障がい者雇用において、事業主には合理的配慮の提供義務が求められており、障がい者が職場で働く際に何らかの支障がある場合には、それを改善するための措置を講ずることが必要です。しかし、「合理的配慮」と言っても、障がいの内容によって特性や症状が異なるため、どのような配慮が必要なのかは状況によって変わります。そこで、「ケース別配慮のポイント」と題して、7回にわたって障がいの種類ごとにどのような配慮が適切かを紹介します。最終回の今回は、近年メディアで取り上げられることも増え、社会的認知が広がっている「発達障がい」の特性および職場でできる配慮や接し方のポイントについて見ていきます。
「発達障がい」の特徴と職場でできる配慮とは?

「発達障がい」は、どのような障がいか

発達障がいは、生まれつきの脳機能の発達の偏りにより、行動面や情緒面に特徴がある状態を指します。得意と不得意との差が大きく、コミュニケーションが苦手な人も多いことから、学校や職場などの社会生活において困難を抱えやすく、周囲から「マイペースすぎる」、「困った人」、「わがまま」などといった印象をもたれてしまうこともあります。特性に応じて環境の調整ができており、周囲との関わりが良好である場合は困難が軽減されますが、適切なサポートがされず、特性と環境のミスマッチが生じると、当事者はストレスから精神疾患などの二次障がいを併発することがあります。

発達障がいの分類のうち、代表的なものとして「自閉スペクトラム症(ASD)」、「注意欠陥多動性障がい/注意欠如・多動症(ADHD)」、「学習障がい(LD)」があります。それぞれの特徴や特性について見ていきましょう。

●自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症は、「広汎性発達障がい」、「自閉症」、「アスペルガー症候群」などの名称が統合された診断名です。Autism Spectrum Disorderの頭文字をとって「ASD」と呼ばれます。

社会的コミュニケーションや対人関係において障がいが認められることが多く、相互的なやりとりや、相手の気持ちを読み取ること、場や雰囲気に応じた言動などが苦手です。また、特定のことに強い興味やこだわりを示すことがあり、それらに対して高い集中力を発揮します。音や光、においなどに対する感覚過敏あるいは感覚鈍麻など、感覚の問題が見られる場合もあります。

●注意欠陥多動性障がい/注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠陥多動性障がい/注意欠如・多動症(ADHD)の主な特徴は「不注意」と「衝動性」であり、落ち着きがない、じっとしていられない、思いつくと行動してしまう、集中力が続かない……といった特性が見られます。これらのうち、いずれかの特性が強い場合もあれば、全体的に見られる場合もあり、症状は個人によって異なります。

注意欠陥多動性障がい/注意欠如・多動症(ADHD)の人は、「計画的に物事を進められない」、「ケアレスミスが多い」、「期限や約束が守れない」などの傾向がありますが、症状への対策をとり環境や人間関係に適応している場合、「いろいろなことに関心を持ち、積極的に行動する」と評価されることもあります。

●学習障がい(LD)
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど、特定の学習分野において障がいがある状態です。苦手な分野に応じて補助機器を活用するなど、工夫すると困難を軽減しやすくなります。
発達障害とは(出典:国立障害者リハビリテーションセンター)

出典:国立障害者リハビリテーションセンター

発達障がいは、障がいごとの特徴がそれぞれ少しずつ重なり合っているケースも多く、どの分類に該当するのかを明確に診断することは難しいと言われています。また、年齢や環境によって症状が変わることもありますし、時期によって診断内容が異なることもあります。障がいの名称だけで判断するのではなく、当事者には実際にどのような特性や困りごとがあるのかを把握することが大切です。

「発達障がい」への配慮のポイント

【募集・採用のときにできる配慮】

●面接・採用試験における「試験時間の延長」や「質問内容の文書化」など
発達障がいのある方は、対人コミュニケーションや集中力の維持、また文章の読み書き・計算など特定の課題において困難を抱えていることがあります。そのため、面接・採用試験においては、当事者の症状に応じて、「口頭での面接を文字によるやりとりに変える」、「試験時間を延長する」などの配慮を行っている事例があります。他にも、質問の表現をわかりやすくする、質問を印刷して紙で見られるようにするなどの配慮ができます。

最近では、大学入試でも発達障がいに配慮した対応がとられています。入学試験における困難の例としては、「試験中に答えを口に出してしまう」、「試験問題を読むのに時間がかかる」、「解答を書くのに時間がかかる」、「マークシートをうまく塗りつぶせない」などがあげられます。

ある大学では、受験生の保護者から、「試験中に独り言のように答えを言ってしまうので別室で受験したい」、「人が多いところでは周囲の目が気になり落ち着いて試験を受けられないので、別室で受験したい」という相談があり、いずれも許可されています。このように、入学試験における別室受験は、発達障がいのある受験生に対する一つの配慮として実施されています。また、大学入試センターが実施している「センター試験」では、発達障がいのある受験生に対して、試験時間を1.3倍に延長するという配慮をとっています。

【採用後にできる配慮】

●コミュニケーションの方法や時間をあらかじめ設定しておく
当事者がコミュニケーションに困難を抱えている場合、周囲が「何か困ったら相談してください」と声をかけていても、当事者から相談することは難しい場合があります。そのため、当事者からの質問や確認がしやすい環境づくりに加え、当事者が困ったり、悩んだりしていないかを把握できるような仕組みを設定しておくとよいでしょう。

方法としては、「1日の仕事を振り返る日誌を設ける」、「当事者に自分の気分や気持ち、困りごとがあるかなどについて選択式で回答してもらう」などが考えられます。当事者に困難が生じていないかどうか、定期的に確認しておくと、早めに対策をとることができます。

ある担当者は、当事者から質問があったことに関して、話し合いで解決できたと思っていましたが、当事者の日誌には、「解決できておらず困っている」という内容が書かれていました。そのため、困りごとやその対応について、面談で再度確認するようにしたそうです。発達障がいの方は、認知が独特である場合がありますので、文章などでお互いの認識を再確認するようにしておくと、食い違いを減らすことができます。

●感覚過敏対策としてサングラスや耳栓の使用を認める
発達障がいの方の中には、音や光、においなどに対して過剰に敏感であるなど、感覚に問題を持っている方がいます。このような感覚過敏の方に対しては、その障がい特性に応じた配慮を行っている事例があります。

例えば、当事者に「音」への感覚過敏がある場合には、「静かなところで作業してもらう」、「耳栓を付与する」、「ヘッドフォンの着用を認める」、「当事者の机に電話を置かない」などの配慮が可能です。「光」への感覚過敏の場合には、「職場の蛍光灯の数を減らす」、「当事者にサングラスの着用を認める」などの配慮事例があります。「におい」への感覚過敏に対しては、「マスクの着用や芳香剤の使用を認める」などの事例が、また「温度」への感覚過敏に対しては、「当事者専用のスポットクーラーを設置した」などの事例があります。感覚過敏の程度は個人差が大きく、どのような配慮が必要なのかは個別で異なりますので、当事者が希望している内容を確認することが大切です。

●当事者が仕事に集中できる環境を整える
発達障がいの特性として、気が散りやすく、集中力が途切れてしまう傾向の強い人がいます。このような特性がある人には、落ち着いて作業できるようにするための配慮ができます。

例えば、当事者が「人の視線があると集中しにくい」という場合、「当事者の机の前後左右についたてを設置する」、「作業机をついたてで仕切って個人の作業スペースを確保する」、「当事者と他者との直接的な関わりをできるだけ少なくし、静かな作業環境を作れるようにする」などの対応をしている職場があります。

●その他の配慮
発達障がいの方は、得意な分野と苦手な分野で大きなギャップがあることが珍しくありません。当事者が特定の分野において秀でていると、他のことにおいても「この程度のことは当然できるだろう」と考えてしまいがちですが、できることとできないことの差が大きい場合は多いです。

また、発達障がいは外見からはわかりにくく、当事者の中には学力が高い人もいます。そのため、できないことや苦手なことがあると、「怠けているのではないか、努力が足りないのではないか」と誤解されることもよくあります。したがって、当事者のプライバシーに配慮した上で、当事者の障がいの内容や苦手なこと、必要な配慮などを一緒に働く人たちへ説明しておくと、職場での理解を得やすいでしょう。

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