在宅勤務を導入する企業が「テレワーク就業規則」、「在宅勤務規程」を作る場合の着眼点

令和3年1月、東京都をはじめとする11都府県に対し、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が発出された。本緊急事態宣言では、対象地域の企業に対し、テレワークや在宅勤務への勤務体系変更によって、出勤者数を7割削減することが強力に要請されている。ところで、各企業が従業員に在宅勤務を命じるに当たり、「就業規則」や「在宅勤務規程」などの整備は行われているのだろうか。

在宅勤務に関する「新たな就業規則」や「規程」は必要か

現在、厚生労働省がウェブサイト上で公開している「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜」では、在宅勤務に関する就業規則などの必要性について、次のように説明している。

通常勤務とテレワーク(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。

しかし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合は、就業規則の変更が必要となります。

厚生労働省「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜」より


この説明によれば、「テレワーク・在宅勤務」と「職場に出勤する通常勤務」とで、労働条件がまったく変わらないのであれば、新たに在宅勤務に関する就業規則・規程を整備する必要はない、ということになる。厚生労働省のモデル就業規則 第8条には「従業員を採用した後、企業が業務上の理由から、就業場所や従事する業務を変更することは、変更がない旨の特別な合意がない限り可能である」との考え方が記載されている。そのため、完全に同じ労働条件であれば、企業は「テレワーク・在宅勤務」に関する就業規則や規程を整備しなくても、現行の就業規則のままで従業員に在宅勤務を命じられる、と考えられている。

しかしながら、「テレワーク・在宅勤務」と「通常勤務」とでは、執務環境に大きな相違がある。そのため、自社のテレワーク・在宅勤務の内容に応じた「就業規則」や「規程」を整備しておいた方が、想定外の従業員トラブルを回避しやすくなる。

したがって、現行の就業規則の「適用範囲」の項に、「従業員の在宅勤務に関する事項については、この規則に定めるもののほか、別に定めるところによる」といった「委任規定」を入れておき、別途、テレワーク・在宅勤務の詳細を定めた「在宅勤務規程」を作成するのが好ましいといえよう。

「在宅勤務規程」の作成で注意したい5つのポイント

前述の通り、現行の就業規則に「委任規定」を加えた後は、自社の在宅勤務の内容に則した「テレワーク・在宅勤務規程」を作成することになる。規程の作成にあたって、注意点は多数あるが、特に注意しておくべきことは次の5点である。

(1)在宅勤務の対象者
先に紹介した厚生労働省の「テレワークモデル就業規則」では、在宅勤務を行う対象者を「在宅勤務を希望する者」としている。しかしながら、このような定めを置いた場合、「希望しない従業員には在宅勤務をさせられない」ということになる。したがって、在宅勤務規程の対象者の項には、「会社は従業員に対し、業務上の必要により、在宅勤務を命ずることができる」という内容の定めを入れ、企業側が従業員に在宅勤務を命じられる仕組みにしておくことが重要である。 

(2)通勤手当
通勤手当については、一般的に、定期代相当額を毎月定額で支給する企業が多いだろう。しかしながら、在宅勤務で出社回数が減少した場合、定期代相当額を定額で支給する必要がなくなるケースも発生する。したがって、テレワーク・在宅勤務の日数が多い従業員については、定期代相当額に代えて「実際に通勤に要する交通費」を支給する方法を検討したい。例えば、「在宅勤務日数が週〇日以上の場合は、交通費の実費を事後清算し、支給する」と定めることが考えられる。

(3)費用負担
テレワーク・在宅勤務で使用するパソコン・プリンター・携帯電話・スマートフォンなどの購入費用や、勤務中に発生するインターネットの通信費、電話料金、水道光熱費、消耗品費などについて、企業側、及び従業員側がそれぞれどの程度負担するのかを、あらかじめ決めておくことが重要である。また、これらの費用について従業員に一定程度の負担を求める場合に、その代替として「在宅勤務手当」などを支給するのであれば、その点についても定めておかなければならない。

(4)報告義務
テレワーク・在宅勤務では勤務の開始と終了の時刻を確認し、従業員の日々の労働時間を把握することが必要となる。そのため、例えば在宅勤務の開始・終了時に直属の上席者に対するメール連絡を義務付ける、パソコンの使用時間・勤怠管理システム・ウェブ会議システム・チャットアプリなどを活用して労働時間を管理するなどのルール作りをしておく。また、定期的な業務報告・緊急時の連絡体制などについても定めておくとよい。

(5)服務規律
「テレワーク・在宅勤務独自の服務規律」が必要である。例えば、「在宅勤務中は業務に専念すること」、「自宅以外の場所で業務を行わないこと」、「業務資料のコピー、第三者閲覧、自宅外への持ち出しをしないこと」など、情報の取り扱いに関する規定は重要だ。また、パソコンなどの機器を企業側が貸与する場合には、「貸与を受けた機器以外を業務に使用しないこと」、「貸与を受けた機器に新たなアプリケーションをインストールしないこと」など、使用上の禁止事項もルール化する必要があるだろう。

現行の就業規則の変更と、テレワーク・在宅勤務規程の作成が終了したら、管轄の労働基準監督署へ届け出が必要となる。従業員代表の意見書を添付し、忘れずに届け出るようにしたい。



大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net