言などを行うオブザーバー的な役割」がいるかということです。

採用を決定することは、会社の命運を左右する、とても重大な役割です。その重大な役割を担っているからこそ、人権尊重への理解を深めていたとしても、「どうしても必要な人物を採用したい」という思いから、十分な配慮まで行き届かないことも考えられます。採用の権限を持っている役割とは別に、俯瞰的・客観的に捉える役割がいることで、常に人権尊重の観点から採用を考え、適切な助言・対応などへとつなげていくことができるのです。

厚生労働省「公正採用選考人権啓発推進員制度」の活用

厚生労働省では、雇用主が “同和問題などの人権問題について、正しい理解と認識のもとに公正な採用選考を行うこと” を目的に、以下のような「公正採用選考人権啓発推進員制度」を推進しています。

~厚生労働省「公正採用選考人権啓発推進員制度」~
※厚生労働省「公正採用選考特設サイト公正な採用選考を目指して」より

【公正採用選考人権啓発推進員の役割】
●「公正採用選考人権啓発推進員」は、就職の機会均等を確保する観点に立って、各事業所内で公正な採用選考システムの確立を図る役割とともに、ハローワークや労働局との連携窓口としての役割を担います。
●具体的には、各事業所内で行われる労働者の採用選考が公正なものとなるよう、事業所内での事務的な責任者(旗振り役)としての役割を担います。
●この役割を果たしていただくために、「公正採用選考人権啓発推進員」には、ハローワークや労働局が定期的に開催する研修会等を通じて、公正採用選考や人権問題等に関する正しい理解と認識を深めていただいております。

【公正採用選考人権啓発推進員の選任】
●公正採用選考人権啓発推進員は、常時使用する従業員数が一定規模以上の事業所において、人事担当責任者など採用選考に関する事項について相当の権限を有する方の中から選任していただきます。
●推進員を新たに選任したり選任替えをした場合などは、ハローワークにお知らせください。(その具体的方法については各ハローワークからお伝えします。)
●職業紹介事業者及び派遣元事業主は、雇用主としての側面にとどまらず、労働力需給システムの一翼としての社会的責任の重要性にかんがみ、従業員規模にかかわらず選任いただくようお願いします。

このような「公正採用選考人権啓発推進員」が社内に存在することを、社内・社外に伝えるだけでも「人権尊重」を大切にする会社として大きなPRにもなります。そして、ただPRをすることが目的ではなく、会社に関わるすべての場面において「人権尊重」へつながっていくことが本来の目的であり、採用こそが目的達成のための重要な場面となるのです。
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