障がい者採用というと、ハローワークや障がい者支援機関を思い浮かべることが多いようです。しかし、障がい者雇用の新卒採用は、特別支援学校高等部や大学から学生を採用することができます。本稿では、新卒の障がい者の就職状況や、特別支援学校高等部で行っている職業教育や訓練について、また障がいのある学生たちが大学で受けているサポートなどについて見ていきます。あわせて、障がい者雇用の新卒採用のポイントについて解説していきます。
障がい者雇用の新卒採用の方法とポイントとは? 特別支援学校高等部や大学からの障がい者採用について解説

就労支援機関以外からの障がい者採用とは

障がい者の採用では、ハローワークや就労移行支援事業所からの採用を考える企業が多くみられます。もちろんこのような機関を活用することもできますが、企業として新卒を採用したいという場合もあるでしょう。その場合には、障がい者雇用でも新卒採用を行うことができます。障がい者の新卒採用では、特別支援学校高等部や大学からの採用があります。

特別支援学校高等部を卒業して就職する割合は全体で31.2%となっており、その中でも人数的には知的障がい者の採用が多くなっています。障がい種別ごとに見ると、高等部卒業後に就職する割合が高いのは、聴覚障がい(39%)、知的障がい(34%)です。

特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況(平成30年3月卒業者)

特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況(平成30年3月卒業者)

出典:「学校基本統計」(文部科学省)

また、大学を卒業して就職する割合は全体で49.7%となっており、その中でも人数的には精神障がい、病弱・虚弱、発達障がいが多くなっています。障がい種別ごとに見ると、大学卒業後に就職する割合が高いのは、聴覚・言語障がい(62.8%)、病弱・虚弱(60.6%)、肢体不自由(57.2%)です。

進路状況(学校種別・障害種別)

進路状況 (学校種別・障害種別)

出典:令和3年度大学、短期大学及び高等専門学校における障がいのある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書(独立行政法人日本学生支援機構)

特別支援学校からの採用

特別支援学校の生徒というと、「障がいが重く、就職できる人はいないのでは……」とイメージされる方もいますが、特別支援学校といっても、いろいろな障がい種別の学校があります。また、特に知的障がい対象の特別支援学校では、就労に向けた職場実習や、就労をイメージした学習が実施されています。

特別支援学校の高等部では、一般的な普通教科の他に、職業に関する専門的な学習や実習を通して実践で学ぶ場が準備されています。高等学校卒業時に就労を目指す生徒も多く、学校によってコース等は異なりますが、流通・サービスや福祉などの実践的な学びから、就労に必要な知識や技能を身に付けることができます。また、各コースの実務家講師から学べる学校もあります。学校によって設置されているコース等は異なりますが、例として以下のような内容を学んでいます。

・ビルクリーニングコース
清掃の掃く、拭く、磨くなどの清掃の基本や、日常清掃、ポリッシャーなどの専門の機械による定期清掃ができるように学びます。

・ロジスティックコース
包装、流通加工を中心に、商品の入出荷およびメール、仕分け業の基本などを行います。

・事務、情報処理コース
事務やパソコンの基本を学びます。書類作成、印刷機や事務用品の基本的な使い方を身に着けます。また、パソコンの基本的な使い方やソフトの活用方法を学びます。

・食品、喫茶、パン作りなど
厨房における食器洗浄、食材の下処理や調理、カフェでのドリンク作り、接客などの基本を学習します。校内に外部向けのカフェやレストラン、パン屋等を併設しているところでは、開店準備から営業までの店舗運営について学んだり、実際に外部のお客さんの接客を行ったりすることもあります。

・福祉、介護
介護業務の基本的な知識と技能を学びます。関連する間接業務や接遇マナー、近隣のデイサービスや介護施設等で実習を行います。

・農業、園芸
農業や園芸の基本的な知識や、野菜や花の栽培、収穫等に関する知識と技術の習得を目指します。屋外での作業とともに、種まきや苗の植え替え、ドライフラワーアレンジメントなどの屋内でできる作業も行っています。

特別支援学校からの採用は職場実習を通して行います。多くの特別支援学校では職場実習(インターン)を春、秋頃に実施します。地域や学校にもよりますが、高等部2年生から実習が行われている場合もあり、高等部3年では実習した企業にそのまま内定するケースも多くあります。採用を前提とした職場実習を行いたいときには、早めに特別支援学校の進路担当の教員と連絡をとることをおすすめします。

大学からの障がい者採用

大学新卒採用は、学生が大学生活を送り卒業することが前提となるため、コミュニケーション能力がある人材を採用しやすく、組織に合わせた人材育成をしやすいといえます。また、一般的な障がい者雇用よりも、ある程度の学力や専門知識を備えている人材を採用できる可能性が高く、長期的な視点で企業の成長をけん引するコア人材として期待ができること、内定から入社まで時間があるため受け入れ態勢が整えられることなどのメリットもあります。

一方で、学生生活を送ってきたため通勤や職場環境に対応できる可能性が高いものの、障がいに関わる課題がどのようなときに現れやすいのかなどが事前に分かりにくいこともあります。そのため、実習(インターンシップ)を一定期間、できれば2週間以上行うのが理想です。学生にとっては職場の雰囲気や環境が合っているかわかりますし、企業にとっては本人の能力や必要な配慮が事前にわかるため、採用前の準備がしやすくなります。

障がい者雇用をする企業では、「合理的配慮」を示す義務がありますが、大学でも障がいに合わせた合理的配慮を示しています。大学でどのような配慮を受けていたのかを確認し、組織として対応できることなのかどうかを判断することで、受け入れ態勢を整えることができます。例えば、発達障がいの学生(診断書有、診断書無・配慮有)が在籍する学校で配慮されている支援内容としては、次のようなものが上げられます。
発達障害学生に配慮されている支援内容例

出典:令和3年度大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書(独立行政法人日本学生支援機構)

合理的配慮については、人事担当者が障がいについて当事者に聞くのを遠慮してしまうケースがありますが、それでは入社前に十分なすり合わせができず、後々双方の負担を増やしてしまうことがあります。そのため、率直にコミュニケーションを図ることが大切です。

また、発達障がいなど、見た目でわからない障がいであればあるほど、一緒に働く社員が障がいを認識しづらい場合があります。どのような特性があって、どのような対応があると仕事がしやすいのかなどを、事前に配属先に共有しておくと、理解してもらいやすくなるでしょう。

新卒の障がい者採用では、合同面接会や人材紹介会社を活用することもできます。企業がどのようなことを求めているのかを本人が理解できる方法で伝えることは、会社が求める人材を採用するために重要です。しかし、障がい特性によって、伝わりにくかったり、違うとらえ方をしていたりする場合もありますので、時には繰り返し伝えることや、伝えたことを本人の口から話してもらうことが有効になります。

また、障がい者の就労を支援する公的な機関もたくさんあります。採用後、従業員に個人的な課題が出てきて、組織として対応することが難しい場合に適切な支援機関を利用できるよう、どのような機関があるのかを知り、コンタクトをとれるようにしておくと良いでしょう。

  • 1

この記事にリアクションをお願いします!