HR総研(HR総合調査研究所)では、毎年12月末に新卒採用担当者向けに採用動向調査を実施しており、独自の調査項目として注目されているのが「ターゲット大学の設定率」である。
ターゲット大学設定企業、調査開始以来初の減少

ターゲット大学を設定いるか

 HR総研の調査方法の特徴は、人事部門あての郵送アンケートではなく、「HRプロ」会員(個人)向けのWEBアンケート方式を採るともに、回答者名はもちろんのこと回答企業名も一切公表しないと約束したうえで回答協力をいただいていること。では、通常の郵送アンケートと何が違うのだろうか。ずはり、回答の質である。郵送アンケートの場合、人事部門(あるいは会社)としてのオフィシャルな回答として扱われることを想定して、本音の回答にはなりづらい。極めて当たり障りのない回答に止まる傾向がある。
 これに対して、人事部門の個人からの回答は、回答企業名も秘匿性を持たせるため、極めて本音に近い回答を集められている。今回のテーマである「ターゲット大学の設定」などは、郵送アンケートと個人向けのWEBアンケートでは全く異なる結果になるであろう。「ターゲット大学の設定」とは、指定校まではいかないまでも一部の特定大学についてのみ、採用重点校として特別な対応をしている大学があるかどうかを問うもの。表面的には「大学名不問」の採用活動をしているとしている企業からすれば、特定大学の存在は公にはしたくない事実である。郵送アンケートで実施した場合には、「ターゲット大学の設定はない」とする回答が大半を占めることが予想される。

 さて、本題に入ろう。HR総研では、この「ケーゲット大学の設定の有無」について、2011年新卒採用(2009年12月調査)から毎年調査をしている。これまでの調査結果の推移を見てみると、ターゲット大学を設定している企業の割合は、2011年卒 33%→2012年卒 39%→2013年卒 48%→2014年卒 52%と右肩上がりの上昇を見せてきた。では、2015年卒はどうであろうか。さらに設定企業は増えるかと思われたが、結果は44%と大きく減少することとなった。

 では、その背景にあるのはなんであろうか。設定している企業の割合を企業規模別にみてみたい。回答企業を「300名以下」「301~1000名以下」「1001名以上」の3区分に分けてみると、「300名以下」37%、「301~1000名以下」48%、「1001名以上」55%と、企業規模により傾向が異なる結果が浮かび上がってくる。前回(2014年卒)の調査では、「300名以下」47%、「301~1000名以下」57%、「1001名以上」54%となっており、「1001名以上」の大企業では減少していない(というよりも微増)のに対して、それ以外の中小・中堅企業で大きく設定率が減少しているのである。

 中小・中堅企業で大きく設定率が減少したのには3つのわけがある。ひとつは、景気回復基調から各企業の採用意欲が向上し、昨年に比べて採用計画数の増加が予測されること。企業側の採用計画が膨れ上がれば、需給バランスからして企業側の学生争奪戦が激しくなり、昨年以上に採用には苦労することになる。
 ふたつめには、学生の大手企業志向が再燃していることである。ここ数年、景気の低迷から大手企業の採用数はリーマン・ショック以前と比べるとかなり減ってきており、必然的に学生は中堅・中小企業にも目を向けざるを得なかった。ところが、円安、株高基調の中、企業の経営状況は大幅に改善してきており、最高益を更新している企業も少なくない。ただでさえ需給バランスの悪化が予測される中、さらに学生の大手企業志向が復活するとなると、中堅・中小企業側(大手企業の中にもB to B企業や不人気業界などは、採用の苦戦が予想されるのだが)の条件はさらに厳しいものになる。
 みっつめは、昨年の採用活動の反省にある。昨年は、4月1日には内々定をもらう学生が続出するなど、大手企業の採用選考活動の早期化・短期化が指摘されたが、中堅・中小企業の採用活動もそれまでと比べるとかなり早かった。4月後半に採用選考のピークを持ってきた企業も多かった。結果的に大手企業と選考時期や選考学生がバッティングし、選考辞退や内定辞退を数多く招く結果となってしまった。
 これらのことを鑑み、中堅・中小企業ではターゲット校設定の見直しをした企業が多かった。ただ、中堅・中小企業におけるターゲット大学は、必ずしも多くの大手企業がするように入試偏差値ランキングをもとに設定されているわけではない。地元の大学であるとか、OB/OGが多いなどの理由によるところも多い。今回、ターゲット大学設定を見直した企業の多くは、大手企業のように入試偏差値ランキングをもとに大学を設定していた企業群に多かったのではないかと予測する。

 大学の後期試験もそろそろ終了の時期を迎え、再び採用活動が熱気を帯びてくる。現在の倫理憲章で実施される最後の年となる今年、これからも企業の動き、学生の動きを注視していきたい。


HR総合調査研究所 主任研究員 松岡 仁

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