近年は、メンタルヘルス不調に悩む労働者が急増している。社会環境・市場環境がスピーディーかつダイナミックに変化しており、その動きにいかに対応していけば良いかが大きなプレッシャーとなっているようだ。昨今のコロナ禍は、こうした流れをさらに加速させている。働き方が急に変わってしまい、従来までの手法では上手く対処できなくなっている。こうした課題に取り組むのに有効なのが「ストレスマネジメント」と呼ばれる手法だ。企業や組織としてどう取り組んでいけば良いのか、実践する上で知っておくべき重要なエッセンスを解説していきたい。
企業や組織が取り組める「ストレスマネジメント」の施策例とは? 実践するうえで知っておきたいコーピングについても解説

「ストレスマネジメント」の意味や注目されている背景とは

「ストレスマネジメント」とは、健康や仕事に支障をきたす可能性のあるストレスを的確にコントロールするための手法を意味する。ビジネスシーンでは特に、過度なストレスが心身の健康状態を悪化させ、結果的に高いパフォーマンスを発揮することが難しくなってしまう。それだけに、各企業とも「ストレスマネジメント」に力を注いでいる。

●注目されている背景

・不調者の増加
チューリッヒ生命が発表した「2019年ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」によると、4人に3人以上の割合で日本のビジネスパーソンはストレスを感じているという。その原因として、近年の市場環境の変化が挙げられる。先行きが不安定な社会であるだけに、多くの会社員はストレスを抱えており、それに伴いメンタルヘルス不調者も増加傾向にあるというわけだ。

・ストレスチェックの義務化
こうした社会的な趨勢を受け、厚生労働省も2015年12月に施行された改正労働安全衛生法に基づき、「ストレスチェック制度」を従業員50人以上の事業所に毎年1回行うことを義務付けた。これにより社員はもちろん、会社としても「ストレスマネジメント」への意識が高まったのは事実と言えよう。

●ストレスの外的要因(ストレッサー)


ここでストレスをもたらす原因・要因について紹介したい。ストレッサ―とも呼ばれており、以下の4つに分類できる。

(1)物理
物理的・生物的・科学的な要因によるものであり、具体的には職場環境や騒音、振動、悪臭、自身の病気、光、音などが挙げられる。

(2)心理
精神的ストレッサ―とも言い換えられる。不安や怒り、憎しみ、恐れ、悲しみ、劣等感、緊張、焦り、いらだち、抑うつなどの感情を引き起こす要因によってもたらされる。人間関係上のトラブルによる精神的な苦痛や仕事の締切りに対する過度な意識やノルマから来る負荷もここに含まれる。

(3)社会
転職や転居、結婚や離婚・別居などによる生活環境の変化や、異動・配置転換・昇進など仕事上の変化によってもたらされるものである。その他にも、周囲や社会から求められる役割もストレスの要因になり得る。男らしさや女らしさ、親としてや管理職としてといった、特定の枠を課せられることに抵抗を感じた場合もストレスになりやすい。

(4)環境
天候や温度・湿度、花粉症、地震や台風・洪水といった自然災害、犯罪事件、大事故などによって引き起こされる。これらはかなり大きな精神的ダメージを受けてしまう可能性があり、適切なケアが求められる。

●ストレス反応の種類

ここでは、ストレス要因によって、どのようなストレス反応が起きるのかを説明したい。

・メンタル面
落ち込む、自分を責める、寂しくなるなどの悲観的・否定的な思考に陥る傾向が見られる。その一方では、怒りっぽくなる、他人を責める、イライラしやすくなるなど攻撃的な面が出るケースがある。また、仕事の集中力にも大きな影響を与えがちだ。具体的には、やる気がでない、無気力、人と会いたくないなどの兆候が現れる。

・体
体にストレス反応が起こるケースもあり得る。例えば、頭痛、頭が重い、背中が痛い、肩が凝る、腰痛などの不調を感じる人もいれば、眠れない、寝すぎてしまう、息苦しい、血圧が高い、動悸がする、不整脈など体に異変が現れる人もいる。さらには、下痢や便秘、胃もたれ、胃痛、飲み過ぎ、食べ過ぎなどの症状に悩むケースもある。

「ストレスマネジメント」は企業や組織に何をもたらすのか

次に、「ストレスマネジメント」がどんな効果を企業や組織にもたらすのかを述べていきたい。

●精神面

社員の精神面(メンタルヘルス)を健康に保つことができる。もし、ストレスが積み重なりメンタルヘルスが不調になってくると、仕事に集中できなかったり、生活が乱れがちになったりする。症状が悪化すれば、うつ病や自律神経失調症などに罹り、長期間の休業を余儀なくされてしまう。そうしたケースを避けるためにも、「ストレスマネジメント」を適切に実施し、未然に防ぎたい。

●職場環境

誰しもストレスを感じると、周囲にきつく当たりがちだ。逆に、ストレスを的確に管理できる従業員が多い職場は、自然と明るい雰囲気になる。結果として、社員一人ひとりのモチベーションが高まり、生産性を向上させることができるだろう。

●コミュニケーション面

コミュニケーションが円滑になる点も見逃せない。ストレスがあると、相手との感覚や捉え方にどうしてもズレが生じやすくなる。送り手の情報が曖昧になったり、受け手が勝手に思い込んでしまう傾向が強くなったりするからだ。それだけに、お互いにメンタルヘルスを健康に保っておけば、コミュニケーションの齟齬を大幅に減らすことができる。

●ハラスメント防止

最後に取り上げるのが、ハラスメント防止につながるということ。「ストレスマネジメント」を行うことで、自ずと社員はストレスに関する理解が深まっていく。どのような行動が、相手にストレスをもたらしてしまうかを会得することで、パワハラやセクハラにもより配慮した行動を取ることができるようになる。

「ストレスマネジメント」を実践するうえで知っておきたいコーピングとは

「ストレスマネジメント」に取り組むうえで、ぜひ理解しておきたいのがコーピングと呼ばれるストレス対処法だ。どのようなものなのかを解説していこう。

●問題焦点型

最初に、問題焦点型のコーピングを取り上げたい。これは、ストレスの原因解決に重きを置く対処法だ。何がストレッサ―となっているのかを見極め、具体的な対策を立ててそれを徹底的に取り除き、ストレスを軽減していくアプローチといえる。

具体的な方法としては、いくつかある。ストレッサ―の原因から距離を置いてストレスを受けにくくするという方法もその一つだ。例えば、特定の人が原因であるとしたら、その人の居ない場所で働くとか、その人を遠ざけることで問題を解決していく。また、上司や同僚、友人などに相談するのも良い方法といえる。自分の不安や悩みを誰かに話す、聞いてもらうだけで気持ちが落ち着いたりするし、そのプロセスの中で新たな対処方法が見つかったりすることもあるからだ。さらには、ストレスとの向き合い方を変えてみるのも有効だ。捉え方を切り替えるだけで、ストレスが軽減されるといったことがあり得る。

●情動焦点型

情動焦点型のコーピングは、ストレッサ―となる原因に向き合うのではなく、ストレスの度合いを緩和させることを重視する対処法だ。認知行動療法的なアプローチから、辛いといった自分の感情を間接的にコントロールしながらストレスを和らげていくアプローチである。

こちらも、さまざまな方法がある。例えば、呼吸法やヨガ、アロマテラピーなどにより心身ともにリラックスできる。簡単なストレッチでも疲れはかなり和らぐはずだ。また、リフレッシュするのも有効。好きなことをやる、適度に運動する、笑うというのも良い。開放感や心の豊かさが得られる。他にも、親しい人と会話を楽しんだり、十分な睡眠を取ったり、昼休みに15分ほど仮眠をしたりするのもお勧めしたいアイデアだ。いずれも、ストレスを解消させてくれるだろう。

このように、コーピングのレパートリーはバラエティに富んでいた方が、ストレスの緩和につながる。自分なりに色々試して、ストックを多くしてほしい。

企業や組織が取り組める「ストレスマネジメント」の施策例

最後に、企業や組織として取り組める「ストレスマネジメント」の施策例を4つ紹介しよう。

●風土醸成

一つ目が、「ストレスマネジメント」を重視する風土の醸成だ。社員のメンタルヘルスを保つには、個人に委ねるだけでは十分ではない。組織全体でこの課題に全力で取り組む風土を作り上げていかなくてはならない。

●コミュニケーションツール

円滑な社内コミュニケーションは、「ストレスマネジメント」対策にも効果が大きい。しかも、昨今は働き方改革やコロナ禍なども重なって、雇用形態や働き方、ビジネスの進め方も激変している。こうした流れに的確に対応していくためにも、社内コミュニケーションを速やかにしてくれるツールやルールを導入していく必要がある。クラウド技術の発達もあって、さまざまなサービスが登場している。それらを活用し、コミュニケーションをより円滑にさせていきたい。

●定期面談

三つ目として、定期的な面談を取り上げたい。職場でのストレスの大半は、人間関係や業務に根差しているとされている。その実態を把握するためにも、1on1ミーティングを通じて、社員の本音を聞き出すことは有効だ。なかには、上司には「なかなか相談しにくい」というケースもあるかもしれない。その場合には、人事担当や外部の専門家が対応するという体制を整備する必要がある。

●知識・スキル向上の支援

四つ目は、社員の知識・スキル向上をサポートすることだ。「ストレスマネジメント」を個人の問題として、対処を本人に委ねてしまうとクオリティに差がどうしても生じてしまう。やはり、上司や人事が必要に応じて指導したり、外部の研修を導入したりして社員の知識とスキルの底上げをしていかなくてはいけない。
変化が激しい現代社会では、ストレスを全く感じずに生きていくことは難しい。大切なのはストレスに上手に向き合っていくことである。そのためにも、今回取り上げた「ストレスマネジメント」をしっかりと理解し、実践していくことは大きな価値があると言える。さまざまなやり方があるため、色々試し、習慣化しやすいものを継続していくことが重要になってくる。もちろん、個人レベルで何もかも解決できるわけではない。職場環境や組織の人間関係が関わるストレスが多いからだ。人事担当者は経営陣や各部門の管理職とも密に連携を取りながら、適切な対応を進めていく必要がある。
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