新卒採用を行っている企業であれば、配属前の新入社員教育は不可欠といえる。学生と社会人はどこが違うのかを認識するとともに、社会人としてスタートするにあたって必要となる基本的なビジネス知識・スキルを身に付けてもらいたいからだ。ただ、担当者からは「思うような成果が出ていない」、「研修会社に委託すべきか、なかなか判断ができない」といった声も聞かれる。そうした声に応えて、今回は「新入社員研修」の目的や形態、カリキュラム、外部依頼のメリット・デメリットなどについて解説していきたい。
新入社員研修

そもそも「新入社員研修」には、どのような目的がある?

まずは、「新入社員研修」の目的から解き明かしていこう。

●「新入社員研修」とは

「新入社員研修」とは、企業に新しく入社してきた社員を対象に、働く上で必要な心構えや知識、スキルなどを指導・育成する研修だ。実施時期は入社後がほとんどだが、なかには入社前の3月からスタートする企業もある。新卒採用の新入社員はほとんどが社会人として働いたことがないだけに、広く網羅的に学ぶことが大切になってくる。

●「新入社員研修」の目的

「新入社員研修」の目的はさまざまあるが、ここでは以下の5つを紹介したい。

(1)社会人への意識変革
新卒採用の新入社員のほとんどは、入社前まで学生であった人たちだ。責任はほとんどなく、人間関係も狭く、自由度の高い生活を送っていたと推察される。しかし社会人になると、仕事や社会への責任を持たなくてはいけない上に、好き嫌いを越えて多くの人とも付き合わなければならないし、計画的な時間管理が求められるようになる。学生気分が抜けないままでいるようでは、仕事に身が入らなくなってしまう。だからこそ、学生から社会人へと意識を切り替えてもらう必要がある。その絶好の機会となるのが、「新入社員研修」だ。社会人としての自覚・責任を持ってもらうためにも、重要といえる。

(2)社会人に必要な考え方、知識の習得
「新入社員研修」は、仕事を進める上で必要な知識や考え方を学ぶ場でもある。例えば、経済や経営の知識、メンタルヘルス、コンプライアンスなどだ。特に、コンプライアンスの遵守は重要だ。近年では社員によるSNSでの情報漏えいが多発しているが、これは情報の取り扱いやコンプライアンスが自分事として捉えられていない社員がいるからと言える。こうしたトラブルが起きないようにするためにも、社会人としてエッセンスを身に付けておきたい。

(3)企業、職場の理解
新入社員には、入社後、先輩社員と共通の目的をもって仕事に従事してもらうことになる。そのためにも、自社についての理解を深めてもらわなければいけない。具体的には、企業理念や事業内容、これまでの歩み、商品やサービスの概要、独自の社内ルールなどを正しく把握してもらう必要がある。さらには、社内にどのような部門があって、それぞれがどんな活動を行っているかも学習しなければいけない。これらを知ることによって、新入社員は自分の役割を理解しやすくなるはずだ。

(4)一般的なビジネススキルの習得
研修を終えたら、できるだけスムーズに業務を遂行してもらうことも「新入社員研修」が有する大きな役割といえる。そのためにも、電話応対や名刺の渡し方といった基本的なビジネスマナー、PCスキル、コミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキル、報連相(報告・連絡・相談)の仕方など仕事に役立つさまざまなスキルを身に付けていきたい。

(5)仕事で必要な専門性の習得
できるだけ早く即戦力として活躍してもらうためにも、部門ごとに求められる専門的な知識やスキルも、「新入社員研修」で身に付けておきたいものだ。具体的には、営業部門ならアポイントの取り方、商談の進め方、営業案件の管理方法などを学ぶとか、経理や財務の部門であれば財務ソフトの利用方法、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書の読み方を知っておくと、現場配属後に仕事がしやすくなってくる。


「新入社員研修」の形態

それでは、「新入社員研修」はどのような形態で行われているのであろうか。カリキュラムや参加人数などによって、さまざまな形式が考えられる。以下、代表的なものを紹介しよう。

●講義

講義者が壇上に立ち、受講者に知識や考え方を体系的に伝達していく形態だ。新入社員にとって最もスタンダードな形式といえる。テキストやスライドなどを使って、一度に多くの知識を伝えることができるので、参加者が多かったり、会場の都合上、小グループに分けることが困難だったりする場合によく実施されている。問題は、知識の伝達が一方通行になりがちであることだ。その結果、どうしても受講者が受身の傾向になったり、消極的な態度が見られたりするので学習効果が低下しがちだ。また、参加者が多いため、理解度を確認しづらい、実践のプロセスが欠如しているため学んだことが血肉化しないという問題もある。

●グループワーク

受講者参加型の学習方法であり、座学と組み合わせて行われるケースが多いのがグループワークだ。「新入社員研修」のなかでも人気が高い形態とされている。メリットは、受講者が主体的、能動的に取り組めるので、実務で効果を発揮しやすいことだ。また、チームワークやコミュニケーションスキルの醸成につながる点も見逃せない。新入社員同士の関係性がぐっと深まるとされているが、一方で、「楽しかった」「面白かった」で終わりがちであるところや、運営や進行をコントロールしにくい点はデメリットといえよう。

●ロールプレイング

ロールプレイングは実務上で想定されるシーンを設定して受講者に特定の役割を与え、その場で疑似体験させるという形態だ。実際にやってみることで学んだことが理解しやすくなる。例えば、ビジネスマナーを習得する場合にも有益といえる。講師がまずは見本をみせ、それに基づいて実際に演じてもらい、問題点をフィードバックしてもらうと、どこが問題であったのかが分かりやすいからだ。

●その他

その他にも、課題提出やeラーニング、合宿などの形態もある。加えて、最近は新型コロナウイルスの感染拡大もあって、テレワークが多くの企業で定着してきている。これに伴い、「新人社員研修」をオンラインで実施するというケースも増えている。

「新入社員研修」で実施する主なカリキュラムとは

「新入社員研修」での代表的なカリキュラムといえば、二つある。一つは「ビジネスマナー講座」、もう一つが「コミュニケーションスキル講座」だ。それぞれについて紹介しよう。

●ビジネスマナー講座

ビジネスパースンとしてのキャリアをスタートさせるにあたって、必須のカリキュラムとなるのがビジネスマナー講座だ。敬語の使い方、身だしなみ、名刺の交換法などを新人の頃にしっかりと理解しておくことが大切といえる。

●コミュニケーションスキル講座

学生の頃には人間関係といっても、家族や友人、先生など限られた範囲であったといえる。しかし、社会人になると社内外さまざまな人と関係を構築しなければならない。どうすればコミュニケーションを円滑に進めることができるか。その方法やコツを学ぶのは意義深いといえよう。

「新入社員研修」で企業は社員に何を伝えればよいか

では、実際のところ企業は「新入社員研修」でどのようなことを社員に伝えて行けば良いのであろうか。主だった項目を以下に取り上げた。

●企業理念・ビジョン

自社のことをより理解してもらうために、まずは企業の理念やビジョン、行動指針、成り立ちなどを知る必要がある。それも可能であれば、経営者から語ってもらうようにすると、より新入社員に響くはずだ。理念やビジョンへの共感はモチベーションの向上につながるだけでなく、共通の目的をもって仕事を進めていけるので成果を導きやすい。だからこそ、しっかりと共有しておきたい。

●ビジネスマナー

顧客や取引先と良好な関係を構築するためには、ビジネスマナーを学ぶ必要がある。相手に良い印象を与えることができるからだ。まさに、社会人にとって最も基本的なスキルの一つといって良いだろう。具体的には、お辞儀の仕方や挨拶、身だしなみ、名刺交換のやり方、来客・電話への応対、席次、言葉遣いなどだ。単に言葉で説明するだけでなく、ロールプレイングの研修などで実践してもらいながらポイントを伝えていくと効果的だ。

●PCスキル

「若者は皆ITにも詳しく、PCも使いこなせるのではないか」と思う人が多いかもしれない。実際には、それは誤解だ。確かに、スマートフォンやタブレットには精通しているが、「PCに一度も触ったことがない」という新入社員も数多くいる。今やどの企業もPCなしには業務が進まないだけに、「新入社員研修」を通じてPCスキルを教育しておく必要がある。例えば、タイピングの仕方、ファイルやフォルダの概念、プリンターやスキャナの利用方法、インターネットブラウザやメーラーの操作法、文書作成・表計算・プレゼンテーションなどの基本ソフトウェアの使い方などを教えておかないといけない。

●コミュニケーションスキル(報連相)

仕事では上司や顧客など、さまざまな相手とコミュニケーションを図る必要がある。年齢も立場も異なるだけに、新入社員からすれば何をどう伝えたら良いかも分からないはずだ。そのためにも、「報告・連絡・相談」の仕方を含め、社会人としてのコミュニケーションの取り方も伝えておきたい。座学だけではなかなか身に付かないので、ロールプレイングにより実際に行いながら学ぶことが望ましい。

「新入社員研修」を外部依頼すると、どのようなメリットがある?

「新入社員研修」の準備をしたり、当日の講師を務めたりするのは簡単なことではない。ならば、「外注すれば良いのでは」という意見も聞こえてきそうだが、どうしてもメリットとデメリットが生じてしまう。自社の状況を考慮し、外部依頼する・しないを検討する必要がある。

●「新入社員研修」を外部依頼する際のメリット

・プロから学べる
業務知識を持ち合わせていて教え方も上手い。そうした適任者は社内を探してもなかなかいないものだ。業務には秀でていても、教育には慣れていなかったりするからだ。一方、外部講師は研修のプロフェッショナルゆえ、研修の進め方や指導方法について専門的な知識やノウハウを有しているので、研修受講者も理解しやすい。自ずと高い習得効果を期待できる。

・社内にないノウハウや知識を得られる
社外講師は、幅広い知識に加え最新の動向、トレンドにも精通している。それだけに、自社にない知識やノウハウを学べる可能性が高く、新しい発見や視点を得やすくなる。受講者にとっても運営側にとっても良い刺激となるだろう。

・社内の負担軽減
研修を行うとなると、課題・研修の目的の明確化にはじまり、企画立案や講師の選定、スケジュール調整、研修プログラムの作成・実行、研修効果の分析など、準備は相当大変だ。外部に研修を依頼すれば、そうした工数は大幅に削減できる。人事部門の負担も大きく軽減されるはずだ。特に中小企業では、人事担当者も少数であるだけに外部依頼のメリットは大きいと言えるだろう。

「新入社員研修」を外部依頼する際のデメリット

もちろん、デメリットもあることを忘れてはいけない。

●コスト増

当然ながら、内製化よりもコストが割高になる。単に講師を招くだけでも、経費は増えてしまう。研修全体を任せるとなると、尚更だ。依頼先や研修のスタイルなどによって料金は違ってくるので、比較検討することを勧めたい。

●社内の理念や独自の考え方が伝わりにくい

外部講師が自社の現状や課題をどこまで把握しているのかによって、研修の中味や質が大きく変わってくる。十分でなかったりすると、自社独自の理念や方向性を研修受講者に伝えるのは難しくなってくる。想定していた研修目的とズレが生じてしまうと、コストが掛かった上に何の成果も得られなかったりしてしまう。依頼する際には、事前に内容を入念に打ち合わせておくことが不可欠であると言える。
企業は、新入社員に早く仕事を覚えてもらい、一日でも早く戦力になってほしいと願っている。その土台を作るのが、「新入社員研修」だ。ここをスタートラインに価値ある人材を創出していければ、企業の業績は大きく高まることだろう。改めて、自社にとって最適な「新入社員研修」の在り方を再検討し、より良いものに進化させていってもらいたい。
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