近年、障がい者雇用が企業の中で進んでおり、障がい者と一緒に働く社員が増えています。しかし、現場の社員が障がい者と一緒に働くことに課題を感じ、その悩みを一人で抱え込んでしまっているケースもよく見かけます。人事部が障がい者を現場に配属するときに、一緒に働く人どのようなサポートを行なうとよいのか、またマネジメントに必要な1on1(個別面談)についてお伝えしていきます。
人事ができる障がい者雇用の職場定着支援とは? 1on1の必要性と有効な進め方

人事部は障がい者と一緒に働く人をどのようにサポートできるのか

多くの企業で障がい者雇用が進められていますが、現場や一緒に働く社員からは、実務をうまく進められずに不満の声が上がることは少なくありません。障がい者社員が思ったように仕事ができない、ミスが多い、注意しても聞かない、仕事の負担が増えて自分の仕事ができないなどの声は、よく聞かれることです。

その一方で、一緒に働く社員の多くは、「会社が障がい者雇用を行う必要性」を理解していることがほとんどです。それでも現実的に悩んでいる状況が続くのであれば、障がい者と一緒に働く社員のパフォーマンスやメンタルに直接的な影響が及ぶこともあります。このような状況を避けるために、人事部では、現場を把握し対応することが求められます。よくあげられる課題は、次のような点です。

・障がい者社員の「仕事に対する考え」が甘い
「障がい者だから、周りのみんながやさしくしてくれるものだ、助けてくれて当然」と障がい者社員が考えており、その負担が現場で一緒に働く社員にかかっている。当事者に仕事に対する責任感が見られないにも関わらず、本人からの要求は多く、その対応に追われる。業務内容や態度を注意しても改善が見られない。

・体調管理ができず、欠席や遅刻が多い
障がい者社員が自らの体調などの把握や管理ができず、体調不良等で欠席や遅刻などが目立つ。仕事そのものはできても、勤務時間内にそれを維持するのが難しく、一定の時間などを超えると、仕事の効率や速度が大幅に落ちる。休憩するように声掛けしても、「大丈夫です」と頑張っているが、突然遅刻や早退、無断欠勤するので、それをフォローするのに周囲が振り回される。周りが常に気をつかって「休憩したら」と声がけする必要がある。

これらのような状況が続くと、障がい者社員と一緒に働く社員が疲弊してしまいます。自社の障がい者雇用の取り組み方を組織の方針として示し、現場の社員に伝えていくことが必要です。また、障がい者雇用の中で合理的配慮は求められていますが、職場は学校でも福祉施設でもありません。「働く」という前提のもとに、障がい配慮を行なうことが求められており、そのバランスについては現場と人事部の間で情報交換をしながら、適切な形でサポートしていくことが必要です。

障がい者雇用は、採用して終わりではなく、採用してからがスタートです。障がい者社員が職場定着して、スムーズに仕事を進めていくためには、職場で障がい者社員を適切にマネジメントしていくことが大きなポイントになります。障がい者社員を知り、理解する上で、助けになる一つの方法が個別面談です。職場定着にも効果的で、よく取り組まれている個別面談のポイントについてみていきます。

障がい者の職場定着に求められる1on1とは?

障がい者社員の職場定着に1on1(個別面談)が必要とはいっても、ただ話せばよいというものではありません。1on1の目的や方法と、カウンセリングとの違いから大切な点を見ていきます。

1on1とは、マネジメントやビジネスの分野で、上司と部下、またはマネージャーとチームメンバーなどの個人間で行われる1対1の個別面談のことを指します。この個別面談は、従業員のパフォーマンスやキャリア目標、課題や問題点、フィードバックなどを話し合うために用いられるものです。一般的には、定期的な面談のスケジュールが設けられ、上司と部下の双方が面談のための準備をして臨みます。障がい者雇用の場でも、1on1を活用することができます。

障がい者雇用の個別面談はよく推奨されていますが、単に障がい者社員の個人的な話を聞いて終わりにしてしまっているケースも見られます。もちろん仕事をする上で必要な情報を得ることは重要ですが、勤務時間中に行なう個別面談は、コミュニケーションを取ることや雑談に終始しないように気をつけるべきです。

1on1は、従業員と上司のコミュニケーションをより密にし、チーム全体のパフォーマンスを向上させるのに役立つ手法として知られています。主に上司と部下の間で、部下のパフォーマンスや課題、目標達成に向けた支援のために行われるものです。 上司が従業員にフィードバックを行い、アドバイスを与えることが主な内容となります。

1on1の目的は、部下のパフォーマンスの向上や目標達成に重点をおきながら、組織の目標や方針に沿った意思決定を進めることです。部下とのコミュニケーションを深め、意見や気持ちを理解することで、生産性やモチベーションの向上につなげていきます。また、それぞれのキャリアや成長について話し合うことで、部下の自己成長を促します。

障がい者雇用においては、社内で専門職を配置して、障がい者社員にカウンセリングを行うことがあります。しかし、職場のマネジメントとして行うのは1on1であり、カウンセリングとは別のものとして扱うことが大切です。カウンセリングは、専門的なカウンセラーがクライアント(相談者)との対話を通じて、クライアントの心理的な問題やストレス、トラウマなどについての支援をすることを目的とします。また、クライアントの気持ちや思考を深く理解することが重要であり、問題解決のためのアドバイスや解決策を提供することはありません。プライバシーや個人情報の保護が重要な要素であり、一定の法律的規制がある場合があります。

一方、1on1は職場内で行われる会話であり、業務上の情報共有が主な目的であるため、法律的な規制は一般的にありません。1on1とカウンセリングは目的や内容が異なるため、それぞれの場面で適切に活用することが重要です。「職場での業務上の課題や目標に関する相談」には1on1、「個人的な心理的な問題やストレス」にはカウンセリングを活用するとよいでしょう。この点は、職場で一緒に働くマネジメントする人に明確に伝えておくことが求められます。

それでは、1on1の進め方を見ていきましょう。

(1)目的の共有
1on1を開始する前に、上司と部下が共通の目的や議題について合意することが大切です。目的や議題が明確であれば、1on1の効果的な進め方を設計することができます。

(2)準備
上司と部下の双方が、1on1の前に事前準備を行うことが重要です。準備は、議題の整理、目標設定、フィードバックの考慮などを含みます。これにより、1on1が有益で生産的なものになります。

(3)コミュニケーション
1on1はコミュニケーションの場であるため、両者がオープンに話し合い、相手の意見を理解することが重要です。双方がコミュニケーションを深め、問題点や課題を共有し、解決策を見つけることが目的となります。

(4)フィードバック
1on1はフィードバックの機会でもあります。上司は、従業員のパフォーマンスや成長のために適切なフィードバックを提供する必要があります。ただし、フィードバックは具体的であり、改善策や次のステップについての具体的な提案を伴うことが重要です。

(5)アクションプランをたてる
1on1の最後には、双方が合意した今後のアクションプランを策定することが必要です。アクションプランは、議題や目的に基づいて、具体的なアクションや期限を設定することが望ましいです。アクションプランを策定することで、従業員は自己成長のための具体的なステップを踏むことができます。

障がい者雇用においても、一般的なマネジメントにおける1on1と進め方は変わりません。しかし、対象が障がい者であることを考慮した配慮を示すことができます。例えば、知的障がいの場合には、わかりやすい言葉や表現を心がけるとスムーズです。発達障がいで、情報の入手の方法に偏りがある場合には、当事者が理解しやすい方法で行うとよいでしょう。例えば、視覚からの情報が優位な場合には、質問項目などは文字等で示すことが有効です。精神障がいで緊張しやすいのであれば、事前に今後の1on1のスケジュールを知らせておくこともできます。障がいの特性により延々と自分のことを話す場合には、1on1の目的と時間を明確に示しておくことも必要です。

「障がい者雇用だから」と配慮しすぎることや、適切なマネジメントができない、必要な情報を伝えないということが積み重なると、現場の他の社員たちに負担がかかり、結果的に障がい者社員の職場定着につながりません。障がい者雇用を定着させるためには、人事部が中心となって、現場を支えていくサポート体制や具体的な方法を示していくことが大切です。

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