障がい者の「職場実習」メリットとデメリット
採用後のミスマッチは、人事にとって永遠の課題でしょう。働き始めてから、書類選考や面接だけではわからなかったことが見えてきて、「考えていた人材と違う……」と感じることも少なくありません。それは、障がい者雇用においても同様です。そんな状況を回避するために活用したいのが、採用前の職場実習(企業実習)です。企業にとっては、事前に働く様子を見て人材を判断できますし、求職者側も業務内容や社内の雰囲気、状況などを事前に把握することが可能です。ここでは障がい者の職場実習について、概要と準備、また実施することによるメリットやデメリットについて紹介します。

障がい者の「職場実習」実施にむけた準備

障がい者の職場実習受け入れに関しては、社外と社内の準備を進めていく必要があります。具体的に見ていきましょう。

社内では、「障がい者雇用を進める」こと、そのための準備として「企業実習を受け入れる」ことを事前に周知しておきましょう。また、実習生(求職者)にどのような仕事をしてもらうのか業務内容とともに、実習期間中一緒に働く担当者を決めます。原則、実習担当者は、業務内容について質問があったときに、的確に回答できることが求められます。普段当該業務を行っている人や業務内容に精通している人をアサインするとよいでしょう。

次に、実習生の1日のスケジュールを作成します。例えば、午前、午後にどこの場所で、どんな業務をするのか、といった具合です。実習初日は、業務内容や社内ルールの説明などがあるため、スケジュールに少し余裕を持たせます。

また、実習が進むと業務の習熟により、想定よりも早く終わることがあります。このような場合に、手が空かないようプラスして任せる業務も用意しておきましょう。

一方、実習生の立場からすると、仕事を早くこなすことで能力が高いと認められ、就職につながると考えがちです。そのために「業務を早く終わらなければ・・・」と頑張って業務をこなすケースがよくあります。中には、担当者がプラスして任せる業務をつくるのに苦労したという実習先がありました。このような状況を避けるためには、スケジュールを作成して時間の目安を示します。さらに、「この業務は急いでいない業務です。ていねいにおこなってください」と伝え、時間をいっぱいまで使うよう指導するのも効果的です。

社外の準備では、障がい者の訓練機関や特別支援学校、就労支援機関などと連絡調整する必要があります。これら団体に、社内で検討している仕事内容や実習先の部署の状況などの概要を伝えて、実習候補者を推薦してもらいます。実習候補者が決まったら、実際に職場となる場所で面談を行い、仕事する場所の雰囲気を知ってもらうとともに、どのような特性や苦手さがあるのか、配慮が必要なのかなどについてヒアリングします。最終的には、受入れ企業と候補者、双方の合意によって実習が決定します。

実習が決まったら、候補者の特性に合わせて、業務内容や職場の過ごし方(昼休みの休憩場所やロッカーなど)も含んだ1日の様子をシュミレーションします。加えて、通勤経路の確認や、遅刻や交通機関のトラブルに巻き込まれたときにどのような方法で連絡するのか、会社としての対応が必要なのかを確認しておくと安心です。

例えば、連絡手段について、次のようなケース想定ができます。
(a)実習生本人から実習先企業へ連絡する
(b)実習生から送り出し機関である学校や就労支援機関に連絡して、そこから企業に伝える
(c)実習生から送り出し機関である学校や就労支援機関と実習先企業へ連絡する


通常なら実習生自身で対応できることも、想定していないことが起こってできなくなる場合があります。そこまで想定して、対応手段を決めておくのです。このような実習生の準備は、送り出す特別支援学校や就労支援機関で行なうことですが、まれに準備せずに実習生を送り出す機関もあります。企業のリスク管理としても、実習生本人や実習生を送り出す機関への事前確認をおすすめします。

まとめると次のような準備が必要です。

【社内の準備】

(1)障がい者雇用を進めること、そのための準備として企業実習を受け入れることを周知する。
(2)業務内容、実習担当者を決める。
(3)実習スケジュールを作成する。
(4)実習生との面談をおこなう。

【社外の準備】

(1)障がい者の訓練機関や特別支援学校、就労支援機関などを選定する。
(2)仕事内容や実習先の部署の状況などの概要を伝え、実習候補生を推薦してもらう。

「職場実習」のメリットとデメリットとは?

職場実習をするメリットやデメリットはどこにあるのでしょうか。順番にみていきましょう。

【職場実習のメリット】

●書類や面接だけで見えない点が見えてくる
最大のメリットは、企業側も実習生もお互いを知る機会がもてることです。短時間の面接では把握できなかったことが、実習を通して見えてくることが少なくありません。

近年、精神障がいを持った方の雇用が広がってきています。面接で「どれくらいの時間働けそうか」と聞くと、実力よりも長い時間の勤務でも「大丈夫」という答えが返ってくる場合が多いです(おそらく、本当にその時間は働けると思っています)。これが、実習をしてもらうことで、想定した時間働いてもらえるのか、それとも厳しいのか判断できるようになります。

また、事前に話していた現場で必要な配慮や特性がどの程度なのかも、一緒にして働くことで分かります。

●会社の社風にあった人材の採用ができる
採用では、応募者の能力や過去の経験を重視して判断しがちです。しかし、長く働いてもらうには、会社の社風や具体的な業務内容に合わせて人材を採用することが重要になります。

例えば、「清掃」という仕事の場合を見てみましょう。「きっちり」がモットーのA企業が求人している「清掃」は、ホテルの客室の清掃業務です。同社では、客室のベッドにしわひとつなくベットメイキングし、バス・トイレに髪の毛一つ落ちていないように清掃することが求められます。

一方、「効率性」を重視するB企業の「清掃」は、車の整備工場の現場での清掃業務です。清掃する範囲が広いため、社員がよく使う場所や全体で使う場所が、清潔に保たれて入れば問題ありません。そのため、毎日清掃する場所と、掃除の頻度を少なくしてもよい場所、月数回の清掃でよい場所と自分で判断して作業する事が求められます。

このように、同じ「清掃」の仕事でも、企業や業務内容によって求められることが変わってきます。しかし、採用応募者は、「清掃」という点だけで判断してしまうことがあります。このギャップを実習することによって把握でき、その会社の仕事で求められていること、仕事の手順、一緒に働く人たちや職場の雰囲気にマッチしているのかを判断しやすくなるのです。

●実際の業務のレベルが分かる
障がい者の訓練機関や学校でパソコンスキルを習得する機会が増えており、履歴書や職務経歴書に関連資格が記載されていることもあります。しかし、訓練機関でパソコンを学びました、使えますというレベルと、実務の業務の中で使えるというレベルでは、大きな差があります。

この点についても、実習で実務をこなすことで、企業が求めているレベルに達しているかどうかがすぐに分かります。いくらシュミレーションしたり、説明を受けたりしても、実際にやってみなければわからないというのが、正直なところです。思っていたよりもできないということもありますし、逆に期待以上にできたということもあります。

実習中にレベルに達していないことがわかれば、プロセスを組み替える、マニュアルを整備する、その他の工夫などで改善されるのか、または他の候補者を検討するほうがよいのかも判断します。

【職場実習のデメリット】

●実習にマンパワーがかかる
企業側のデメリットは、マンパワーがかかることです。実習はただ来てもらえばよいというものでありません。先ほど紹介したように社内周知や準備はもちろん、外部機関との連絡調整が必要となり、手間も時間もかかります。

しかし、職場実習をすることで障がい者雇用の実務を体験することは、人事や障がい者を受け入れる現場にとっても良い経験になることは間違いありません。また、実習を通して採用前に、社内体制の見直しや整備もしやすくなります。社員の方にとっても障がい者雇用を知るよい機会となりますので、デメリットと捉えずに一度実施してみるのをおすすめします。


ここまで、障がい者雇用における職場実習についてお伝えしてきました。障がい者の訓練機関や特別支援学校、就労支援機関などでは、職場実習を職場定着のために必要なことと認知しています。しかし、一部の地域や求職者の属性によっては、実習を労働と捉えられるケースがあります。求人票を出すタイミングや手順などによって、見え方や受け取られ方が異なりますので、実習を計画する場合には、地域のハローワークなどに確認してから進めるようにするとよいでしょう。
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