大企業のミドル・シニア、今こそキャリア自律を! ー越境・副業を自己成長の機会にー
2021年4月より「高年齢者雇用安定法」が改正され、“70歳までの就業機会の確保”が努力義務となった。これにより、企業は「従業員が70歳まで活躍できる環境」を整備することが課され、旧来型の日本の雇用制度は大きく変化することになる。そうした動きの中で、大企業はミドル・シニア世代にどのような学びの機会を提供し、キャリア自律を促してしていけばいいのだろうか?

上記をテーマに、プロティアン・キャリア協会(プロティアン・キャリアとは自分の軸を持ち、主体的・変幻自在に働くこと)と株式会社エンファクトリーが共同でオンラインセミナーを開催。みずほビジネスパートナー株式会社 代表取締役社長の宇田真也氏、一般社団法人プロティアン・キャリア協会の代表理事で法政大学 キャリアデザイン学部 教授の田中研之輔氏、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事の平田麻莉氏、株式会社エンファクトリー 代表取締役社長 CEOの加藤健太氏の4名が登場し、「リレーセッション」と「トークセッション」を行った。

リレーセッション(1)
キャリア自律を促すための施策は、企業にとって「壮大な実験」だ

みずほビジネスパートナー株式会社 代表取締役社長 宇田真也氏
みずほビジネスパートナー株式会社 代表取締役社長
宇田 真也 氏


みずほビジネスパートナーは、みずほ銀行の100%子会社です。社員数は650名で、大半がみずほ銀行のOB・OGとなります。平均年齢は56.5歳で、60歳以上の社員の割合が40.2%。みずほ銀行、みずほフィナンシャルグループ唯一の人材サービス会社として、キャリア関連を中心に様々な業務を行っています。

そういった実情の中で、企業としてどのような働き方、キャリア自律を促して行くのか。これはミドル・シニアの方に限らない話ですが、社員はそれぞれに置かれた状況が異なります。家族構成やライフプランは全員異なりますし、子供の養育や両親の介護に時間を割かれる方も数多くいらっしゃるでしょう。全員が同じように自身のキャリアに目を向けることなど、最初から難しいのです。

それを踏まえた上で、キャリア自律について第一歩を踏み出してもらうために重要なのが、「バックストップ」と「セイフティネット」です。こちらから無理強いするのではなく、時差出勤やリモートワークなどを利用しながら「最も生産性の高い働き方」を自身で選択し、働かされるのではなく、自律的に生き生きと働くことを実現してもらおうと考えています。また、弊社はいわば「他人のキャリアに関わる会社」です。自身のキャリアをデザインできない社員が、他人にアドバイスすることなどできませんから、様々な挑戦を通じて自身のキャリア観をはっきりさせてほしいのです。

私が着任した当初の弊社は、典型的な縦割り組織で、横の連携がなくてもそれなりに仕事を進めることができました。ですが、現在は1人で2役も3役もこなしてもらうことで社内での活躍機会を広げることを促しており、約半数の社員が本来業務のほかに何らかのミッションを担っています。また、社外での活躍、つまり自身の「ネクストキャリア」を考えている社員が少なからず見受けられるようになりました。しかし一方で、「最初の一歩」をなかなか踏み出せない社員もまだまだいます。銀行員は「他の企業で働いたことがない」、「自身のスキルの棚卸しをしたことがない」というタイプが多いからです。要は、ネクストキャリアを求めて挑戦したいが、自分が他の分野で通用するのか自信がない。そういう社員の背中を押すことが、会社として重要だと思っています。

では、具体的に何をやっているのか。大きく言えば「機会の提供」に尽きます。「専門性向上のための勉強会の開催」、「新しい働き方の導入」などがそれにあたり、あくまでも自分自身でキャリア自律に意識を向けてもらおうと考えています。例えば、専門性向上の一つとして、キャリアコンサルタント育成に取り組んでいます。会社は社内の勉強会や研修の機会は提供しますが、外部の養成講座受講料の金銭的な援助は一切ありません。「会社に言われたから」ではなく、内発的な動機に基づいてやってもらうことが、「自分ごと」として動くためには重要なのです。

こうした取り組みの中でも、昨年エンファクトリーさんにご協力をいただいて行った「複業留学」は反響が大きかったです。このサービスを使って、3名の社員がグループ外企業での就業を体験したのですが、該当社員からは「自信が持てた」、「働き方、人生観を考える機会になった」など、ポジティブな意見が多く寄せられました。これらの声を社内に還元したところ、2〜3割の社員が強い関心を持ったということです。このような取り組みは、弊社にとって「壮大な実験」でもありますが、今後も続けていきたいと考えております。

リレーセッション(2)
キャリア自律は難しくない。本来の働き方を取り戻すだけである

法政大学 キャリアデザイン学部 教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事 田中研之輔氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事
田中 研之輔 氏


まず私が皆さんにお聞きしたいのは、「キャリア自律は難しいのか?」ということです。キャリア自律とは、「一人ひとりがキャリアオーナーシップを持つ」という、極めて本質的で本来的な働き方です。本来の働き方を取り戻せばいいだけですから、難しいことなどありません。しかし、大企業で長年働いて実績を積み上げてこられた方々をアンラーニングさせるのは、やはり大変な部分もあります。これまでの自身の実績を踏まえつつ、どれだけブレイクできるか。それがポイントになるわけです。

キャリア自律できる人は、「変化を活かし成長し続けるプロティアン」だと私は考えています。そして私たちが目指すのは、「主体的なキャリア形成を通じて、これからの働き方と生き方をより良いものにする」ということ。ただそれだけです。様々な取り組みを行っていますが、すべてはこの目的のためと言って差し支えありません。

では、どうすればキャリア自律を促進できるのか。これについてはアカデミックな知見がすでに確立されています。簡単に言えば、「主体」、「適応」、「越境経験」の3つ。ですから、宇田社長の取り組みの中に「複業留学」があることは、疑いようがなく正しいのです。同じ職場、同じメンバーで同じ仕事を長く続けると、キャリア自律は間違いなく難しくなっていきますから。

私が企業でプロティアン研修を依頼された場合は、最初に参加者の皆さんから「組織改善提案」を出してもらいます。現在の業務で改善すべき点について、できるだけ具体的に書き込んでもらうのです。自分自身の前に、まず組織について考え、皆さんに「自分でなんとかしなければならない」という気持ちになってもらう。「あなたのキャリアを良くするために、まずあなたの働き方を良くしましょう」と。組織は個人の求める場所を提供する「地面」のようなものであり、キャリアの成否を決めるのは自分だということ。そんな当たり前のことを取り戻そうとしているだけなんです。

やることは完全に見えているので、あとはひたすらそれを広めることに注力するだけです。キャリア自律は、年齢や性別、職位、勤続年数、事業規模に関わらず、誰にでもできる。その事実を伝え、自分で選択してもらうところまでが我々の役割ではないかと思います。そのために私が現在重視しているのが「CX(キャリトランスアフォーメーション)」です。

新卒一括採用の後、新人研修を経て、組織内の年功序列によって昇進していくと、どうしても閉鎖的になってしまいます。自らが主体的なキャリア形成を実践していくためには、「オープンイノベーション型」、「アジャイル型」と呼ばれる環境が必要です。企業内でキャリア形成を阻む「不透明なキャリア展望」、「組織内キャリア依存」、「キャリア失墜によるモチベーション低下」といった課題を乗り越え、挑戦・成長を応援し続けるオープンな組織づくり。これによって各自が主体的に働くことができ、結果的に企業の爆発力を上げることになるのは間違いありません。
「これまでのキャリア」と「プロティアン・キャリア」の比較

リレーセッション(3)
50代がこれからの可能性にワクワクするような「ポジティブ研修」を提供する

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事
平田 麻莉 氏


私はフリーランスとして、「複数の名刺を持って仕事をする」ということを10年以上続けてきました。2017年に非営利団体の「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」を立ち上げ、誰もが自律的なキャリアを築ける世の中を目指して活動しております。協会の活動は、もちろんフリーランスの方だけを対象にしたものではなく、あらゆるビジネスパーソンの働き方の選択肢を広げ、整備することを目的としています。

「70歳まで働く社会」においては、昨年12月に、50歳以上を対象とした新たな研修プログラムをリリースしました。定年前後のミドル・シニア社員の自律、ネクストキャリアへの橋渡しを行うことは、若手社員に「成長の機会」と「しかるべきポスト」を与えることになり、モチベーションの向上や組織の成長にもつながると考えています。

大手企業には、いわゆる「黄昏研修」と呼ばれるものがあります。その呼び名の通り、「自分は落ち目だ」と感じてしまうような内容の研修のことです。こういった研修では「来年からは1杯1,000円のビールは飲めなくなりますよ」といったお金のシミュレーションが多いのですが、私たちはこれからの可能性にワクワクするような「ポジティブ研修」の提供を進めています。社外でも評価されるキャリアを認識し、自信を持って現在の業務に取り組んでいただくこと、50代を「定年後のネクストキャリアに向けた準備期間」と捉えていただくことで、複業や兼業が自分の視野を広げる・価値を高める手段であると理解していただきたいと考えています。
「黄昏研修」と「ポジティブ研修」の比較
直近では丸紅従業員組合様に研修プログラムをご提供し、300名以上の方にご参加いただきました。参加者の半数以上が50代以上の方でしたが、「副業・複業のハードルが下がった」、「自分のスキルや経験を棚卸ししてみたいと思った」など、8割の方から前向きなご意見をいただいております。

リレーセッション(4)
企業と個人の相利共生の関係を生み出し、「自分が決める」を当たり前に

株式会社エンファクトリー 代表取締役社長 CEO 加藤健太氏
株式会社エンファクトリー 代表取締役社長 CEO
加藤 健太 氏


私たちは10年前の創業時から「専業禁止」をポリシーとして掲げてきました。会社への申請も求めていません。唯一の決まりは「オープンにすること」。現在、メンバーの約50%が複業実践者となっております。

いきなり「専業禁止」と言われてもハードルが高い、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、デスクで隣の同僚が複業をしているような環境だと、影響を受けて「自分もやってみようかな」という連鎖が生まれやすいものです。そして、「学びあう仲間」がいることも大切だと思っています。残念ながら人間は弱い生き物で、ひとりだとサボってしまいがちです。ですから弊社では「ラーニングコミュニティ」という、メンバー同士がつながる仕組みを作ることで、組織的学習を進めています。

これからの社会で求められるのは、「企業と個人の新しい関係性」です。私たちはそれを田中先生の「CX=キャリトランスアフォーメーション」にならって、「EMX=エンプロイメント&エンパワートランスアフォーメーション」と名付けました。企業が「自律型人材育成」と「個々の成長」と「個を尊重した誠実な振る舞い」を、個人が「自身のキャリア自律へ向けた行動」を心がけることで相利共生の関係が生まれ、「会社が決める」のではなく「自分が決める」という空気が企業内に広がるのです。

弊社の提供する「複業留学」は、従業員が複業としてベンチャーで働くことで、越境的活動を促すサービスです。創業以来、今お話ししたような取り組みによって蓄積してきたノウハウを活かして、シニア世代の越境体験に伴走し、受け入れ企業のアウェイな環境の中でキャリア自律を高めます。他の越境学習と異なるのは、「自身でキャリアを設計できる“自律・越境人材”(2割)」、「もう一歩が踏み出せない“殻を破れない人材”(6割)」、「向上心がない“停滞人材”(2割)」のうち、「6割」にあたる従業員に強く働きかけている点でしょうか。6割の中の上位2〜3割を動かすことで、キャリア自律の意識を高めるサービス設計をしています。
ミドル・シニア世代の人材構成
大企業に勤めていれば、そこそこのお金がもらえます。しかし、そのレールを降りて自律的なキャリアを選んだ人を見ながら「なんか元気がいいし楽しそう」、「あいつができるなら自分にもできるかも」と考えている方も少なくないのではないでしょうか。そんな方たちの背中をそっと押してあげるような仕掛けとして、弊社のラーニングコミュニティの考え方が役に立つのではないかと思っています。

トークセッション
キャリア自律を促すなら今が絶好のタイミングである「3つの理由」

加藤 ここからはトークセッションです。まずは田中先生にお伺いしたいのですが、なぜ「今こそキャリア自律」なのでしょうか?

田中 私は今が、3つの点において歴史的転換期であると考えています。1つ目は「働き方改革」、2つ目は「日本型雇用の制度転換」 そして3つ目は「新型コロナウイルス感染症」。端的に言って、今こそがチャンスです。従来型の働き方からの転換が難しい業種もあると思いますが、内生的な時間が増えた今だからこそ、多くのビジネスパーソンがハイブリッド型のキャリアを確立すべきではないか。そういう意味で、キャリア自律をするなら今だと考えています。

加藤 少し意地悪な言い方をすると「今しかないんじゃない?」という雰囲気もありますね。

田中 そうですね。先日、ある企業でプロティアンセッションを行ったところ、「定年が逃げて行く」とおっしゃった方がいまして。もちろんその方が悪いわけではなく、そういう考え方を生む構造が、旧来の日本の雇用制度にはあったということです。自律型キャリアの人には、そういう考え方は生まれませんから。多くの人にとって労働は1日の3分の1以上を占めるので、「できるだけ楽しんで仕事をしたい」と考えられる方が一人でも多くなるよう、発信を続けたいと思います。

加藤 宇田社長が実践されている施策に関しては、社員の皆さんからどのような反応がありますか?

宇田 私が社長になったのは2年前ですが、その時にキャリア自律を促すような発言をしたところ、「65歳まで雇用を続けるのが企業の義務だ」と言う社員がいました。私の発言に対して、ややネガティブな捉え方をしたわけです。その時に、根本的なマインドセットと言いますか、発想の転換が必要だと感じました。何歳になっても、「自分の新しいキャリアを切り開くことが楽しい」と考えられる人材を育てなければならないなと。会社と社員の関係が「雇ってあげている/雇ってもらっている」という感じになってしまうと、組織に活力が生まれません。「雇ってもらっている」のではなく「雇われてやっているんだ」ぐらいの気持ちで取り組んでほしいのです。

加藤 実際に社外へ行かれている方はどれぐらいいらっしゃるんですか?

宇田 数としてはまだまだ少ないです。30年、40年と同じ会社で同じ業務を続けてきた社員にキャリア自律を促すのは本当に難しいですが、全体の2割ぐらいが関心を持つようになってきました。これが2年前ならゼロだったと思います。あくまで社外での活躍は選択肢の一つですが、社員一人ひとりが自らキャリアを考えられるよう着実に進めていきたいと思います。

50代から「段階的にキャリア自律を進めること」が大切

加藤 次に平田さんにおうかがいしますが、ミドル・シニア世代でフリーランスの働き方を始める方の数は増えていますか?

平田 ミドル・シニアでも、私たちの活動に関心を持ってイベントに参加してくださる方はたくさんいらっしゃいます。この世代は、キャリアコンサルタントと中小企業診断士の資格を取る方が多いのですが、たとえば私が「40代から始める、雇われない働き方」という講演をさせていただくと、講演後に「今日のお話を聞いて自信が持てました。会社を辞めてすぐに独立します」とおっしゃる方が少なからずいらっしゃって、こちらが「ちょっと待ってください」と諫めることもあります(笑)。

日本より一足先に終身雇用がなくなった韓国では、一時期コンビニよりも焼き鳥屋さんが増えたことがありました。しかし、長く会社員として「言われたことを言われた通りに」やってきた方がいきなり店を始めてもうまく行くはずがなく、大量倒産が起きてしまったのです。私自身、キャリア自律を促す側のひとりとして、独立を目指す方が増えるのは喜ばしいと思う反面、韓国の二の舞になることは避けたいので、50代から複業などを通じて自分の価値を知り、段階的にキャリア自律を進めていただくことが大切だと思っています。

加藤 そういう意味で、複業というのはある種の猶予期間として大きな意味を持っていますよね。

平田 おっしゃる通りだと思います。

「生産性が落ちたまま雇い続けられない」という企業の本音も

加藤 最後に田中先生と宇田社長から、キャリア自律について「企業側からできること、費用対効果の合う施策はあるのか?」という課題に対してひと言ずつお願いします。

田中 やるべきことはキャリアトランスフォーム、つまり「変身」です。変身していく過程ですから、それなりに長い時間がかかります。たった1回の研修で何かが変わるとは思っていませんが、社内ではなく、私たちのような社外の人間が入り込むことが刺激になるのは確かです。

そして企業側も「変わらなければ」と考えている。本音として「生産性が落ちたまま雇い続けることはできない」ということもあるでしょう。内部の同じような顔ぶれで「キャリア自律」と言ってもなかなか現実味がありませんから、私たちが外からショックを与えることは、それなりの効果があるのではないかと思います。

宇田 外との触れ合いは絶対に必要です。大企業で働いていると、外とのネットワークが驚くほど限定的になります。「キャリアは会社が作ってくれるもの」と思っている方も少なくありませんから、外に行ってみて気づくことが、自分のキャリアを考える刺激になると思います。

加藤 本日はありがとうございました。
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