2022年に段階的に施行された「改正育児・介護休業法」によって、企業はこれまでにはなかった課題に直面することが予想されます。2022年の法改正の趣旨は「育休取得促進」で、特に「男性の育休取得」に焦点が当てられているため、この趣旨が浸透することで、一般的には性別を問わず育休取得が増えると考えられます。しかし、これにより一時的ではあったとしても「新型コロナウイルス感染症拡大前に問題となった『人手不足』が再来する」との見方もあります。そこで本稿では、「改正育児・介護休業法」に関連して企業が認識しておきたい、従業員の育休中の業務代替に関する助成金について解説いたします。
「育休中の業務代替」に関する助成金は、中小企業だからこそ活用したい。内容や受給時の注意点を解説

「両立支援助成金育児休業等支援コース(業務代替支援)」とは

「両立支援助成金育児休業等支援コース(業務代替支援)」は、従業員の妊娠判明後、最初に活用の検討を始める「両立支援助成金育児休業等支援コース(育休取得時)」とは別の制度であり、端的には「育休取得者の業務を代替するスタッフを確保し、かつ育児休業取得者を原職等に復帰させた中小企業事業主」を助成するものです。制度の概要は以下の通りです。

1.主な要件

●育休終了後、育休取得者を原職等に復帰させる旨を就業規則等に規定
●3ヵ月以上の育休(産後休業から引き続き育休となる場合は産後休業を含む)取得に際し代替要員を確保する、または周囲のスタッフにより業務をカバーする
●育休取得者を原職等に復帰させ、申請日までに雇用保険被保険者として6ヵ月以上雇用する

2.支給額(2023/令和5年度)

●新規雇用:50万円
●手当支給等:10万円
●有期雇用労働者加算:10万円(育休取得者が有期雇用労働者の場合に加算)

中小企業で現実的に活用可能な部分とは

企業の立場で考えると、「新規雇用」の方が助成額として魅力があるのは明らかですが、我が国の99.7%(※)を占める中小企業にとって、「業務代替期間から逆算して求人を出し、採用後に一定の教育(もちろん能力にもよるが、以前から在職するスタッフよりは時間がかかることが予想される)を経て業務を担ってもらう」のはハードルが高く、実際にそうした相談を多く受けました。

他方で「手当支給等」の場合、助成額としては下がってしまうものの、メンバーシップ型を採用する中小企業では、「助け合いの精神のもとで活用してみたい」という声が散見されます(「ジョブ型」の隆盛はあるものの、中小企業の末端にまで浸透しているとは言い難い)。助成金の話に限定せずとも、そもそも新卒一括採用で毎年多くの新戦力が定期的に加わる大企業とは対照的に、中小企業の場合は職務を限定しているケースがほぼなく、ゼネラリスト的に幅広い業務に対応することに対して、スタッフの理解も比較的に得られやすいという背景もあります。

助成金受給にあたってのポイントと注意点

業務を代替する期間は「連続1ヵ月以上の期間が合計3ヵ月以上あること」とされています。また、業務代替者は複数名でも差し支えないとされていますが、1人につき連続1ヵ月以上の業務代替期間の実績が必要です。しかし、新型コロナ感染等によって代替者にも短期の欠勤が生じ得ることは想像に難くありません。この点については、「短期的な欠勤」(各月ごとの所定労働時間の10%未満の場合に限る)、「法に基づく休業」(例えば年次有給休暇や介護休業)は本期間に算入して差し支えないとされています。

また、手当支給にあたって実施すべきポイントは以下になります。

(1)育休取得者または業務代替者の業務についての見直し・効率化の検討
(2)業務分担を明確にし、代替業務の内容と賃金について面談により説明


上記の(1)については、以下のいずれかの結果が確認できる必要があります。

●業務の一部休止、廃止
●手順、工程の見直し等による効率化、業務量の減少
●マニュアル等の作成による業務、作業手順の標準化


さらに(2)については、代替業務に対応した賃金として、例えば「業務代替手当」等を就業規則に規定していることが要件となります。なお、同手当は「業務代替者が代替する業務内容を企業が評価する」ことが趣旨であり、労働時間に応じて支給される賃金ではない点がポイントです。そして、「業務代替期間において、1人につき1万円以上増額されている期間が、合計3ヵ月以上あること」が必要です。

繰り返しにはなりますが、業務代替者は一時的ではあっても業務量が増えることが容易に想像でき、免疫力の低下等が引き金となって新型コロナの感染等に見舞われることも考えられます。その場合、要件を満たせば傷病手当金の対象にはなりますが、次のような場合には注意が必要です。

例えば、上記のように「病欠となった業務代替者の病欠期間」を欠勤控除したとします。もちろん「ノーワークノーペイの原則」により、労務提供のなかった期間の賃金を支給しないことは何ら問題ありません(傷病手当金の見地に立っても、給与が全額支給されている場合はむしろ傷病手当金は支給されない)。しかし、業務代替手当には「1人につき1万円以上増額されている期間が合計3ヵ月以上」という要件があり、欠勤控除の対象に同手当を含めることで、実質的に要件を満たさなくなってしまうケースも考えられるのです。

また、育休取得者が産前休業から引き続き産後休業・育児休業に入る場合は、上記の「手当支給にあたって実施すべきポイント」(規定の整備や面談の実施)を産前休業前に行っておくことが必要です。

両立支援助成金の活用による“プラスα”のメリット

助成金の不正受給は絶対に許されません。しかしながら、要件を確認し、「現実的に可能」と思われる場合には、積極的に活用すべきと考えます。なお、受給にあたっての注意点として、助成金は「要件の変更」が行われることがありますので、必ず最新の資料をもとに確認することが重要です。

従業員が育休取得者の業務を代替することで、同じ職場内とはいえ一定の「第三者の目」が入って業務が効率化されることや、「いずれ自分が同様に育休を取得した場合にも同様のサポートが得られること」への期待や安堵感も醸成されます。そのため、両立支援助成金は「離職防止にも寄与する助成金」であると考えられるでしょう。
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