8月も終盤に入っているが、依然として暑い日が続いている。そんなある日、近所を歩いていると夏祭りの看板の「将棋大会」の4文字が目に留まった。
将棋の金言にみる人材マネジメントのポイント

将棋が教えてくれる人材マネジメント3つのポイント

将棋と言えば古くからある日本のゲームで、歩・香・桂・銀・金・角・飛・王の計8種類、40枚の駒を使って互いの王を取り合うというものである。経営者の方にも愛好家は多く、また実際に強い人が多いように思う。

ところで今年の6月に遡るが、日本商工会議所が「人手不足等への対応に関する調査結果」を取りまとめてホームページで公表している。それによると全体の半数以上の企業が「人手不足」と回答している。お客様から受ける相談内容で最も多いものの一つが人手不足関連であり、依然として人手不足は深刻な問題である。

そこでふと、前述の将棋には多くの金言があり、これらに人手不足対策のヒントがあるのでは?と思い当った。以下、何かの気づきになれば幸いである。

金言その壱:歩のない将棋は負け将棋~教育訓練の重要性~

 「歩」は将棋の駒の中でも最も力の弱い駒である。一歩ずつ、前方にしか進むことができない。社員に例えるなら新入社員や権限や責任の小さなパート・アルバイトなどが該当しそうである。しかしこの「歩」には実に多彩な使い方がある。「たれ歩」「継ぎ歩」「突き捨ての歩」「金底の歩」……等々、その種類には枚挙にいとまがないが、どれも局面を打開し勝利を呼び込む強力な手である。また「歩」は相手陣内に入れば「金」と同じ動きができるようにもなる。労務の現場ではしばしば「あいつは駄目だ」「使えない」といった愚痴も聞かれるが本当にそうであろうか。上司の腕次第、本人のトレーニング次第で大きな力に変わる可能性があるかもしれない。

金言その弐:王の守りは金銀三枚~コミュニケーションの重要性~

 「金」「銀」はゲーム開始時王の左右に近侍する側近的存在である。社員に例えるなら幹部社員やリーダー職の方が該当しそうである。ゲームが始まればどんどん駒を動かして相手を攻めるわけであるが、その中でも金銀三枚は自分の王の周りに配置して守りを固めることが大切である。労務の現場では「部下が思うように動いてくれない」「理解してくれない」という悩みもよく耳にするが、これは金銀不在の状態であり王が孤立している危険な状態である。自分の考えの理解者たる人の存在は組織の人材マネジメントには欠かせない。社内の情報共有やコミュニケーションのあり方を改めて見直す必要があるかもしれない。

金言その参:ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり~評価の重要性~

 飛車は角と並び将棋の大駒である。圧倒的な攻撃力があり、社員に例えるなら営業のエースといったところであろうか。この金言は、能力が高く好みの駒だからと言ってそれを大切にするあまり本質を見失って勝負に負けてしまうことを諫めたものである。労務の現場でも、仕事のできる人や上司の好みの人が可愛がられ、本人は正当に評価しているつもりでも周囲の目には「えこひいき」と映り不評を買ってしまうことは起こりがちである。自社の評価基準やその方法について適切に運用できているであろうか。

最後に、将棋の面白さの一つに「取った相手の駒を自分のものとして使える」というルールがある。駒を取られた側からすると、さっきまで自分の味方だった駒が今度は敵として襲い掛かってくるということになる。これは現実の人材流出の構図に似ている。昨日まで自社の社員だった人が退職後今度は他社の社員として活躍するのである。自社が弱まり、他社が強くなるわけである。人材の企業外への流出は単なる人員のマイナスにとどまらないことが良く分かる。

このことからも、人手不足対策の第一歩は人材流出を防止することであると言えよう。「先ず隗より始めよ」の故事にもあるように、先ずは自社の人材マネジメントの現状について冷静に、客観的に見直してみると良いかもしれない。その際には焦らず丁寧に実施したい。でなければ、桂馬の高跳び歩の餌食、である。
出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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