12月1日に2015年新卒採用が本格的に解禁となったばかりではあるが、2016年新卒採用について考えてみたい。
新スケジュールが採用時期の自由化の引き金に

 ご存知のように、政府提言に端を発した採用スケジュールの見直しは、経団連が「採用選考に関する指針」という形でその意向を受け入れたことから、広報開始時期および選考開始時期の変更が行われることとなった。広報開始が現在の3年生12月から3月へ、選考開始が4年生4月から8月へ繰り下げとなるものの、内定開始日は現在の10月1日がそのまま継続される。選考期間は、これまでの6カ月から2カ月に大幅に短縮されることになる。さらに8月は多くの企業において夏季休暇期間にあたるため、実質選考期間はさらに短くなるわけである。
 
 HR調査総合研究所が、今年9月末に企業の新卒採用担当者を対象にして、「2016年新卒採用の選考をいつから開始することになると思うか」というアンケート調査を実施したところ、驚くべき結果が表れた。ただし、あくまでもその時点での予測という範囲に止まるのことはご留意いただきたい。
 最も多かった回答は「8月」であるものの、わずか29%と3割にも満たない。「9月以降」とする回答の6%を合せても35%と3分の1に過ぎない。「8月」との回答の中には、「表向き」あるいは「とりあえずは8月」としながらも、状況次第では前倒しになる企業が含まれるだろうから、実質的には選考開始を「8月」以降とする企業は3割に到底及ばないと推測される。では、それ以外で最も多かった時期はいつだろうか。それは、現在のスケジュールが選考開始とする「4月」で28%に及ぶ。さらに驚くべきは、「3月以前」に開始すると回答した企業が25%もあることだ。4社に1社が「3月以前」に選考を開始することになると考えているのである。実際にこれらの時期に多くの企業で選考が開始されれば、「4月以降」としていた企業の中にも追随する企業は当然現れるだろうから、さらにその数は増えることになる。
 回答内容を企業規模別にみても、決して中堅・中小企業だけがそう答えているわけではない。1000人以上の大企業においても大差はない。それどころか、大手非メーカーに限ってみれば、「3月以前」が38%と4割近くもあり、「8月以降」はなんとわずか13%しかないのである。

 現在の「倫理憲章」でも、大企業において選考開始の「4月」が完全に守られているわけではない。そうでなければ4月1日に大手企業から内々定をもらう学生がこれだけ続出するなんてことはあり得ない話である。ただし、「4月1日」がひとつの歯止めになっていることは事実である。たが、今回の調査結果を見るに「8月1日」は歯止めになるどころか、選考開始日を有名無実化してしまうことになりそうである。

 かつて、「就職協定」が存在していた時代に、「Xデー」という言葉があった。今のようにネット(WEBやメール)や携帯電話が普及しておらず、学生との連絡手段は固定電話しかないような時代である。各企業(リクルーター)は毎晩のように応募学生(資料請求学生)に連絡を取り、他社からの連絡内容などを探りながら、動き出すタイミングを計っていたのである。歯止めがなくなろうとしている2016年新卒採用では、この「Xデー」が復活しそうな雲行きである。かつてと大きな違いは、ネットと携帯電話の普及により、「Xデー」はその日のうちに、いや数時間もかからないうちにその情報は拡散し、一斉に企業が選考活動に突入することになるということである。
 今さらであるが、新スケジュールはいったい誰にメリットをもたらすものなのだろうか。

HR総合調査研究所 主任研究員 松岡仁

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