「限定正社員」とは、勤務地や仕事内容、労働時間が限定された形で働く正社員のことで、安倍晋三首相の経済政策“アベノミクス”の成長戦略の一つです。ジョブ型正社員ともいいます。

普通の正社員は、転勤や残業、職種の変更を受け入れなければならず、受け入れられない場合は、派遣社員やパートなど、有期雇用の非正社員という形で契約しなければならず、同じ仕事をしていても、給料や待遇が違うという格差が問題となっていました。そこで、限定正社員という制度を作り、勤務地・仕事内容・労働時間などが限定されていながらも、より安定した待遇で働けるようになりました。限定正社員は、育児や介護などで時間が限られている人の受け皿となり、仕事が大きく変わらないので、専門性や職業能力を高めやすくなります。

限定正社員の導入が議論されるようになった背景には、改正労働契約法が施行され、長期間働く契約社員やパートが、本人が希望すれば、無期雇用に切り替えなければならなくなったという問題があります。
また、併せて、解雇規制の緩和も政府は検討しており、これにより、雇用の流動化が見込めるとしていますが、安易な解雇が頻発するのではないかと懸念の声も多数あがっています。

というのも、限定正社員は、勤務する場所を限定しているため、勤務先の工場が閉鎖となると、有無を言わさず、「クビ」となります。すでにこの問題は各地で発生しており、企業が悪用すればさらなる社会問題に発展する恐れもあります。正社員ではなく限定正社員としての求人が増える、正社員から限定正社員への格下げが生じる、正社員は転勤・長時間労働を強いられる可能性が高くなる、といったことがあり、労働者の不利益につながることが多々想定され、日本労働組合総連合会などの反対も強いです。

また、限定正社員は、いわゆる“無限定”正社員に比べて、賃金が安いことが当然とされます。改正労働契約法により、非正規雇用者が5年を超えて、無期雇用に転換する際も、労働条件は非正規雇用のときと同じで良いとされており、限定型の雇用にすることにより、形は正社員でも賃金が低く抑えられます。2007年にユニクロがアルバイトや契約社員を大量に限定正社員にして話題になりました。待遇は、時給をそのまま月給制にし、「実力評価」で一時金を出すという内容でした。正社員にはなったものの、労働者は労働強化になり、離職があとを絶たないといわれています。

限定正社員に対して、“無限定”正社員は、長時間の残業や遠隔地配転、出向などに限定がなく、また多くの正社員が、“働くルール”のない過酷な労働条件におかれています。深刻な正社員の労働環境の実態を放置、悪化させ、「それが無理なら限定正社員に」というのでは、すべての労働者の賃金・労働条件は悪化するばかりです。いま必要なことは、長時間労働の是正やサービス残業の根絶、均等待遇の実現、最低賃金の引き上げなど、誰もが安心して働き続けられるようなルール作りを確立することです。