「キャリアデザイン」とは、働く人自らが“どのようなキャリアを積みたいのか”を主体的に考え設計することを意味する。先行きが不透明な「VUCAの時代」と呼ばれ、成果主義を掲げる企業も増えている現代、キャリアデザインを描くことが重要視されつつある。また、「人生100年時代」と呼ばれるように、定年退職後の人生をどう過ごすかも課題となっている。今在籍する企業に依存せずに、自分の人生を設計するキャリア自律の観点からも、キャリアデザインが注目されつつある。本記事では、そんな「キャリアデザイン」の目的や企業が取り組むうえでおさえておきたい具体例などを紹介していく。
「キャリアデザイン」の意味や目的とは? 企業が実践できる具体例も紹介

「キャリアデザイン」の意味や必要性とは

「キャリアデザイン」とは、自分の意志でどのようにキャリアを積みたいのかをプランニングしていくことを指す。

まずはキャリアデザインの必要性や目的、そして似たような言葉の「キャリアプラン」、「キャリアパス」との違いを確認していこう。

●「キャリアデザイン」の必要性と目的

「キャリアデザイン」が注目されるようになったのは、現在が先行き不透明な時代、つまり「VUCAの時代」に突入してきたためである。

従来は「企業に勤めていたら安心」と言われていたが、徐々に「一つの企業にずっと在籍できるか分からない」、「そもそも企業の存続も不透明」といった風潮に変化してきた。それに伴い、個々が自分のキャリアを真剣に考えないといけない状況になってきたのだ。

また、正規雇用・非正規雇用など働き方の多様化、仕事の成果によって評価が変化する成果主義の導入などもあり、キャリア形成を企業任せにできなくなっている。各自で働き方や生き方を考えないといけない時代になっていることも、キャリアデザインが重視されるようになった理由である。

●「キャリアプラン」や「キャリアパス」との違い

「キャリアデザイン」と混同しがちな言葉には、「キャリアプラン」や「キャリアパス」というものもある。これらとキャリアデザインにはどのような違いがあるのかを解説する。

・キャリアプラン
転職や起業等も含めてどう働いていくか計画を立てること。「キャリアデザイン」ではプライベートの人生設計も含まれるが、キャリアプランにはプライベートの計画は含まれない。

・キャリアパス
企業が従業員に提示する育成の計画。「キャリアデザイン」では主体性を持ってキャリア形成を考えるが、キャリアパスでは従業員の主体性はさほど重要視されない。

「キャリアデザイン」を構築するうえで必要な要素とは

「キャリアデザイン」を構築するうえで、どのような要素が必要になるのだろうか。

●目標や希望の明確化

まずは、従業員に「何をしたいのか」を明らかにしてもらう必要がある。仕事も含めた人生の目標や希望をはっきりとさせることで、具体的に今後のキャリアをデザインできるようになる。

従業員がすでにやりたいことや希望があるのならば、それを土台とし、具体的なキャリアを描けるように手助けをしていく。反対に、やりたいことや希望がまだ定まっていない従業員に対しては、理想の生き方、興味や関心があることを一緒に探りながら、「キャリアデザイン」ができるように促していくと良い。

●スキルや強みの把握

従業員はそれぞれスキルや強みを持っているはずだ。企業側は、目標の実現のためにそのスキルを使って何ができるのかを従業員に考えさせることが必要になる。また、現在持っているスキルや強みだけではなく、足りない部分はないのか、不足している部分を補うには何をすればいいのかを把握させることも、「キャリアデザイン」には重要だ。

●適性や性格・価値観の把握

「キャリアデザイン」には、従業員自身に自分の性格や価値観の把握を促し、どのような種類の仕事に適性があるのかを理解させることも必要だ。

しかし、自分の適性や性格・価値観を正確に把握するのは難しいかもしれない。そこで、企業としても、従業員が適切に性格の把握ができるように助言や手助けをすることが重要となってくる。

中には、「適性があるのでは」と企業側が提言した業務に対し従業員側は興味を持てない、ということも起こるかもしれない。そのような場合は、試しに業務に就かせ、やりがいや興味に気付かせるといった作業も必要になってくるだろう。

「キャリアデザイン」のメリットとデメリット

従業員に「キャリアデザイン」を実践させる場合、企業としてはメリット・デメリットを把握しておくことが重要だ。

●メリット

・早期離職の防止
従業員がどのようなキャリアデザインを描いているかを企業が把握することで、従業員が目指しているもの、そして現状で足りていない部分に企業側も気付くことができる。ギャップを埋めるための具体的な提案も行うことができるため、従業員の早期離職の防止にも繋がることが期待できる。

・組織強化
現代は、国内だけでなく、国際的にも企業間の競争が激化している時代だ。企業の力を伸ばすには従業員のレベルアップも必要になってくる。各従業員が「キャリアデザイン」を考え実行に移すことで、各従業員のレベルアップも期待できる。各自の成長は企業の組織強化にも繋がるだろう。

・人生100年時代を見据えた働き方の実現
人生100年時代と呼ばれる現在、定年と言われる年齢を過ぎても働くことを希望する人が増えている。現役世代の時期から「キャリアデザイン」を意識し実行していくことで、自分に合った働き方を見つけることができるはずだ。企業側としても、従業員に強みを生かした働き方をしてもらいやすくなるため、キャリアデザインを描くことにはメリットが多い。

●デメリット

・転職を後押ししてしまうリスクも
「キャリアデザイン」を考える過程の中で、現在在籍する企業や仕事が自分に合わないと感じる従業員も現れるかもしれない。結果として転職に繋がる可能性もあるため要注意だ。転職リスクを軽減するためには、「自社の仕事に活かしてもらうため」といったようなキャリアデザインの目的をはっきり伝えておく必要がある。

・昇進や昇給の目的化
企業が「キャリアデザイン」の構築を主導してしまうと、企業側が希望する人材を目指す従業員が出てくる恐れがある。昇進や昇給が目的となってしまうこともあり、キャリアデザインの目指すところではない。必ず従業員主体でキャリアデザインに取り組んでもらうことを事前に伝えておく必要がある。

「キャリアデザイン」の具体例を一挙紹介

「キャリアデザイン」を実際どう行えばいいのか。人事施策を考えるうえでのヒントとなる具体例を解説していく。

●コーチング

大きく分けて、二つの方法がある。

・外部講師に委託して研修を実施する
・上司や先輩社員がメンターとなり行う

外部講師が行う場合、適性テストや自己分析ツールを用いることも多いため、従業員自身が気付かなかった強みを発見できるメリットがある。上司や先輩社員が行う場合は、普段一緒に働く中で気付いたことに対して具体的にアドバイスできるという利点がある。

●「キャリアデザイン」を支援する人事制度

全ての従業員が希望する部署・業務に配属されることは難しい。しかし、以下のような柔軟な人事制度を取り入れることで、従業員の「キャリアデザイン」形成の手助けが可能だ。さまざまな働き方を通じて、自分の目標を見つける従業員が出てくることも期待できる。

・異動自己申告制
・社内インターンシップ
・リモートワーク制度
・フレックス勤務
・転居を伴う異動なしの正社員制度 など

●キャリア面談

企業側と従業員とでキャリア面談を行うのも、「キャリアデザイン」形成には有効だ。面談を行うことで従業員の希望や目標、そしてやる気を確認することができる。企業側も現時点で優れたスキル、不足している点を伝えることができるため、従業員は目標達成までの道筋も付けやすくなるはずだ。企業と従業員間のコミュニケーション強化の観点からも面談は有効である。

●目標管理制度

定期的に各従業員の目標を管理し、「キャリアデザイン」を意識させることも重要だ。ただし、目標が単なる数値目標にならないようにすることが必須である。キャリアデザインは目先で達成したい数値を決めるものではなく、仕事・生き方全てに通じるものであることを周知させておかねばならない。

●「キャリアデザイン」研修

入社1年目、3年目など定期的にキャリアデザイン研修を行うという手法もある。年次ごとに目標や悩みも違ってくることが予想されるため、その年次に合ったアドバイスができる。もちろん、中堅の従業員や役職付きの従業員向けのキャリアデザイン研修も有効である。
「キャリアデザイン」の形成は、単なる数値目標の管理ではなく、どのように働いていきたいか、どう生きていきたいかというように人生全般に通じるものである。従業員にキャリアデザインを形成してもらうためには、コーチング、面談、研修、目標管理制度などを用いて、長期的にサポートする体制を作ることが企業側にとって必要だ。また、キャリアデザインのメリット・デメリットをきちんと把握して、サポート体制を作り上げていかねばならない。

「VUCAの時代」と呼ばれるように、企業も個人も先行きを予測するのが非常に難しくなってきている。企業が生き残り、成長を続けるためにも、キャリアデザインをしっかりと形成した従業員を育成して働いてもらうことが、今後ますます重要になると予測される。
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